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1枚で300GB超、Blu-rayの後継規格「Archivel Disc」とは?(3/3 ページ)

» 2014年05月07日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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Archival Discのロードマップ

 この仕様が第1世代となり、2015年夏以降に各社から順次製品が登場する予定だ。さらに第2世代、第3世代の仕様目標も定められた。

 第2世代では、さらにノイズキャンセルの性能を高め、トラックの記録密度を上げる技術を盛り込むことで500GB容量を実現する。第3世代では、相変化の有無だけでなく変化の状態を細かく制御、検知して1つの記録箇所に多値を記録する技術を使い、1TB容量にまで発展させる青写真を描く。

Archival Discのロードマップ 図4 Archival Discのロードマップ(出典:ソニー)

Archival Discはどう使えるのか

 Archival Discは従来のレーザーモジュールがそのまま使えるので、既存光ディスクドライブ技術との相性がよい。上述したような複数枚を装填できるドライブならば簡単に大容量を実現できる。

 ただし、転送速度は見劣りする。テープ(LTO-6)が160MMB/s=1.28Gbps(非圧縮時)にのぼるのに対し、Blu-rayディスクは36Mbps×倍速、放送業界で利用されている業務用の光ディスク(プロフェッショナルディスク)でもリード最大330Mbps、ライト最大130Mbpsだ。

 この弱点をドライブの技術でカバーする。既にソニーでは12枚の光ディスクを装填できるOptical Disc Archiveカートリッジを販売したが、対応ドライブ装置にはレーザヘッドを2個搭載したアセンブリ(図5)を2セット搭載する。合計で4個のヘッドが独立してリード/ライトできるようにして速度を向上させた。

ドライブ内部アセンブリ 図5 レーザヘッドを2個(2チャネル)搭載したドライブ内部アセンブリ(出典:ソニー)

 Optical Disc Archive(第一世代)は従来のBlu-rayディスク規格を採用し、片面のみを利用する構造だが、第2世代以降はディスク両面を利用するArchival Disc規格を採用するので、ヘッドはさらにディスクの上下に設けられる。合計8個のヘッドでリード/ライトが可能になり一層の速度向上を図る(図6)。

ドライブ内部アセンブリ 図6 ヘッドアセンブリをドライブ内に2個搭載し、さらに両面対応してヘッドは合計8個(出典:ソニー)

 現行および上述の仕組みで達成される第2、第3世代のドライブの容量と転送速度は図7の通りだ。特に第2世代以降はテープに比較しても遜色のない容量と転送速度が実現しそうだ。

「Oprical Disc Archive」の製品ロードマップ 図7 「Oprical Disc Archive」の製品ロードマップ(出典:ソニー)

 なお、この製品は1ドライブでの大容量化と転送速度向上を図ったが、複数ドライブを並列運用すればトータルの大容量化と転送速度向上は可能だ。従来のPC用光ディスクドライブを並列運用するアプローチもある。

 今回紹介したように1ドライブでの大容量化と転送速度向上が進めば、複数並列運用時に台数に比例してさらなる大容量化と転送速度が向上することも意味する。

Archival Discの応用領域は?

 Archival Discは巨大なデータを長期保管するニーズにはどこにでも適用できそうだ。4Kあるいは8K映像データが増える映像業界での映像データのアーカイブ用途、データセンタ業者や企業情報システムのアーカイブ、映像コンテンツ制作業者やSOHO、個人事業者などの作品アーカイブ、大学など研究機関の研究データの保管などが考えられる。

 ひたすら長期保管を旨とすることが多いテープとは違い、ランダムアクセス性能を生かした「アクティブアーカイブ」として、長期保管しながら業務利用するのに好適だろう。また、特に今後ビッグデータの利用技術が進むことを考えると、現在は捨てているデータが数年後には思ってもみなかった価値を生むことがないとはいえない。保管にコストや気を使わなくて済む光ディスクは、将来に備えた情報資源の「備蓄」目的にも答えてくれるかもしれない。

 なお、容量当たりコストは、まだはっきりとはしないもののテープと競合できるレベルを目指しているようだ。テープのコストは1GB当たり数円程度なので、現時点では光ディスクの方がやや高い。だが、世代が進むにつれて容量当たりコストは低下するだろう。ランダムアクセスは段違いに高速な点を加味すると、次世代のアーカイブメディアとして有望な選択肢であることは間違いない。

関連するキーワード

加速エージング試験

 高温、多湿の過酷な環境を内部に作る恒温槽を利用して、材料や機器をわざと劣化させるテストのこと。環境条件と劣化の程度により、寿命が予測できる。寿命試験、加速劣化試験などとも呼ばれる。ISO/IEC 10995で光ディスクの寿命推定方法が規定される。

「Archival Disc」との関連は?

 ソニーが自社の現行光ディスクでISO標準に基づいた加速エージング試験を行ったところ、50年以上の寿命が推定された。Archival Discについても今後加速エージング試験を実施する予定だが、Archival Discの基本的なディスク構造や製造装置は現行光ディスクと同じであることから、Archival Discでも50年以上の寿命を推定できる。

相変化記録方式

 記録面の結晶格子をレーザー光で加熱し、瞬時に冷やすと結晶構造が変形(非結晶、アモルファス状態)して元に戻らない現象が起こる。これを相変化という。相変化の有無を「1」「0」に対応させるとビットが記録できる。

 従来の光ディスクでは、相変化の他に記録面の有機色素の反射率を熱による化学反応で変化させる「有機色素方式」もある。有機色素方式は利用する色素により寿命がまちまちだが、相変化の場合は安定して長寿命が期待できるとされる。

「Archival Disc」との関連は?

 Archival Discは相変化方式を採用する。

線密度

 記憶媒体の記録密度を表す単位の1つ。HDDの場合は「面密度」が使われることが多く、1平方インチ当たりのビット数で表現するのが一般的だ。一方で、光ディスクやテープなどはトラックの長さ1インチ当たりのビット数で記録密度を表現することが多く、これを「線密度」という。

 本文中の図2でビット記録スポットを表すオレンジ色の丸をトラック上に増やすと「線密度が高まる」ことになる。

「Archival Disc」との関連は?

 Archival Discの大容量化は、両面利用とGrooveとLandの併用、線密度の増加による。従来のレーザー光源やレンズを変更せずに、主に信号処理技術によってエラーを抑えて記録と再生を可能にしたところがポイントだ。

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