しかし、90度回転した波面が得られるだけでは一度に2値の記録しかできない。それでも十分有用ではあるが、実は回転角度は光の照射量に応じて細かく制御できる。上手に制御すれば、一度に多値を記録することも可能になるはずだ。これが、この研究の大事なポイントだ。
図4にあるように、光の波面の回転角は、0度から90度までの間で細かく制御できる。例えば90度の角度を256段階で区切ると約0.35度になる。その角度変化を正しく捉えられれば、1つの記録領域に2の8乗で8ビット=1バイトの情報が書き込めることになる。
角度の検知が、例えば0.02度程度まで可能とすれば、1つの記憶領域に4096段階、2の12乗で12ビットの情報記録が可能なことになる。平方インチ当たりでいえば30GB程度になり、Blu-rayディスクなど既存の光学メモリデバイスとは比較にならない高密度記録が可能になりそうだ。
なお、HDDの先端的な研究では1インチ当たり8TBまで記録可能ともいわれている。それよりも記録密度が少ないように見えるが、光磁石の場合は一般的なレーザー光に替えて近接場光の利用も視野に入れている。近接場光ならフォーカスを30平方ナノメートルまで絞り込めるので、もしその場合に同様の角度計測が可能なら、インチ当たり換算で数十TBに達する記録密度が達成できる計算になる。
光スイッチング磁石は、情報記録デバイスの有望な技術であるとともに、光コンピュータ、光センサー、光シャッター、光通信などさまざまな用途に貢献するものになりそうだ。現在はマイナス258度といった低温でなければ光磁石化などが起こせないが、常温でも光スイッチングを生かせる技術の研究も進められている。
なお、この研究の詳細は、英国科学雑誌「Nature Photonics」に掲載され、掲載誌の表紙を飾るとともに、大越教授のインタビュー記事も掲載された。
IT分野では光信号を電気信号に変換せずに経路切替を行うこととして光スイッチングという言葉が使われているが、ここでは物質の機能を切り替える(スイッチ)することを指す。光磁気技術などを利用したさまざまな刺激により物性が変わる現象が研究されている。オプトエレクトロニクスやスピントロニクスに関連するデバイスの研究開発の1分野。
「光スイッチング磁石」との関連は?
磁力を持たない常磁性体(あるいは反磁性体)の状態から、磁力を持つ強磁性体の状態へと刺激によって物性を変化させるのが光磁石だ。光磁石の性質を持つ特定物質の中で、波長の違う光を当てるとそれぞれ磁性の状態が変わるものが光スイッチング磁石だ。光スイッチング磁石の中に磁性の状態により、照射した光の波面を90度変化させるものが発見された。この場合は光の波面をスイッチングする機能も持つことになる。
右巻らせんと左巻らせんの構造などのように、その分子構造の鏡像と重ねあわせようとしても、結合を組み替えない限りできないような3次元構造のこと。
「光スイッチング磁石」との関連は?
今回、キラル構造を持つ光磁石が世界で初めて開発された。その結晶構造が光の反射の際に第2高調波の波面を変化させる一要因であることが分かった。これに光を当てて磁力を持たせるようにすると、磁力の作用によって光を当てると波面が90度回転した第2高調波が出ることも分かった。この現象により、情報の多値、超高密度記録などに役立つと考えられている。
ナノサイズの微小な突起に光が当たった場合や、光の波長以下の穴を光が通る場合などに、その突起や穴のごく近くに発生し、それ以上遠くには飛んでいかない光のこと。光の波長よりも小さくて、目で見ることができないモノであっても、近接場光を利用した超高倍率顕微鏡なら観察できる。また超微細加工の際にも使われている。
「光スイッチング磁石」との関連は?
直接の関連はない。物性を変化させるレーザーの代わりに、もっと焦点を絞り込める近接場光の利用が考えられている。
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