つまりLSIの個体差とは、入力信号と出力信号の中間で生じるLSI内部のグリッチ発生回数である。もちろんそれがLSIに求められる計算処理結果に影響することはなく、LSI回路を複写して入力信号と出力信号をLSIごとに比較すれば、全て同じ結果になる。LSI個々に潜み、回路が動作する瞬間以外には観測できないこの個体差を、LSI個別の「秘密の情報=固有ID」と見なせば、暗号システムに利用できるのではないか、というのが研究チームの着眼点だ。
研究チームはその過渡特性をビット列に変換し、暗号鍵としても使える固有IDとして利用できないかと考えた。グリッチの発生回数が偶数個なら0、奇数個なら1のビットに変換し、入力信号を変えてビットへの変換を行うことを繰り返して、ある程度長いビット数の乱数が生成できれば、暗号化と復号に利用可能な「指紋」のような固有ID情報が生成できるはずだ(図2)。
研究チームは、セキュアなLSI開発研究に実績のある立命館大学と共同して試作品を製作し、このたび実証実験に成功した。試作されたLSIは、180ナノメートルと65ナノメートルの2つのプロセスを使うFPGA(Field-Programmable Gate Array)で、一般的なLSIの設計と製造のフローで作られている。生成される固有IDは128ビットで、LSI個品ごとに別々なIDが、それぞれ安定して生成されることを確認した(図3)。
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