さまざまな研究が進められる中で、従来の原理(リチウムイオンが出入りする遷移金属酸化物の酸化還元反応)を考え直し、新しい原理を用いた電池が数々登場した。しかし、現行リチウムイオン電池のエネルギー密度370Wh/kg(黒鉛負極を利用するタイプの場合)を超える高エネルギー密度化はなかなか達成できなかった。
水野教授のグループでは、これまでリチウムの代わりに両極間で酸素をやりとりして電気エネルギーを得る「酸素シャトル電池」や、その原理を発展させた「デュアルイオン電池」を開発し、動作を検証した。新原理での二次電池としての動作は確認できたが、画期的な大容量化には至らなかった。
また、他の研究グループでも「縮合リン酸塩電池」「有機全固体電池」「リチウム空気電池」などが開発された。だが、大きくても両電極重量ベースで500Wh/kg程度のエネルギー密度、250mAh/g程度の容量密度が見込めるところまでが現在の限界だ。
これに対して、リチウム高級酸化物電池は理論値で2570Wh/kgという、現行リチウムイオン電池の約7倍に相当する桁違いのエネルギー密度が期待できる。両電極重量ベースの容量としても897mAh/gと格段の大容量化が見込める(ただし電圧は2.87V)。
新原理とは、正極反応として酸化リチウムと過酸化リチウムの間の酸化還元反応を利用することだ。ポイントは、目的の反応が進行する正極材料の探索と合成だ。
もともと触媒研究のエキスパートである水野教授は、コバルトが目的の反応の触媒となり得ることを見いだし、遊星ボールミル装置という試料粉砕機を利用して、酸化リチウムの結晶構造の中にコバルトを添加した物質を作り出した。
これを正極として用いることで、酸化物と過酸化物の間の酸化還元反応を実用的なレベルで、しかも可逆的に進行させることに成功した。充電時には正極に過酸化物が生成し、放電時にはそれが消失する反応を通して電気エネルギーが得られたのだ。
図3に放電反応のイメージを示す。正極では過酸化物イオンから過酸化物イオンへの還元反応が起き、負極では金属リチウムの酸化反応が起きる。
検証実験では、容量200mAh/gの繰り返し充放電が実証され、大電流による高速な充放電にも対応できることが分かった。充放電の過程で酸素や二酸化炭素の発生などの副反応も起こらず、電解液や電極の劣化をともなわないことも検証できた。
正極材料に添加されるコバルトの量は、現行のリチウムイオン電池の正極材料(コバルト酸リチウム)よりもずっと少なくて済む。コバルトは希少資源であり高価な材料なので、経済性の面でも優れた特長がある。
図4には、充放電試験で観測された電圧の変化と、充放電反応に関与している反応を示す。充放電反応において正極で酸化物と過酸化物の酸化還元反応が可逆的に進行することが示されている。
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