「高度なAIスキル」だけではもう食えない? IT人材が答えた「これからの必須スキル」
2027年度以降、IT国家試験の大幅な刷新が予定されている。企業のIT現場はこの変化をどう見ているのか。読者調査から、制度刷新への期待と懸念、資格取得意向の変化、AI・セキュリティなど今後重視されるスキルを探る。
情報処理推進機構(IPA)は2026年6月30日、2027年度から開始を予定する新試験制度のシラバス案を公表した。情報処理技術者試験の区分の細分化に加え、試験方式や試験時間の変更など、大規模な見直しが予定されている。こうした制度刷新に対し、企業のIT現場ではどのような期待や懸念があるのだろうか。
キーマンズネットが実施した企業読者への調査「IT資格の取得に関するアンケート」(実施期間:2026年10月2日~16日、回答件数:205件)から、制度刷新への期待と懸念、資格取得意向の変化、今後重視されるスキルを基に、企業ITの現場における資格の価値と役割を考える。
2027年「IT国家試験の大改変」に現場は賛否
2027年度以降、ITパスポート試験などの出題内容変更に加え、「データマネジメント試験(仮称)」などの新設や、応用情報技術者試験・高度試験の統合・再編など、IT国家試験の大幅な見直しが予定されている。
背景には、経済産業省が掲げる「Society 5.0時代のデジタル人材育成」や「スキルベースの人材育成への転換」がある。AIやデータ活用などの新領域にも対応し、分野横断的に価値を創出できる人材の育成を目指すものだ。
こうした制度変更は現場にどの程度浸透し、どのように評価されているのだろうか。
まず、今回の試験制度刷新について認知度を調査したところ、「詳しく知っていた」が9.8%、「概要は知っていた」が27.8%。両社を合わせると、「知っていた」とする割合は37.6%。「知らなかった」は36.1%だ(図1)。
制度刷新そのものは一定程度認知されているものの、変更内容まで把握している人は限られる。制度が大きく変わることは知っていても、試験内容や資格の位置付けがどう変わるのかまでは、十分に理解されていないようだ。
制度刷新への期待度についても、こうした認知状況を踏まえて見る必要がありそうだ。「非常に期待している」(3.4%)と「ある程度期待している」(28.8%)を合わせると、「期待している」とした層は32.2%。対して、「全く期待していない」(5.9%)と「あまり期待していない」(27.9%)を合わせた「期待していない」層は33.8%となった。「内容をよく知らないため判断できない」(33.2%)も含め、評価は大きく3つに分かれる(図2)。
制度刷新に期待する理由としては、「AI・データなどニーズに合っている」「CBT化で受けやすい」といった声が挙がった。一方、期待していないとした層からは「既存資格との比較が難しくなる」「資格の難易度や価値が分かりにくくなる」といった懸念が聞かれた(図3)。
AIやデータ活用などの新領域に対応する試験制度は、実務に役立つ知識・スキルを身につけたい人にとって期待できる。一方、試験区分の再編や新設によって、既存資格との難易度や専門性の比較が難しくなり、取得した資格を社内評価や転職市場でどう生かせるのか、分かりにくくなる懸念もある。
資格は、個人のスキルを証明するとともに、企業が人材の知識や専門性を評価する指標でもある。制度刷新に当たっては、新たな試験内容だけでなく、資格が証明するスキルや旧制度との対応関係を明確に伝えることも重要だ。
現役のIT人材に聞いた「これからニーズが高まる必須スキル」
前編で紹介した「読者が保有している資格」では、「基本情報技術者」「ITパスポート試験」「応用情報技術者」が上位に挙がった。一方、今後取得したい資格では、セキュリティやクラウド、AIなどの専門領域が注目されている。こうした動向を踏まえ、読者に「今後重要性が高まるスキルは何か」と尋ねてみた。
今後、IT・デジタル人材にとって特に重要性が高まると思うスキルを聞いたところ、「生成AI、AIの活用スキル」が61.5%で最も多く、「情報セキュリティ」が54.1%、「AIエージェントなどAI技術に関する知識」が51.2%が続いた(図4)。
上位3項目のうち2項目をAI関連のスキルが占めたことに加え、「生成AI、AIの活用スキル」(61.5%)と「AIエージェントなどAI技術に関する知識」(51.2%)の双方が半数を超えた点に注目したい。AIを実際に活用する能力に加え、その基盤となる技術への理解も、今後重要なスキルとなるだろう。
生成AIの利用が広がる中、今後は個々のツールの操作方法を習得するだけでなく、技術の特性や限界を理解し、どの業務に適用すれば効果が得られるのかを見極める力も重要になると考えられる。特にAIエージェントなど、AIの活用方法そのものが変化しつつある領域では、特定のツールの使い方だけでなく、新たな技術を継続的に理解し、業務への適用を判断できる能力が求められているのではないだろうか。
その一方で、「情報セキュリティ」も54.1%と高い割合を占めた。AIやクラウドの利用が広がるほど、機密情報の取り扱いや情報漏えい、アクセス管理など、利便性の向上と引き換えに生じるリスクへの対応が重要になる。AI活用のスキルとセキュリティの知識は、別々に習得するだけでなく、安全に技術を活用するという観点から一体的に身につける必要がありそうだ。
また、今回の結果では「AIエージェントなどAI技術に関する知識」も半数を超えた。AI活用においては、既存の生成AIツールを使いこなすだけでなく、技術の進化を理解し、自社の業務に適した活用方法を見極める能力も重視されている。
こうした動向を踏まえると、今後の企業ITを支える基本的なスキル領域として、AIの活用、情報セキュリティ、そしてクラウド活用を挙げられる。AIとクラウドは業務の効率化や新たな価値創出を支える一方、その利用を安全に進めるためにはセキュリティの知識が欠かせない。3つの領域を個別の専門分野として捉えるだけでなく、相互に関連する基礎リテラシーとして身につけることが、これからのデジタル人材に求められるだろう。
今IT資格を取る人、取らない人 分かれ目は「実務に役立つか」
国家試験を中心にIT資格制度が大きく変わる中、資格の取得意向にも変化が見られる。
今後取得したい、または取得予定のIT資格があるかを聞いたところ、「ない」が54.6%となり、「ある」の45.4%を上回った。「ない」が過半数に達したのは、過去比較で2021年以来5年ぶりとなる。
2021年以前は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、就職・転職によるキャリアアップを目指しにくい状況や、資格取得が昇給・昇進につながりにくいと考える人が少なくなかった。また、業績悪化や働き方の変化によって、学習時間の確保が難しいといった事情もあった。
では、今回、資格取得の予定がない人が増えた背景には何があるのだろうか。
取得予定が「ない」と回答した人にその理由を聞いたところ、最も多かったのは「業務上、資格は必要ない」(45.5%)だった。過去5年間に見られた「時間が取れない」や「昇給・昇進等のメリットがない」といった、時間や制度面の制約とは異なり、今回の結果では、そもそも資格を取得する必要性を感じていない人が多い。
この結果からは、資格取得に対する関心が一律に低下したというよりも、資格を取得する目的や必要性を、個々の業務との関係から判断する傾向が強まっている可能性が考えられる。資格を持つこと自体に価値を感じるのではなく、現在の仕事に役立つ知識が得られるか、担当業務で必要とされるスキルを証明できるかといった実用面が、取得を判断する際の重要な基準になっているようだ。
一方、今後取得したい資格が「ある」と回答した人にその理由を聞くと、「業務に必要な知識・スキルを身につけるため」(55.9%)が最も多く、「専門性を高めるため」(49.5%)、「現在の仕事に役立てるため」(40.9%)が続いた(図5)。
取得意向がある人の回答からも、資格取得の主な目的は、業務に必要な能力の獲得や専門性の向上にあることが分かる。つまり、取得予定がない人は資格の必要性を感じていない一方、取得予定がある人は、資格を通じて得られる知識やスキルを具体的に見据えている。両者の違いは、資格そのものへの関心だけでなく、資格取得によって得られるメリットを、自分の仕事と結び付けて考えられるかどうかにあるのかもしれない。
こうした傾向は、先に見た試験制度刷新への反応ともつながる。制度変更について詳しく把握している人が限られている現状では、新設される試験や再編後の資格が、どのような業務に役立ち、どのようなスキルを証明するものなのかを判断しにくい可能性がある。制度の変更内容が十分に伝わらなければ、資格取得の必要性を感じていない人にとって、新たに資格を目指す動機にはなりにくいだろう。
もっとも、今回の調査だけで、制度刷新への認知度の低さが資格取得意向の低下を直接引き起こしていると断定することはできない。今後、試験内容や資格の活用方法が具体的に理解されるようになれば、取得を検討する人が増える可能性はあるものの、その動向については引き続き注視する必要がある。
「資格を取ること」より「何に生かすか」 取得したい資格に見る現場のニーズ
今後、取得したい資格を具体的に見ると、「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」(24.7%)が最も多く、「G検定」(21.5%)、「生成AIパスポート」(20.4%)、「AWS認定各種」(16.1%)、「情報セキュリティマネジメント」(14.0%)が続いた。上位には、セキュリティ、AI、クラウドといった、企業ITの活用や安全性を支える領域に関連する資格が並んでいる。
ここでも、先に見た「今後重要性が高まるスキル」の結果との共通点が見られる。AIやセキュリティに関するスキルの重要性を感じている人が多いだけでなく、実際に取得したい資格でも同様の領域が上位に挙がっている。少なくとも回答者の間では、今後必要になると考えるスキル領域と、資格取得を通じて学びたい領域に一定の重なりがあると言える。
一方で、資格取得を希望する人は45.4%にとどまり、過半数は取得予定がないと回答した。必要なスキルを身につける手段は資格取得だけではなく、実務経験や社内研修、オンライン学習などさまざまだ。資格取得の有無だけで人材の学習意欲や能力を判断するのではなく、どのような方法でスキルを獲得し、業務に生かしているかという視点も重要になるだろう。
今回の調査から見えてきたのは、IT資格が一律に求められなくなったという単純な変化ではない。企業ITの現場では、AIやセキュリティ、クラウドなどの重要性が高まる一方、資格取得については、業務上の必要性や専門性の向上にどれだけつながるかが重視されている。
2027年度以降の試験制度刷新が、こうしたニーズに応える仕組みとなるためには、新しい技術領域を試験範囲に取り入れるだけでなく、資格を通じて身につくスキルや、実務での活用イメージを明確にすることが欠かせない。資格を取得する側にとっても、制度の変更を追うだけでなく、自分の業務やキャリアで必要な能力を見極め、資格をその獲得手段の一つとして選択していく姿勢が、これまで以上に重要になりそうだ。
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