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発電も塩加減が決め手になる「浸透圧発電」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2014年11月05日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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浸透圧発電の今後

 浸透圧発電の技術は既に実用化レベルにあり、谷岡教授は「100キロワット級の発電プラントなら1年あれば実現できる」という。まずは100キロワット級プラントで、国内および世界に向けて実用性をアピールしたい考えだ。

 念頭にあるのは海外の水不足に悩む国々での発電プラント建設だという。海外には大規模な海水淡水化を推進している国が幾つもある。例えばオーストラリア、イスラエル、スペイン、サウジアラビア、中国、インドなどだ。

 しかし、水処理で排出される濃縮海水は、環境保護上の問題があり、そのまま海中に捨てられず、下水で薄めてから放出しているのが現状だ。浸透圧発電を組み合わせることで、電力を生み出しながら濃縮海水の処理も両立できる可能性がある。

 各国でも浸透圧発電の技術開発は推進されているが、あまりうまくはいっていないようだ。イスラエルでは塩分濃度の高い死海の水とヨルダン川の淡水を利用したが、水を運ぶパイプライン建設が必要になるため採算が採れなかった。ノルウェーでは国立電力公社が取り組んだが、半透膜開発の困難から2013年12月にはプロジェクトを中止した。しかし、米国や韓国、中国、シンガポール、カナダなども積極的に研究を進め、世界の先端を行く日本もうかうかとしてはいられない。

 国内では国家プロジェクトとして「メガトンウォーターシステム」という大規模な海水淡水化の技術開発が進められ、大規模海水淡水化プラント構築の技術が既にある。浸透圧発電システムを組み合わせたプラント建設も可能な実力を持つ日本なら、水資源利用分野で世界をリードすることは夢ではない。

 さて、気になるのは電力コストだが、こちらも優秀だ。浸透圧発電の試算コストは1キロワット時当たり14〜18円。太陽光発電が同40円程度なのに比べ、ソフトエネルギーとしてはトップクラスの低さだ。

 発電施設の利用効率も太陽光発電が15%程度なのに対し、浸透圧発電は85%にのぼるとの試算もある。発電プラントの償却期間も17年と見込まれ、実用性は十分だ。

 「今後は効率よく処理下水の汚れを取るフィルタ開発し、効率のよい半透膜の開発を中心に研究を進め、実用プラントの建設を1日も早く実現したい」と谷岡教授。環境への影響が少なく、安全で、天候や昼夜にかかわらず稼働できる浸透圧発電は、世界に誇るべき日本の先端技術としてもっと注目されるべきだろう。

関連するキーワード

半透膜、逆浸透膜

 いわば網の目の極めて細かいフィルタで、塩水なら水は通すが塩分子は通さないような膜のこと。濃度の異なる液体を半透膜で仕切って隣接させると、濃度の高い方に溶媒(例えば水)だけが移動する。これを浸透という。浸透する力が浸透圧だ。

 海水淡水化では高濃度の液体(海水)側に浸透圧よりも大きな圧力をかける。すると逆に高濃度の液体側から低濃度の液体の方へと溶媒が移動する。これが「逆浸透」であり、このような用途に使う膜が半透膜の中でも「逆浸透膜」と呼ばれる。

「浸透圧発電」との関連は?

 浸透圧発電では現在、逆浸透膜が利用される。発電システムでは海水側に淡水を浸透させるので、海水淡水化とは水の移動の方向が逆だ。世界的な逆浸透膜メーカーが国内に多く、高効率な膜製品が既にあるため技術開発、実証実験に利用された。しかし、より発電効率を上げるには、浸透圧発電に特化した膜の開発が望まれて、技術開発が続く。

メガトンウォーターシステム

 2010年から2014年にかけて、内閣府のFIRSTプログラムの下、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて推進された国家プロジェクト。1メガトン(100万立方メートル)の海水を淡水化を、従来の半分のコストで実現する技術開発などを目標にして進められた。グローバルな水資源不足や汚染問題に対応する大規模プラントを環境やエネルギー消費に配慮して構築するための技術研究が行われた。

「浸透圧発電」との関連は?

 浸透圧発電は海水淡水化の処理により排出される濃縮海水を発電に利用できる。大規模な海水淡水化プラントに組み込むことで、発電を行いながら同時に排水処理が可能になると期待される。

海洋エネルギー発電

 海から得られる多様なエネルギーを電力に変換する技術の総称。波の力を利用する波力発電、潮汐力を利用する潮汐力発電、黒潮などの潮流や海流を利用する海流発電、海水の温度差を利用する海洋温度差発電、養生風力発電、そして海水と淡水の塩分濃度差を利用する海洋濃度差発電などの技術がある。

「浸透圧発電」との関連は?

 海洋エネルギーの中で海洋濃度差発電の1方法として浸透圧発電は位置付けられる。他の海洋濃度差発電の方式には、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の間に海水を通し、電圧をかけてイオン交換を行って透析(浸透とは逆に溶液から溶質を取り出す)する技術を基に、原理を逆に利用して直接電気に変換する「逆電気透析発電」がある。

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