176自治体にAI「zevo」を広げた都城市 ツール導入前にやるべき「アナログ改革」の極意を聞く
行政DXの推進やマイナンバーカードの普及などで知られる宮崎県都城市。同市が開発に関わった生成AIプラットフォーム「自治体AI zevo」を導入した自治体数は、2026年10月時点で176に上る。迅速なAI改革の背景には何があるのか。
都城市は2019年、国の「自治体DX推進計画」に先行する形で「デジタル化推進宣言」を発出した。2021年には池田宜永市長が自らCDO(最高デジタル責任者)、2025年9月にはCAIO(最高AI責任者)に就任し、2026年8月には「都城AX(AIトランスフォーメーション)推進宣言」を発表するなど、同市の勢いは増すばかりだ。
一方で佐藤泰格氏(デジタル統括課副課長)は、「変革の際、人は生成AIよりも早口で『できない理由』を話します」と指摘する。
多くの自治体が行政ならではの壁に直面する中で、なぜ都城市はこれほどのスピードで変革を続けていけるのか。佐藤氏に話を聞いた。
176自治体が使う「自治体AI zevo」はどうして生まれたか
都城市が2023年ごろに生成AIの導入へ動いた背景には、深刻な職員不足と多様化・高度化する住民ニーズへの危機感があった。佐藤氏は、「給付金支給など国の制度変更の最前線に立つ自治体で、業務量の増加に対して職員数を増やせない課題を解決するため、積極的なAI活用が不可欠だと判断しました」と当時を振り返る。
都城市は、官民共創の「都城市DXチャレンジプロジェクト」を通じ、パートナー企業であるシフトプラスからの提案を受け、LGWAN環境で安全に使える「自治体AI zevo」(以下、zevo)を共同開発した。
zevoをはじめとする従量課金制の生成AIプラットフォーム運用において、特に意識すべきなのがコスト管理だ。リスクを防ぎつつ生成AI利用の効果を最大化する目的で、都城市ではモデルの貸出制やログの抽出チェックといった工夫をしている。こうした運用スタイルについて佐藤氏は、「職員のコスト意識は、恐らく他のどの自治体よりも高いと自負しています」と語る。
「AIは便利ですが、利用によって無駄な仕事が増えてしまっては本末転倒です。『そもそもこの業務自体が必要なのか』という問題意識を持ちながら運用しています」(佐藤氏)
ツールを導入する前にすべき「アナログ改革」とは
高いコスト意識の背景にあるのが、都城市が掲げる「アナログ改革を前提としたデジタル化」の推進だ。その一環として、同市は2024年2月、本庁舎に「書かないワンストップ窓口」を導入し、市民の負担を軽減させた。
業務の効率化を目的としてデジタルツールを導入したものの、対人業務が多い窓口業務では思うように活用されないと悩む自治体もある。それに対し、佐藤氏は「業務が複雑なままツールを導入しても成果は出ない」と断言する。
「都城市ではツールを入れる前に、まず既存の規則や慣習を見直し、不要な手続きを削っています。子ども医療受給者証の変更手続きでは、申請用紙から住所欄をなくしました。住所欄がなければ届出も要らなくなり、条例上の規定さえ不要になります。このように、業務をシンプルにした上でツールや仕組みを適用しています」(佐藤氏)
佐藤氏によると、同市は「やめる決断をするのは管理職」といった方針の下、窓口業務の他にも「デジタル化推進計画」の実施計画を「総合計画」へ統合して二重管理を解消した。AIの台頭で利用が減ったプログラミング教室を廃止して職員の負荷を減らしたという。
都城市では、書かないワンストップ窓口の開設後、市民課や行政改革部署、デジタル統括課による毎月2回、各2時間の定例会を開いており、これまでに200件以上のアナログ改革を積み重ねてきた。「説明トークの最適化」や「業務不要論の壁打ち」はそのうちの一部だ。
説明トークの最適化
窓口で職員が市民に説明している音声と資料をAIに読み込ませ、「分かりにくい点」や「もっと短く伝える方法」を指摘させる。
業務不要論の壁打ち
現場の職員が感じる「この手続きは本当に必要なのか」という疑問をAIに投げかけ、制度の見直しや手続き簡略化のためのアイデアを出す。
佐藤氏は、「窓口での対応時間を減らすことは、住民の利便性向上だけでなく、対応する職員のリソース確保に直結します」と強調する。
「都城市の強みは、AIを単なる『ツール』ではなく、『思考パートナー』として使いこなしている点にあると言えるでしょう」(佐藤氏)
都城市、「自治体AI zevo」活用状況と運用の工夫
zevoは都城市の全課で導入されており、アカウントの月間アクティブ率は100%に達している。活用範囲は、議会答弁の推敲(すいこう)から補助金申請書やプロポーザル資料の作成、簡易アプリの構築まで多岐にわたる。
導入初期には市民などから個人情報漏えいへの不安の声が寄せられたが、個人情報を入力しない運用にしていることや、万が一入力してもシステム側で自動でマスキング処理されることを丁寧に説明して、庁内外の理解を得た。
zevoは2026年10月時点で全国176の自治体に導入され、自治体同士でノウハウを共有し合うユーザーコミュニティーの運営も開始されている。
全庁的な活用を後押ししているのが、プロンプトテンプレートとモデル使い分けの仕組みだ。構造化データの処理には「ChatGPT」、文字読み取りや画像認識には「Gemini」、自然な日本語文章の作成には「Claude」といったように、あらかじめテンプレートに最適な生成AIモデルを組み込んでいる。これによって、職員はモデル選定を意識することなく最適なAIを使い分けられる。
さらに、2026年7月からは「iJAMP RAG」の運用も開始された。時事通信社の官庁速報「iJAMP」とzevoを連携させることで、全国の自治体事例や最新の行政情報を反映した企画書や議会答弁書を効率的に作成できるようになった。
記事前半でも記載したように、zevoをはじめとする従量課金制の生成AIプラットフォーム運用では、コスト管理を意識することが重要だ。zevoは、月額プランを柔軟に変更でき、議会月に利用が集中するといった行政ならではの利用実態に応じ、月末最終日でも料金プランを変更できる仕様になっている。さらに、リスクを防ぎつつ生成AI利用の効果を最大化する目的で、都城市では次のような工夫をしている。
モデルの貸出制
高コストモデルや画像生成機能は一律開放せず、国の重要な申請など高品質が求められる業務に限り事前申請制で許可している。
ログの抽出チェック
1400人の職員に対し、サンプリング抽出で利用ログを確認している。不必要な会話の継続や不適切な利用がないかを監視し、必要に応じてアカウントの停止措置や警告をしている。
デジタル活用支援として多様な研修を実施
デジタル統括課は、デジタル活用支援として職員や市民に向けた多様な研修を実施しており、職員向けのAIに関する研修は年間30回以上に上る。
「広報用のチラシを作成する研修では、AIの活用方法に加え、『色は3色まで』『フォントは多くても2種類まで』といったデザインの基礎も教えています。こうした研修を通じ、デジタル技術を使いこなすための基礎スキルの底上げを図っています」(佐藤氏)
市民向けの講座や相談会は、年間200回以上実施され、AI講座では活用事例や利用上の注意点を伝えるなど、地域全体のデジタルリテラシー向上に貢献する内容になっている。
佐藤氏によると、かつては研修に民間の講師を招いたこともあったが、行政実務から離れた内容になりがちで定着しなかったため、業務を熟知した職員による内製へ移行したという。
研修の効果を高めているのが、ターゲットを絞った「職種別・階層別」アプローチだ。
保健師や消防士、保育士といった同一職種で集まることで心理的安全性が生まれ、現場に即した活用方法が抽出されやすくなる。ここで生まれた優秀なプロンプトは、テンプレートとして全庁に共有される仕組みだ。
階層別研修では役割に応じたメニューを提供しており、管理職向けには「議会答弁の推敲」など、業務内容に即した内容が用意されている。
挑戦を阻む“壁”を越え、行政の原点に立ち返る
自治体DXにおける最大の壁は、「前例踏襲主義」や「過度なリスク回避」といった組織風土だ。佐藤氏は「変革の際、人はAIよりも早口で『できない理由』を話します」と指摘し、調整に時間をかけるよりも、「変えた方が良くなる」という正論が通る組織風土の重要性を訴える。
この組織風土を支えているのが、トップの覚悟と現場への配慮だ。都城市では、池田宜永市長が自らCDO・CAIOを務め、「しっかりと検討を重ねた上でチャレンジしてほしい。責任は自分がとる」と現場の背中を押している。一方で新たな施策の導入時には、「上からの押し付け」と感じさせないよう、デジタル統括課から直接ではなく各部署の総括担当から説明させ、現場の心理的ハードルを下げる工夫をしている。
佐藤氏は、「デジタルは目的ではなく、あくまで課題解決の手段です」と強調する。AIという強力なツールを手に入れたからこそ、重要なのは業務の見直しと現場を熟知した職員による活用だ。「住民の暮らしをより良くする」という目的に向かって現場と向き合い続ける姿勢こそが、都城市のDXを成功へと導いている。
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