リチウムイオン電池の7倍のエネルギー密度を実現する新たな二次電池が登場した。これまでにない大容量電池の未来とは。
今回のテーマは、従来のリチウムイオン電池の7倍のエネルギー密度を実現する新原理を用いた新しい二次電池「リチウム高級酸化物電池」だ。小さく、軽く、低コストで高エネルギー密度を持つ新世代二次電池の研究開発が進む中、信頼性と安全性に優れる新しい大容量電池が実現しそうだ。
充電して繰り返し使える電池(二次電池)として、本稿執筆時点で最も小型、軽量、大容量を実現するリチウムイオン電池だが、電気自動車用や定置用などへの用途が拡大するにつれて、エネルギー密度の理論的限界を超える高性能な二次電池の開発が要求されている。
そこで二次電池の新しい原理と技術の開発に関する研究が活発に行われている。その1つとして2014年7月、東京大学大学院工学研究科応用化学専攻の水野哲孝教授のグループ(日本触媒との共同研究)が発表したのがリチウム高級酸化物電池だ。高級酸化物の高級とは「酸素の組成比が多い」ことを意味する。
驚くべきは理論エネルギー密度で、現行のリチウムイオン電池の約7倍に達するという。従来の電池の地道な技術開発がじわじわと高めてきたエネルギー密度を、一気に高める新原理の電池が発明されたことになる。性能と応用への期待レベルも超「高級」なこの電池、一体どんなものなのだろうか。
モバイルデバイスや電気自動車の電池としておなじみのリチウムイオン電池は、小型、軽量、高電圧で、充電の仕方によって急激な電圧低下が起きるニッケル水素電池やニカド電池のような「メモリー効果」もなく、多くの繰り返し充放電ができて長寿命という優れた特長により、広い用途に使われる。
しかし、リチウムイオン電池の大容量化に向けて、現状では超えられない壁がある。正極材料としてコバルト酸リチウムなどのリチウムイオンが出入りする遷移金属酸化物を使っているが、これに含まれる遷移金属が重いのだ。重量当たりのエネルギー密度と容量に、そもそも理論的限界がある。また、この正極材料を合成するのに必要なコバルトは希少資源であり、コストを下げるための障壁となっている。
現行の正極材料を何か他の材料に置き換えられれば、あるいはこれまでとは全く違う原理で重い金属や希少資源をなるべく使わない仕組みができれば、現状を打開する飛躍的な大容量電池が実現するはず。世界の研究者はそんな思いで技術開発を続けている。
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