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リチウムイオン電池の7倍も濃い「リチウム高級酸化物電池」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2014年08月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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理論的にエネルギー密度が最大になる「空気電池」との違いは?

 二次電池に興味を持つ人なら、現在理論的に最大のエネルギー密度を実現できるとされる電池は何か、ご存じのことだろう。いわゆる「空気電池」だ。

 燃料電池の一種として語られることが多いが、二次電池としての研究も進む。原理はリチウム高級酸化物電池と似たところがあり、金属リチウムを負極に用いる場合(リチウム空気電池)だと正極反応で生成する物質も同じ酸化リチウムだ。

 空気電池の正極材料は空気中の酸素なので、正極材料の容量の制限はない。だからこそリチウムイオン電池の限界を超える本命技術と目されてきたのだが、放電時に正極反応で生じる酸化物が問題だ。

 固体の酸化物が電極を覆うと、空気が十分に取り込めずに性能が劣化する。また、空気が入るように開放構造をとらざるを得ないので、水分や二酸化炭素なども入り込み、電極や電解質を劣化させる原因になる。さらに電解液の揮発や水分との反応による発火の危険性も考えなければならない。

 現在、欠点を補うさまざまな取り組みが行われているものの、山積する課題の前に実用化への歩みはあまり速まってはいないようだ。

 これに対してリチウム高級酸化物電池は、密閉構造をとるため、外部の環境にほとんど影響されることがない。また、正極反応は酸化リチウムが過酸化リチウムに変化はするものの、固体内部での酸素が酸化還元反応を起こすだけなので、余計な生成物が発生することもない。正極材料の容量の限界はあるものの、安全で性能劣化が少ない電池になると考えられる。

 図5に、現行のリチウムイオン電池、リチウム高級酸化物電池、リチウム空気電池のそれぞれの反応のイメージを示す。

リチウムイオン電池、リチウム高級酸化物電池、リチウム空気電池の仕組み 図5 リチウムイオン電池、リチウム高級酸化物電池、リチウム空気電池の仕組み(出典:東京大学・水野哲孝研究室)

リチウム高級酸化物電池の研究の今後と応用領域

 リチウム高級酸化物電池の研究は、新原理での作動が実証された基礎段階ではあるが、既にエネルギー密度として現行のリチウムイオン電池と同程度の性能に達した。今後は、正極中の過酸化物の状態、コバルトの役割を明らかにし、正極材料の最適化を進めることで、理論容量に近づけていくということだ。さらに電池の安全性、寿命などの総合的評価を進め、革新的二次電池としての実用化に取り組む。

 気になるのは正極材料のコストだが、現行のリチウムイオン電池の正極材料のコバルト酸リチウムの価格は原料費ベースで約13円/Wh程度が目安のようだ。リチウムにコバルトを添加する新しい正極材料は、コバルトの量が少なくて済むため10円/Wh程度だが、研究が進めばさらに低コストになる可能性がある。

 将来の応用領域として、電気自動車用の移動型二次電池、電力供給安定化のための定置型二次電池としての役割が期待される。

関連するキーワード

酸化還元反応

 電子の授受を伴う化学反応で、電子を放出する反応を酸化反応、電子を受け取る反応を還元反応という。電池は負極、電解液/電解質、正極で構成されていて、2つの電極での酸化還元反応を利用し電気エネルギーを取り出せる。放電時には負極で酸化反応、正極で還元反応が進行し、外部回路を通じて負極から正極に電子が流れる。充電時にはその逆の反応が進行する。

「リチウム高級酸化物電池」との関連は?

 リチウム高級酸化物電池は、負極に金属リチウム、正極にコバルトを添加したリチウム過酸化物(高級酸化物)を利用する。放電時には正極側でリチウム過酸化物が還元されてリチウム酸化物となり、充電時にはその逆の反応が起きる。

エネルギー密度と容量

 電池から取り出せる単位体積または単位重量当たりの電力エネルギーが「エネルギー密度」だ。電池の作動電圧と容量密度の積から求められる。単位はWh/L(ワット時毎リットル)またはWh/kg(ワット時毎キロ)などが用いられる。

 一方、「容量」は電池から取り出せる電気量で単位はAh(アンペア時)。単位体積または単位重量当たりの電気量で表すときはAh/L(アンペア時毎リットル)またはmAh/g(ミリアンペア時毎グラム)などが用いられる。

 現行のコバルト酸リチウム正極と黒鉛負極を用いる一般的なタイプのリチウムイオン電池では、エネルギー密度は370Wh/kg、容量は100mAh/g程度が限界である。

「リチウム高級酸化物電池」との関連は?

 現行の二次電池として最も優れるとされるリチウムイオン電池のエネルギー密度と容量の理論的限界を超えるための研究から生み出されたのがリチウム高級酸化物電池だ。

 リチウム高級酸化物電池は正極反応として、リチウムイオン電池の動作原理であるリチウムイオンが出入りする遷移金属酸化物の酸化還元反応ではなく、固体内の酸素(酸化物と過酸化物)の酸化還元反応を利用する新原理に基づく。

 酸化リチウムと過酸化リチウムの間の酸化還元反応を用いた場合、理論的なエネルギー密度は2570Wh/kg、容量は897mAh/gに達する。

空気電池

 正極材料として空気中の酸素を使う方式の電池。電池外部の酸素を利用するため、正極材料の容量が問題にならない特長があり、次世代の燃料電池/二次電池として期待が寄せられる。

 リチウム空気電池の場合は、理論容量が1170mAh/g、起電力2.96V、理論エネルギー密度が3460Wh/kgとなり、これまでの電池よりも圧倒的な性能が得られる次世代の二次電池として期待される。

 しかし、現在のところ、反応生成物の影響や外気からの水分や二酸化炭素の流入などによる性能劣化が避けられない。理論値に近づくための研究が行われているが、実用化にむけて多くの課題が残る。

「リチウム高級酸化物電池」との関連は?

 正極で酸素の酸化還元反応を利用するという点で類似する。空気電池では放電時に空気中の分子状酸素が還元されるのに対し、リチウム高級酸化物電池では正極中の過酸化物が還元される。

 リチウム高級酸化物電池は、空気電池とは違い空気などの流入がない密閉構造がとれ、外部からの影響による性能悪化が避けられるため、安全性や安定性に優れる。ただし、理論エネルギー密度や容量については空気電池よりも制約がある。

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