しかし、DTNマルチキャスト配信は、逆に端末が接近して多数ある環境を想定する。まずは、通信可能範囲内の端末を検知し(近隣探索機能)、その中の1つの代表端末に対してTCPでのファイル転送(配信)を行う。
TCPで1対1で通信を行うが、無線レイヤーではマルチキャストを利用する。すると近傍にある他の端末はその電波が受信できるので、可能な限りデータを取得する。
マルチキャスト配信にはUDPを使うのが一般的だ。しかし、UDPにはTCPのようなフロー制御などの確実性を保証する機能がないため、パケットロスが生じたら正常にファイル転送できなくなる。端末が過密に存在する環境では特に遅延やパケットロスが多くなるため、ファイル転送にはTCPが必須だ。
ただし、TCPを使うことで代表端末には確実にファイル転送ができるが、近傍にいる他の端末で発生するパケットロスには対応できない。従って、多くの端末でデータの欠落が発生する。
そこでDTN技術の出番だ。データ転送が成功した端末は、近隣の端末にそのデータを直接転送できる。一部データの受信に失敗した端末も、近くにある受信成功端末から不足するデータを受け取れる。送信端末から再送する必要がないので、受信する端末が増えても送信端末に負荷をかけずにファイルを送れる点が特徴だ。
例えば、同じ会場に遅れて来た人の端末には、既にファイルを受信済みの端末から自動的にファイルが送られる。受信したファイルを保管した端末を別の会場などに持っていけば、その端末を発信元として、さらに多くの端末に情報を渡すことも可能だ。
この結果、数十〜数百台規模の端末へのファイル転送が迅速かつ確実に実現する。また、端末(と人)が移動することで、広域ネットワークが使えなくても情報伝達が可能になる。これこそまさに数珠つなぎによる配信技術といえる。
同技術の評価実験の結果は目覚ましいものだった。計算機シミュレーションを用いてFTPによるファイル転送と比較すると、図2に見るように1MBのファイル転送で配信終了までの時間は台数が増えれば増えるほど効率化した。
500台への配信では20倍の高速化が達成でき、時間は約94%短縮した。しかも、FTPでは端末の半数がTCPタイムアウトにより通信が中断したが、同技術では安定した配信が可能だった。
DTNマルチキャストの他にも、無線LANでの送信パケットの衝突を事前に軽減し避ける技術もある。これは、複数の端末間で送信タイミングをずらして、時分割制御することでパケット衝突率を低下させる技術だ。
数10ミリ秒から数100ミリ秒の間で設定した単位で時間を分割し、ある端末が送信できる時間帯は他の端末が送信を待機し、自分の順番が来たら送信するように、互いにタイミングを計って送信と待機を繰り返すことで衝突を回避する(図4)。そもそも無線LANにはパケットが衝突してから再送するタイミングをランダムにずらす方法が採用されているが、事前に衝突の発生そのものを回避するという発想だ。
図5に、計算機シミュレーションを用いたパケットの衝突率と全体のスループットの評価結果を示す。衝突の発生率は5分の1に低減し、スループットは約40%向上した。
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