物質の磁力をレーザー光で制御する研究には、もう1つの重要な目的があった。それは磁力の変化により、光のスイッチングが可能なのではないかという仮説の証明だ。もしも光のスイッチングが可能なら、それを利用した情報記録が可能になるかもしれない。
研究グループは、物質に光を入射したときに出射される、入射光の波長の半分の波長の光(第2高調波)に着目した。入射光が物質の表面近くで反射して出てくる第2高調波の状態が、物質の磁力が強いときと弱いときとで変わっていれば、光スイッチングが行われていることになる。
新しいキラル構造の物質での実験の結果、この予測が的中した。非磁石状態の物質に水平の入射光を入れると垂直な波面の第2高調波が観測された。それに青色レーザー光を当てて光磁石状態Iにすると、出射光の波面の角度が90度回転し、水平な波面の第2高調波が出射されたのだ。
さらに、その状態の物質に赤色レーザー光を当てて弱い磁力の光磁石状態IIにすると、出射光の波面は垂直に戻った。つまり、見事に光スイッチングが行えたわけだ(図3、図4)。この可逆的な光スイッチング現象も世界で初めての発見だ。
このような第2高調波の変化は、キラルな結晶構造の作用(結晶項)と、磁性スピンの状態による作用(磁性項)の2つが引き起こしているという。結晶構造の作用が主になれば第2高調波の波面が垂直になり、磁性スピンの作用が主になれば水平になる。キラル構造と光誘起スピンクロスオーバーの両方がこの現象を引き起こしているということだ。
なお、光の波面のスイッチングは通常の磁石のファラデー効果やカー効果などでも生じるが、波面の変化と同時に楕円率変化も生るため、このようなきれいに90度回転した波面は得られない。
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