「iPhone 6」の発売などで盛り上がるスマホ市場。しかし、続々と新機種が登場し、選定時の決め手に困る。SIMロックフリーのビジネス利用は有効だろうか。
「iPhone 6」の発売などでますます市場が盛り上がるスマートフォン。BYODやモバイルワーク、ワークスタイル変革といったキーワードに象徴されるように、今や仕事にも欠かせないツールとなった。
しかし、各社から多くの新しいスマートフォンが出てきて情報があふれる中で、自社で一括導入する場合に選び方に困るケースが想定される。本稿では、最新のスマートフォンの動向をビジネスユースの視点で紹介しつつ、ビジネス利用におけるスマートフォンの選定ポイントなどを解説する。
スマートフォンのビジネス利用といえば、ここ数年、さまざまなメディアで語り尽くされているのが「BYOD」だ。しかし、中堅以上の規模の企業ではあまり普及していないようだ。「私用のスマートフォンを仕事に使いたくない」など社員側の事情とは別に、企業側から見たその理由は主に次の3つが考えられる。
やはり個人ごとの契約よりも企業が一括購入もしくは契約した方が1台当たりのコストが低くなる。企業規模が大きくなればなるほどコスト面のスケールメリットが生かせるので、後述のような余計な負担をしてまで、あえて社員の私用スマートフォンを仕事のためにも使ってもらうメリットが小さくなるのだ。
スマートフォンをビジネスで利用するためにはMDMによる管理は必須といっていい。しかし、BYODとなると、個人ごとにOSや端末も異なるためMDMもあらゆるプラットフォームに対応できるようにしなければならず、設定内容も多岐にわたることになる。
さらに、プライベートでの機種変更のたびに情シスに連絡して対応してもらわねばならないので、社員にとっても管理者にとっても負荷が大きい。管理面では、故障時の責任の所在が個人と企業のどちらになるのかといった問題もある。
これはスマートフォンのビジネス利用がある程度普及してから顕著になった課題だろう。キャリアなどが提供するサービスを利用して、スマートフォンに個別の内線番号を付与し、会社の内線電話化するといったニーズが高まっている。
内線化することで、社員が社内にいようと社外にいようと内線発信での連絡が可能となる。それだけでなく、比較的コストの大きいビジネス向け固定電話機の数を大幅に減らすことでコスト削減にもつながることから人気が高い。いわゆるユニバーサルサービスの流れもあり、ここに来て注目を集めている。
BYODとの親和性の高いサービスも一部あるものの、スマートフォンの内線化サービスは端末から回線、クラウドPBXなどを含めた企業単位での契約となるため、BYODの場合にはハードルが高くなってしまうのだ。
iPhone(iOS)とAndroidという2大プラットフォームが世界中でしのぎを削るスマートフォン。少し前までは、やはり先行のiPhoneがビジネス利用でも優勢だったが、低コストや汎用(はんよう)性、そして以前は不安視されていたセキュリティ面がかなり改善されたこともあり、ここに来てAndroidが少しずつ増えているのが現状だ。あるキャリアによれば、ビジネスユースでの比率は現在のところ「iPhoneが7、Androidが3」ぐらいだという。
ただし、iPhone 6の登場により、さらにセキュリティ面が強化されたことなどから、再びiPhoneに注目する企業も出てきている。また、伝統的にMac OSの人気が高い医療系の世界では、やはりiPhoneは根強い人気がある。
OSが同じであれば、たとえキャリアが異なろうとも端末ごとの違いが見えにくいのがスマートフォンだ。だが、2014年から明確な差別化を図る製品カテゴリーが登場し、ビジネスユースにおいて特に注目を集める。それが、普通のスマートフォンよりもはるかに堅牢性を高めた「タフネススマホ」だ。
現在のところ、タフネススマホを売りにする国内端末は、KDDIの「TORQUE G01」(京セラ)とNTTドコモの「GALAXY S5 ACTIVE SC-02G」(サムスン電子)の2機種だ。
この2つの端末に共通するのが「MIL規格」対応だ。MIL規格対応はタフネススマホの必須条件といってもいい。
MIL規格とは米国総務省の規格で、同省などが調達する物資の仕様や要件を定めたものだ。軍隊の過酷な環境化での活動を想定して、地形や天候に左右されないよう厳しい条件が課される。このため規格自体は軍のニーズを満たすために作られたものだが、一般の製品であってもあえてテストを行い、MIL規格対応を売りにするケースも多い。
現状のタフネススマホは、工業製品の環境耐性試験のMIL規格である「MIL-STD-810G」に定められた、Dust(粉塵)、Shock(落下)、Vibration(振動)、High temperature(高温)、Low temperature(低温)、Blowing rain(風雨)、Low pressure(低圧)、Solar radiation(太陽光照射)、Salt fog(塩水噴霧)、Humidity(湿度)、Immersion(浸漬))などに準拠した試験を実施してクリアしたものとなる(ただし試験環境下での確認であり、実際の使用時全ての環境での動作を保証するものではない)。
ビジネス向けにタフネススマホが人気を集める理由として、工場や倉庫、配達、屋外での保守点検など、いわゆる現場系の仕事でも安心して使えることが挙げられる。さらに、営業のような業務であっても、雨に降られたりうっかり落としてしまったりしても故障の確率の低いタフネススマホを選ぶ企業が増えている。
ビジネスで使う以上、ちょっとした衝撃や浸水などで故障してしまったのでは仕事に支障が生じてしまうので、今後はますますスマートフォンに堅牢性を求める傾向は強まっていくことと思われる。
いわゆるスマートデバイスには、スマートフォンの他にタブレット端末がある。また、音声通話端末と捉えればガラケーも存在する。タブレットとガラケーのどちらも既にビジネスでよく使われているが、これら異なる種類の端末をどのように使い分ければいいのかといった疑問が生じる。
まず、スマートフォンとタブレットだが、こちらの使い分けは割とシンプルだ。基本的に、パンフレット資料や動画など、相手に画面を見せるシーンではタブレット、メールやスケジュール確認など1人で画面を見るのであればスマートフォンを使うと考えればいい。
ただし、図面の確認など細かい作業では1人の利用であっても画面の大きいタブレットの方が向く。一方、電車などでの移動中に使うのであればすぐに取り出せ場所を取らないスマートフォンの方が便利だろう。このように、スマートフォンかタブレットかどちらかを導入するというよりは、両方を持ち歩きながらの使い分けが進んでいるのである。
続いて、スマートフォンとガラケーだが、こちらは、ガラケーのユーザーがだんだんとスマートフォンにシフトしつつあるという状況だ。ただし50代を過ぎた年配者にとって使い慣れたガラケーから比較的操作が複雑で使い慣れないスマートフォンへの移行はハードルが高い。そこで各キャリアからは、より機能を絞って操作を簡単にした端末も出てきている。
もう1つ、同じスマートフォンでも役職や業務など、社員ごとの特性に応じて端末を使い分ける企業も多くなっている。例えば役員であればiPhone、現場系ならばタフネススマホといった具合だ。
2014年10月31日に総務省が「SIMロック解除に関するガイドライン」の改正案を公開するなど、ようやく国内でもSIMロックフリーの流れが強まってきた。では、ビジネスユースでSIMロックフリーのスマートフォンを導入するというのは果たしてアリなのだろうか。
結論からいうと、使用目的によっては大いにアリだ。
まず、SIMロックフリー端末の大きなメリットとして、回線契約なしでも購入できることがある。工場や倉庫、事業所、病院内など自社の建物内に限った利用であれば、キャリアの回線は特に必要ないケースも多い。SIMロックフリー端末を社内ネットワークにWi-Fi接続して使うようにすれば、回線契約料金なしで利用できるため、通信費の大幅削減が可能となる。
音声通話は必要ないが、社外でのデータ通信は行いたいというニーズもあるだろう。この場合もMVNOなどが提供する割安なデータ通信オンリーの契約でSIMロックフリー端末を使うことで、やはり通信費を削減することが可能だ。また、SIMロックフリー端末というと音声通話ができないと思われがちだが、IP電話アプリを利用するなど工夫次第で音声通話も可能になる。
例えば、京セラでは、先に取り上げた「TORQUE G01」と同じコンセプトとなるタフネススマホ「TORQUE SKT01」を業務用に特化したSIMロックフリー端末としてパートナー経由などで提供する。各パートナーからは、SIMや各種ソリューションと組み合わせて販売され、運輸業、倉庫業、製造業、農業、漁業など多くの現場で使われている。
とかく通信速度に目が行きがちなスマートフォンだが、動画のストリーミング再生のような大量のデータ通信を必要とする利用シーンが比較的少ないビジネスユースの場合には、通信速度よりもむしろカバーエリアに注目するようにしたい。そもそもどのキャリアでもLTEのような高速通信規格対応が進んでいるため、回線速度への不満はあまり感じないだろう。
対して外回りなどの仕事中にカバーエリアから外れてしまい通信が途絶えるようなことになれば、業務への支障も生じかねない。特に昨今普及が進んでいるクラウドサービスはネットワーク経由でないと使えないものがほとんどなので注意が必要だ。
現在は市街地であればどこのキャリアもまず問題はないが、取引先への移動中にカバーエリア外に差し掛かることもあり得る。最近では従来のエリアカバー率に加えて、移動しながらビルの影や地下街などを通過しても、どれだけLTE回線を継続的に利用可能かといった「LTE維持率」という数値を示すキャリアもあるので、そうした指標も参考にするといいだろう。
スマートフォンは音声通話端末としても使用することを忘れてはならない。特にビジネスユースでは、取引先との通話が途切れないようにすることが非常に重要となる。そこで、できる限りクリアな音声で通話できるよう、音声品質にも気を配るようにしたい。
2014年末より、広帯域なLTE回線を活用して音声通話を行うことで、以前よりもクリアな音声通話を可能にした「VoLTE」の対応機種がかなり充実した。社内での通話であればともかく、営業などの取引先との通話では、ただ声が聞こえればいいというわけではない。微妙なトーンの変化などから相手の感情を読み取ることも求められるため、音声品質はより大切なのだ。
前述の内線化サービスの他に「Google Apps」や「Office 365」、AWSなどメジャーなクラウドサービスをキャリアがまとめて提供するなど、業務系のサービスの幅も広がっている。そこで、どのようなサービスが使えるかをよく確認するようにしたい。キャリアが提供するネットワーク経由で直接クラウドサービスにアクセスすることで、よりセキュアな環境を実現しているサービスもある。
また、MDMの設定や管理などといった安全管理サービスを提供するキャリアもあるので、自社スタッフのスキルやリソースに不安がある企業は活用するといいだろう。
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