ERPの本質を知る

SAP専門家が分析「日本企業がERP導入にてこずる5つの理由」

本連載では、SAPのコンサルタントが企業の基幹システム・ERPシステムに絞って課題と取りうる対策を明確化します。連載1回目は、日本企業がERPで成功するために解決すべき5つの課題を整理します。

 コロナ禍で明るみに出た「日本のIT化の決定的な遅れ」に伴い、「日本の競争力低下」や「日本企業の生産性の低さ」が問題提起されるようになりました。一体、何が原因なのでしょうか。

 ただ、あまり総論や一般論ばかりの具体性の無い話をしても進展がありません。そこで本連載では、企業の基幹システムおよびERPシステムに絞って、日本企業の課題や取りうる対策を明確にします。

 基幹システムやERPは同じ価格で購入しても、取り組み方の違いで価値に大きな差が出ます。しかし、効果が出なくても一朝一夕で入れ替えられません。生産性や時価総額といった企業価値に深く関連するテーマですので、本連載が日本企業のグローバル競争力向上の一助になればと思います。

 最初に、日本におけるERPがグローバルと比べて特徴的な点を述べます。そして本稿のテーマである、日本企業がERPで成功するために解決すべき5つの課題を整理します。

著者プロフィール:木下史朗(SAPジャパン カスタマーサクセスパートナー)

 日系製メーカー・外資系メーカーを経て2000年にSAP入社。SAPジャパンでコンサルタント、プロジェクトマネージャー、新規事業開発に携わる。2011年よりSAPグローバルチームに異動し、オンプレミス顧客のアップグレード&サポートプログラム推進役。2016年よりSAPアジアパシフィックジャパンチームに異動し、SAP顧客のクラウド移行プログラムの推進役として現在に至る。

Twitter : @shirohpossible

本質に気付かず進んだ日本のERP

 1990年代後半、「ホストシステムからクライアント・サーバ型システムへの軽量化」「YYMMDD日付表示システムの西暦2000年表示への移行」などをきっかけに、日本でERPの採用事例が増え始めました。また、スクラッチシステムの積み重ねでスパゲティ化し、変革の障害になっているシステムを刷新する動きが相次ぎ、ERPに取り組む企業が増えました。

 この時、ERPの本質に気が付いていた日本のIT関係者や経営者は少なかったでしょう。当時ERPの意義として語られた「全体最適化」「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」なども、IT改革や業務改革目線で語られる事が多かったかも知れません。

 一方、一部の日本の経営者は欧州のビジネスの現場で、ERPが経営に与える威力を実感し本質に気が付いた上で導入を進めました。「日々の経営判断に必要な情報がなぜこれだけすぐ手に入るのか」と、何度も質問を繰り返した先にERPがあったそうです。ERPの本質に早く気付き、今までのシステム導入とは違う、トップダウン・アプローチでプロジェクトを成功させたITトップもいます。ERPは「経営を変える」「企業の競争力を変える」という本質に早く気付いたユーザー企業ほど、SAPのシステムで成功をおさめ成果を出すのが早かったように見えます。

 さまざまな角度からERPの浸透が始まったものの、「ERPの本質」「経営へのパラダイムシフト」に気付くのに時間がかかったのが日本の特徴だと思います。2000年を超えて徐々に経営効果がユーザー企業で語られるようになり、初めてその威力を実感したのだと思います。

グランドデザインから進んだ欧米のERP

 SAPジャパンは1992年に日本で設立されましたが、少し早い1980年代にはERPの土壌はできつつあったように思います。SAPは1980年代、クライアント・サーバ型ではなくホストで動くERP「SAP R/2」をリリースしました。

 2000年代になると、名だたる欧米企業がグローバルオペレーションでERPの統一化・標準化を進め始め、いかにシンプルなITランドスケープを実現するかどうかを競いました。韓国や中国、インドなど日本より後にERPが普及し始めた国でも、日本の事例ではなく欧米モデルへの追随が始まりました。

 欧米人は日本人と比べてコンセプトやグランドデザインの話を好みます。「日本人は具体的な話や詳細な話が好きですね」と、私もよく欧米人には言われました。延々とコンセプトの議論をしても飽きない欧米人を見て、外資系企業に就職した当初の私は文化の違いを感じたものです。ERPのようなグランドデザインが重要なテーマは、欧米人がいち早く本質に気が付いたため、日本とはスタートから差が出たのかも知れません。

日本企業がERPで成功するため解決すべき5つの課題

 日本と欧米のERPの捉え方の違いについての長い前置きから入りました。以降は、これらの影響により生まれた問題が、今の日本企業の前にどういった形で横たわっているのか、5つの課題に分けて整理します。

課題1:複雑なシステムランドスケープ

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オンプレERPをクラウドシフト

SAPのコンサルタントが企業の基幹システム・ERPシステムに絞って課題と取りうる対策を明確化します。

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