「完璧な議事録」が仕事を遅くする 中小企業AI活用協会の専門家に聞く議事録AIの効果的な使い方

「議事録AI」の利用場面や範囲は、企業によって異なる。現場に定着させ、業務を加速させるためにはどうすれば良いのか。議事録AIの活用法と運用ルール見直しのポイントを、中小企業AI活用協会の代表理事に聞いた。

 キーマンズネットのアンケート調査(実施期間:2026年4月2~10日、回答件数:180件)では、回答者の約7割が、勤務先で議事録AIを導入または試行していると回答した。その131人のうち、「ほぼ全ての会議で利用」は30.5%で、「重要な会議のみ利用」「たまに利用」もそれぞれ約3割だった。議事録AIを使う会議の範囲は、企業によってばらつきがある。

 全ての会議で使えばよいわけではない。議事録AIを現場に定着させ、効果を発揮させるにはどのように運用すれば良いのか、記録の確認・修正の負担を減らし、会議後の仕事につなげる工夫について、中小企業のAI活用を支援する、中小企業AI活用協会の飯田剛弘氏(代表理事)に聞いた。

一般社団法人中小企業AI活用協会 代表理事 飯田剛弘氏

 IT企業でのマーケティング、外資系製造企業でのアジア太平洋地域マーケティング責任者を経て、2020年にビジネスファイターズを設立。AI活用アドバイザー・AI戦略顧問として、AI導入の構想づくりから業務改善、現場定着までを支援し、官公庁・企業・団体を対象に年間100回以上の研修・講演を行う。中小企業基盤整備機構 経営アドバイザー。著書に『日常業務をAIパートナーにまるっと任せる本』(共著、日刊工業新聞社)など8冊。

「議事録はあくまでも手段」 真の目的は「次の行動」に速やかにつなげること

 議事録AIを効果的に活用するための最初の一歩は、導入の前に「自社が議事録に何を求めているのか」を明確にすることだ。議事録はあくまでも手段にすぎず、作って終わりにしてはならない。会議での議論の内容や、誰が、何を、いつやるのかといった決定事項を関係者間で共有し、次の行動を促すことが目的となる。

 飯田氏は、「生成AIを使って、議事録の作成時間が減るのはもちろん大事な効果ですが、それよりも価値があるのは、次の行動へ移るスピードが上がったか、実際に実行できたかといった点です」と語る。

 議事録を取った後、それを次の行動につなげることに焦点を当てなければ、議事録作成という手段が目的化してしまう。その結果、体裁を整えるだけの過剰な手直しに時間を取られ、それが本来の業務を圧迫するほどの負担となり、やがて現場で議事録AIが使われなくなってしまう。

「きれいな議事録」への過度なこだわりが生産性を下げる

 議事録AIを導入したのに、手間が増えてしまった。そんな「議事録AIのワナ」に陥らないための鍵は、会議の「仕分け」にあるという。飯田氏は「全ての会議で同じ粒度の議事録を作り、一字一句整えようとすると、かえって負担が増える」と指摘する。議事録を残すべき会議と、そうでない会議をどう見極めればいいのだろうか。

 進捗(しんちょく)や連絡事項が既存の管理表で共有され、追加の決定や課題がない会議であれば、同じ内容を別の議事録に作り直す必要はない。一方で、現場の困り事を相談したり、仕事上のアドバイスを受けたりする会議や打ち合わせは、積極的に議事録を残すべきだ。これらの内容を記録しておけば、業務のノウハウをマニュアルや手順書に反映するための元データとなる。

 マニュアルや手順書を作る際も、議事録と同様に「きれいな文書を完成させること」が目的になりがちだ。しかし、本来の目的は属人化をなくし、誰もが業務をこなせるようにすることにある。わざわざ大掛かりな資料作成の手間をかけなくても、日頃のちょっとした相談事や質問をテキスト化していくことが、個人の頭の中だけにあるノウハウを可視化する出発点になるという。

 とはいえ、いざ現場に議事録AIを定着させようとしても、文字起こしの精度に不満を感じて議事録AIの利用をやめてしまったり、手直しに多くの時間を費やしたりしているユーザーは多い。この問題にはどう対処すべきか。

 必要なのは、「どの会議でも一字一句を整える」という考えを捨てることだ。意味に影響しない誤字や言いよどみまで、絶対直さなければいけないと思わなくていい。むしろ、数字や日付、商品名、固有名詞に加え、担当者と期限、提案と決定の区別、条件や否定の抜け落ちは重点的に確認することが大切。AIは話の一部を落としたり、話されていない内容を推測で補ったりすることがあるためだ。直すべき箇所とそうでない箇所を見極め、AIの出力は下書きとして、人が重要事項を確認して正式な記録にすることが重要だ。

 例えば営業会議では、文字起こしから決定事項、未決事項、次の作業、担当者、期限をAIに抽出させる。文字起こしにない情報は推測で埋めず「記載なし」とするよう指示し、人が確認した後、普段のタスク管理表や共有文へ変換する。その代わり、同じ内容を別形式で清書し直す作業は見直す。

 そして気を付けるべきは、議事録AIの精度を高めるために設ける社内ルールを、現場の実態に即した無理のないものにすることだ。例えば「発言の前に名乗る」というルールは、複数人でマイクを共有するなど、発言者を特定しにくい場面では補助になる。一方、オンライン会議に各自が自分の端末から参加する場合など、話者名が正しく記録される環境で毎回名乗ることを一律に求めるのは過剰であり、かえって議論の妨げとなる。会議の目的や形式、録音環境に応じて、ルールの運用に柔軟性を持たせたい。

 「精度を高めるには、会議進行の基本をきちんとやることが大切です。冒頭で会議の目的を伝え、最後に今日話したポイントや、誰が何をいつまでにするのかといった決定事項を確認する。そうすれば参加者も次の行動に移りやすくなりますし、AIも議事録を作りやすくなります」と飯田氏は話す。

 また、議事録AIを利用する際には、機密情報の取り扱いやセキュリティのルールを整える必要がある。既存の情報セキュリティ規定があれば、それを土台にAIの利用条件を組み込む。規定が未整備の企業も、会社が承認するツール・アカウント、その環境で扱ってよい情報、共有範囲や保存期間、迷った場合の相談先を決めておきたい。個人情報やNDA(秘密保持契約)の対象情報などは、契約内容やサービスの利用条件を確認して判断する。録音やAI処理については参加者へ事前に説明し、特に社外の参加者がいる場合は了承を得ておく。現場向けには要点を一枚にまとめ、「利用可・要確認・利用不可」を簡潔に示す。禁止事項に該当しないという理由だけで、未承認のツールに社内情報を入力してよいわけではない。

議事録AI、結局どう選べばいいの?

 では議事録AIをどう選べばいいのか。飯田氏は、選定する際に機能一覧の細かな比較から入るべきではないとする。まずは議事録AIに何をさせるかを考える必要がある。

 単に会議の記録を残すだけなら、「Microsoft Teams」や「Zoom」などのオンライン会議サービスに備わる文字起こし機能や、議事録作成に特化した専用のAIツールが適しているかもしれない。一方で、文字起こしにとどまらず、AIに論点整理をさせたり、タスク表や成果物の作成まで指示したりするのなら、「Microsoft Copilot」や「Google Gemini」「ChatGPT」といったチャット型生成AIの活用や併用も選択肢となる。会議ツールにAI機能が組み込まれている場合もあり、記録と要点整理、タスク抽出を同じ環境で行えることもある。使える機能は契約プランや管理者設定で変わるため、まずは自社の環境を確認したい。議事録AIにどのような役割を求めるのかを明確にすることが不可欠となる。

 文字起こしを別のAIへ入力する場合も、会社が承認した環境を使い、学習利用の有無(入力した内容がAIの学習に使われないか)、保存・共有の条件、社内規定や契約上の持ち出し可否を確認する。

 会社標準の議事録AIが現場で使いにくいと判断されてしまえば、会社が承認していないAIを業務で使う「シャドーAI」につながる可能性がある。これを防ぐには現場の意見を広く取り入れるべきだという声もあるが、そうした場合でも「きれいな解決は難しい」と飯田氏は指摘する。全てのユーザーを完璧に満足させる100点満点のツールなど存在しないからだ。

 組織全体で議事録AIの活用を推進していくためには、現場の使い勝手を踏まえつつ、会社としてツール導入の方針を明確に示すことが肝要だ。ツール選定で重要なのは、組織としての合格基準に達しているかどうかだ。

 「現場から『文字起こし精度が高い別のツールを使いたい』という声が挙がる上がるかもしれません。しかし、重要事項を確認でき、修正の手間を含めて実務に使える水準を満たすなら、他の業務との連携や管理のしやすさも踏まえて『まずは標準ツールを使おう』と方針を示すことが大事です」(飯田氏)

 標準ツールが業務に必要な水準を満たさない場合は、使い方を見直し、承認手続きを経た代替ツールも検討する。利用申請を分かりやすくし、少人数のチームでも使いやすい運用と相談先を用意したい。

 議事録AIの導入では、無用な「完璧主義」に陥らないことに気を付けねばならない。「次の行動に迅速につなげる」という本来の目的を忘れると、必要以上に文字起こしの体裁を整えようとしたり、それを実現できるツールに固執したりと、新たな価値を生まない部分最適に走ってしまう。本来の目的を見失わずにツールを選定し、運用していくことが重要だ。

効果が出る会社・出ない会社はどこに差があるのか

 それでは、このように環境を整えてツールを導入した後、効果が出る会社と出ない会社の差はどこで生まれるのだろうか。効果が出るかどうかの分かれ目は、AIで議事録を作って終わりにするのではなく、その結果を次の行動につなげられるかにある。例えば、確認・修正を含む議事録の作成時間を1時間から10分に短縮できたとすれば、生まれた50分をどのように生かすかが問われるのだ。

 「リーダーは、作業時間の短縮によって生まれた時間を、次に何へ使うのかをきちんと示す必要があります。単に作業時間を減らして満足するのではなく、その時間を活用して新たな価値を生む行動を促すのです。端的に言えば、次の行動へ移るスピードが上がり、成果につながる行動が増えることが重要です」(飯田氏)

 次の行動を早めるためには、会議中にAIをアシスタントとして活用することなどが手段として挙げられる。例えば、ある事柄に関してリスクを指摘する意見が出た場合、その場でAIにリスク候補を洗い出させ、参加者が確認して対応策を協議する。判断材料がそろっている事項はその場で決め、不足があれば追加確認の担当者と期限を決める。AIの提案と人の決定を区別することで、不必要な持ち帰りを減らし、次の行動を早められる。

 そして、現場に議事録AIを定着させるには、早い段階での成功体験が鍵となる。まずは開催頻度が高く、案件ごとの対応や依頼事項が話し合われ、議事録の作成に手間がかかる定例の営業会議などを1つ選び、ツールを導入してみよう。確認・修正を含む作業時間を1回の会議で数分でも短縮できれば、累計でその効果を実感しやすくなる。「これなら使える」という成功体験が現場を後押しし、さらなる活用へとつながっていく。

 特に、意思決定者が会議に同席していることの多い中小企業では、その場で判断して動ける強みを生かせる。例えば、議論が一段落した時点で、そこまでの記録を基にAIに成果物のたたき台を作らせ、その結果を見て再び議論に戻るといった具合だ。会議の終わりには成果物のたたき台ができている状態を目指すことで、持ち帰って資料を作り直す手間を減らし、次の行動へ早く移れる。AIの出力を基に決めた事項も、記録に残しておく。

 このように、AIを「次の行動を早くする武器」として使うのならば、必要な情報がそろっていれば、従来の議事録の体裁にこだわる必要はない。ただし、法令や契約などで記録の要件が定められている場合は、それに従う。

 「カッチリとした議事録の体裁になっていなくても、議論の要点と担当と期限の入ったToDoのリストさえあれば十分でしょう。これまで『念のため』と慣習的に実施していた情報共有の会議についても、その必要性を疑うべきです。それよりも、会議に基づいた行動を早く起こすことのほうが重要です」(飯田氏)

 議事録AIは、単なる文字起こしツールではない。人による重要事項の確認を前提に、会議の内容を素早く可視化し、次の行動を加速させる推進力である。「仕事が回る会社」にできるかどうかは、議事録AIの導入を機に仕事の進め方そのものを変革できるかどうかにかかっている。

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