一般的に、設計作業=CADを利用する作業と捉えられがちだが、設計作業とは「設計のアイデア出し」をする工程であり、アイデアをCADを使って具体的な形にするモデリングやトレースを行う工程とは本来異なるものだ。
このスタンスに立ち、CAD利用以前の概念設計(=コンセプト設計)プロセスを支援するクラウドサービスを提供する機械系CADベンダーがある。いわばCADの価値を補完する位置付けのサービスで、概念設計支援ツールとでも呼ぶべきものだ。
設計者は、マウスを使って描いたポンチ絵や2DCADのデータをクラウド上にアップする。これによって設計者が考えたアイデアの素早い共有と効率的なコラボレーションが可能となり、モデラーやトレーサーは、関係各者による十分な検討が行われた概念設計を経て、3DCADを使って本格的な設計図を起こす。
また、過去のアイデアをクラウド上に保存することで、現在のアイデアと比較検討したり、多くのアイデアの中からより最適なものを選択したりすることも可能だ。
最近では消費者ニーズの多様化により、単に高性能というだけでは商品は売れない。そこで求められるのは、顧客の声と直に接する営業部門やマーケティング部門との「ワイガヤ」を通じた製品設計だ。
設計アイデアを考える概念設計の段階で関係各部署とコラボレーションができれば、より消費者ニーズに合致した製品を生み出す精度は上がり、手戻りもなくて済む。むしろ、このクラウドサービスを利用する必然性はここにある。
上で紹介したPaaSを利用して、大学の研究室と病院、医療機器メーカーが連携した医療機器開発が始まった。具体的には、3D化した臓器データや3DCADの設計データをクラウド上に置き、それらを見ながら新しい医療機器のデザインを検討する取り組みだ。
これまで医工連携は相互の理解がうまく行かず、スムーズなプロジェクト進行が難しかった。クラウド環境を利用したコラボレーションを実現することで、意思の疎通も促され、より精度の高い医療機器開発が期待される。
また、同じく上で紹介した概念設計を支援するクラウドサービスを導入したドイツの加工機メーカーでは、従来の概念設計プロセスを20〜30%も削減することに成功し、3次元形状を作り込む前に製品の動作チェックを行うことも可能になった。
これによって後工程での調整および修正作業を大幅に解消できたという。単なる効率化というよりもむしろ、業務プロセスの改革につながったクラウドの活用事例だ。
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