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統合プロセッサの潜在能力を引き出すフレームワーク「HSA」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2014年07月16日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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HSAが取り込む2つの革新技術

 さらに、これからアプリケーションへの適用が進むと考えられる2つの革新的な技術も盛り込まれる。1つは「hUMA」(Hererogeneous Uniform Memory Access)だ。これはCPUとGPU、あるいはDSPが共通のメモリ空間にアクセスできるアーキテクチャだ。

 これを利用することで、CPUとGPUがシームレスに全てのシステムメモリを利用できるようになる。プログラム上はCPUのコアを利用するのと同じようにGPUコアを利用できることになり、GPUによる並列処理を簡単に記述できることにつながる。

 もう1つは「hQ」(Heterogeneous Queuing)と呼ばれる新しいタスクキューイング(タスクの待ち行列)だ。従来はCPUからGPUにタスクを渡すために複雑なタスクフローが必要だったが、「hQ」を利用すればCPUがGPUに実行させたいタスクをキューに入れておけば、GPUが自動的に実行する。APU内での処理がシンプルになって遅延が削減され、また電力消費も少なくしながら、アプリケーションの高速実行が図れる。

 これら技術の適用例はまだないが、HSAがこうした仕組みを用意することで、開発技術者のハード知識や技術習得の必要性が最小限になり、将来の高速アプリケーション開発要員の教育や養成コストが軽減するのではないかと期待されている。

HSAがひらく未来は?

 では、HSAは具体的にどんな恩恵をもたらすのだろうか。まず考えられるのは、やはり画像データなどの並列処理だ。例えば、デジタルカメラのCCD素子のデータをPCで表示可能にする「RAW現像」がデザイン業務などで求められるが、従来は高速なPCでも数分〜数十分はその処理にかかる。これがHSAと最新APUなら一瞬で完了すると期待される。

 さらに、4Kや8Kテレビで利用されるH.265(HEVC)フォーマットの映像デコードへの適用も有力な分野だ。映像デコードが高速化するということは、同様の技術を利用する暗号解読もまた高速化するということだ。一面では脅威でもあるが、暗号化データを利便性高く利用することに貢献しそうだ。

 また、表計算ソフトにHSAを応用したところ、一部の計算で性能が7倍向上したという実績がある。数値計算への応用で劇的なスピードアップができることが一部実証されたわけで、オフィスソフトでは対応できないような科学技術計算分野でも応用できる可能性が高い。

 さらに将来的に有望なのがビッグデータ解析だ。HSAでは、計算用途に開発されたプログラムがあまり手をかけなくても転用可能になるとされる。テラフロップスレベルの並列処理性能が利用できるとなれば、現在はバッチ処理中心のビッグデータ解析が、リアルタイムに実行できるようになるかもしれない。専門家によると、GPUを利用することで80倍にはなるのではないかということだ。

 なお、AMDは最新APUを自作PC向けとして先行発売するが、これには「GPUの強大な処理能力で遊んでほしい」というメッセージが込められている。APUは必ずしも高価ではないし、HSAは誰にでも利用できるオープン仕様だ。2014年7月にはKavariの新モデル「A10-7800」も発売された。この機会にGPGPUの開発を試してみるのもよいかもしれない。

関連するキーワード

GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)

 GPUは従来、CPUの制御の下でグラフィックス処理を専用に行う役割だけを負い、シンプルな演算を繰り返し行う性能を追求してきた。そもそも構造がシンプルでマルチコア化しやすく、CPUの発展スピートよりもずっと早く多コア化、性能向上を果たした。

 余りある性能をグラフィックスばかりでなく、今までCPUが一手にこなしてきた汎用数値演算にも応用しようと開発されたのがGPGPUだ。多くの計算量をこなす必要がある科学技術計算やCAD、あるいは金融のリスク分析などに利用される。

「HSA」との関連は?

 CPUとGPUの両方を利用するアプリケーションを効率的に作れるのがHSAの特長だ。これを利用してGPGPUアプリケーション開発が低コストかつ短工期化できる可能性がある。

OpenCL(Open Computing Language)

 マルチコアCPU、GPU、Cellアーキテクチャプロセッサ、DSPなどの並列プロセッサが混在する環境で、その性能を最大限活用できるようにする言語。そもそもはAppleが提唱したものだが、業界団体のクロノスグループにより2008年にオープン標準として公開された。現在はver2.0が最新版。各CPUを特定した並列処理を定義するAPIやプログラム言語を含む。

「HSA」との関連は?

 HSAは中間言語としてHSAILを用いるが、これはOpenCLなどの既存言語を置き換えるものではなく、OpenCLを含む高級言語からGPUが処理できる命令セットにまで落としこむ役割を果たす。HSAが普及した場合でも、OpenCLは主要な言語として利用されると考えられる。

H.265

 動画圧縮の国際標準規格として現在多用されているH.264/MPEG-4 AVCコーデックの次の世代の規格。国際電気通信連合(ITU)が2013年1月に承認した。ISO/IEC 23008-2と同じ。また、High Efficiency Video Coding(HEVC)とも呼ばれる。

 H.264の約2倍の圧縮性能があるとされ、4Kや8Kと呼ばれるスーパーハイビジョンへの適用や、モバイルデバイスでの高解像度映像の利用などに応用されると考えられる。

「HSA」との関連は?

 映像データの圧縮/伸張は暗号化と復号と基本的に同じ技術であり、単純な処理の高速な繰り返しと並列処理が性能の決め手になる。HSAはCPU性能にプラスしてGPUの高速並列処理性能を合理的に利用できるので、H.265のような次世代動画仕様を利用するアプリケーションには最適だ。

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