デキるプログラマーほど「AI任せ」を嫌う、エージェント型開発のちょっと怖い話:904th Lap
AIに実装を任せ、コードもテストも自動で進む「エージェント型開発」。効率化への期待が高まる一方、経験豊富な開発者ほど導入に慎重だ。コードが動けばそれでいい、とはいかないらしい。彼らが警戒するのは、動作確認だけでは分からない、その先のリスクだ。
AIにプログラムの実装を任せる「エージェント型開発」。人間が目的や条件を伝えると、AIエージェントがコードを書き、テストを実行し、その結果を基に修正する。コードの一部を補助する使い方から、開発作業全体を任せる使い方へと、AIの活用範囲は広がっている。
人間がコードを書く手間を減らせるうえ、勤務時間外もAIが作業を進めてくれる。開発者にとっては、まさに願ってもない話に思える。ところが、こうした開発手法への移行に慎重な人たちがいる。しかも、新しい技術に詳しく、経験も豊富な「デキる開発者」ほど警戒しているというから面白い。
AIが生成したコードは動いた。テストも通った。それなら本番に投入して問題ない。経験豊富な開発者ほど、そこで簡単にゴーサインを出さないという。開発現場を知る人たちが見ているのは、目の前の動作確認だけでは分からない、もっと厄介な、その先の話だ。
エージェント型開発に慎重な姿勢を見せる開発者もいる。コードを書く楽しみが失われるからか、それとも仕事を奪われることへの不安からか。そうした見方もあるが、それだけでは説明できない理由があるようだ。
この問題について、ITコンサルティング・ソフトウェア開発企業ThoughtworksのCTO、レイチェル・レイコック氏は2026年10月29日、マーティン・ファウラー氏のWebサイトに「Why are good developers so wary of agentic development?」(優秀な開発者は、なぜエージェント型開発をこれほど警戒するのか)という記事を公開した。
レイコック氏によると、経験豊富な開発者が大切にしているのは、長年の実務を通じて培った判断力だ。開発段階で動くものを作ることと、本番環境で安定稼働し、継続的に保守できるものを作ることには大きな隔たりがある。開発者が慎重になるのは、その違いを熟知しているからだという。
レイコック氏は、AIを開発に活用することと、開発作業を全面的に任せることは別物だと言う。記事で紹介された開発者らは、AIの利用自体に抵抗しているわけではない。AIエージェントに自律的に作業させながら、十分な品質を維持できるか確信を持てないのだ。
記事では、同社の欧州地域CTO、ジャイルズ・アレキサンダー氏が、熟練エンジニアやインフラコンサルタント、プロダクト担当者を集めて実施した実験を紹介している。1週間にわたる実験では、人間はコードを書かず、実装を全てエージェントに任せた。目的は、短期間でアプリケーションを完成させることではなく、実装をエージェントに委ねたとき、人間の仕事がどう変わるかを検証することだ。
実験で人間が多くの時間を費やしたのは、ホワイトボードを使った議論や検討だった。対象業務への理解を深め、システムの境界を定め、次の作業を決めて、エージェントが実行できる計画に落とし込む。その間もエージェントはコードを生成し、人間の勤務時間外も作業を続けていたという。
人間が担ったもう一つの重要な仕事は、生成された成果物を検証する仕組みの設計だ。テストやシステム間の取り決め、設計ルールのチェック、変更の検証からリリースまでの工程などを整備した。キーボードに向かう作業の多くも、こうした検討で得た知見を、エージェントの実行や検証を支える仕組みに反映するための指示だった。参加者の概算では、作業時間の約3分の2をホワイトボードでの検討に、残りの約3分の1を検証の仕組みづくりに費やしたという。
ただし、アプリケーション自体は動作したものの、ビルドは頻繁に失敗し、エラーを表す「赤」の状態になった。ビルドとは、コードから実行可能なプログラムを生成し、動作を検証する工程だ。個々の開発者のマシンでは動作しても、チーム全体で変更を統合し、正常に動作するかを確認する工程は安定していなかった。
こうした失敗が常態化し、開発者が気に留めなくなれば、本来対処すべき異常を見落とす恐れがある。レイコック氏は、複数のエージェントによる変更の干渉、作業分担を考慮したシステム分割の不備、検証が追い付かないほどの変更の投入などを原因の可能性として挙げる。ただし、実際の原因は特定していない。実験はチームを変えて2回実施されたが、短期間で全ての問題を解消するには至らなかったという。
レイコック氏は、開発者の慎重さをスキーに例えて説明している。子どもが怖がらずに斜面を滑る一方、大人になって初めてスキーをする人は、転倒やけがのリスクを想像して慎重になる。開発者も同様に、本番環境での障害対応を経験しているからこそ、起こり得る問題を予測し、慎重に判断するというわけだ。
ただし、レイコック氏の草稿を読んだファウラー氏は、この比喩には違いがあると指摘したという。整備されたスキー場なら、多くの人が安全に滑っており、指導者も必要な技術や教え方を知っている。一方、現在のエージェント型開発は、未知の雪山を滑るバックカントリーに近い。どの技術が重要なのか、安全に進むにはどうすればよいのかも、まだ十分に分かっていない。経験豊富な開発者は、初心者コースを怖がっているのではない。進むべき道が見えない状況で、その方向性を問いかけているのだ。だからこそ慎重になる、という。
これを踏まえ、レイコック氏は、エージェントを多用したシステムの実用性は、本番環境で一定期間稼働させ、複数回の変更を経て初めて判断できると指摘する。エージェントでシステムを構築することと、本番環境で安定稼働させることは同じではないと強調している。
その上で同氏は、経験豊富で慎重な開発者こそ、AIエージェント型開発の道筋を描くチームに加わるべきだと主張する。リーダーには、開発者の声に耳を傾け、有益な懸念と単なる変化への抵抗を見極め、実験できる環境を整えることが求められる。また、十分な時間を与えて失敗を許容し、エージェントが生成したコードの量だけで成功を判断しないことも重要だ。開発者自身も、これまでの経験を実験に生かし、従来の前提が通用しなくなる可能性に備える必要があるという。
AIエージェント型開発によって、コード生成の効率化が期待されている。だが、本番環境での信頼性を確保する責任は人間にある。そこに、優秀な開発者がエージェント型開発を警戒する大きな理由がある。レイコック氏は、新たな開発スタイルを確立する上で、経験に裏打ちされた慎重な判断力こそが不可欠だと結論付ける。
上司X: AIエージェントに開発を任せることに、経験豊富な開発者が慎重になる理由を考えたという話だよ。
ブラックピット: 新しい道具を積極的に使ってきた人でも、全部任せるとなると話が変わるんですね。
上司X: ああ。AIに手伝ってもらうことと、作業の実行を全面的に委ねることでは、確かめるべきことも変わってくるからな。
ブラックピット: 必ずしもAIエージェント開発に反対しているわけではないんですよね。AIエージェントに任せる範囲が広くなるほど、人間の確認が大切になりますものね。
上司X: ただ手元で動くからヨシ、というわけでもない。本番運用で稼働することを確認しながら、修正や変更に対応できることも重要なわけだ。
ブラックピット: そういう確認をどう実行するかも課題になりそうですねえ。
上司X: ああ。とにかく、AIエージェント型開発を拒みがちな開発者というのは、本番運用での確実な動作について確実性を追求したいからこそ慎重になるということのようだ。
ブラックピット: AIエージェント開発を推進するなら、リーダーの人の能力も重要だという話ですよ! リーダーとしてどう思いますか?(ニヤニヤ)
上司X: なんだその煽りは(苦笑)。まあ俺もまだ本格的なAIエージェント型のプロジェクトを進めたことはないからな。今回のこの話を聞いて、肝に銘じておくことにするよ。開発者の経験こそ宝だ。それはAI時代の今も変わらないってことだな。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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