基幹ネットワークの高速化が期待される中、1波長当たり1Tbpsを超える超高速伝送技術が登場した。既存速度のおよそ10倍を達成する。
基幹ネットワークでは1組の送受信機で100Gbpsが現在の主流だが、研究としては400Gbpsが実現、さらに1Tbpsを目指す開発競争が続いている。しかし、従来の長距離伝送用シングルモード光ファイバーを用いる研究ではなかなか大幅な速度向上が難しいのが現実だ。
ところが2016年2月、光源の改善や波形整形技術、信号処理技術を進歩させ、1組の送受信機で11本のサブキャリアをまとめて送受信できる新手法が登場した。1波長(=チャネル)当たり1Tbps以上の超高速伝送を実用化する突破口になりそうだ。
マルチサブキャリア光送受信は、従来と同じ光ファイバーと1組の送受信機での伝送速度を、現在の主流の100Gbpsから1Tbpsにまで高速化する新しい光送受信技術だ。2016年2月、三菱電機がその基本手法を確立したことを発表した。
データ通信量は特に近年急速な増大傾向にあり、2014年の国内データ流通量は既に約14.5エクサバイトに達している。2005年には約1.6エクサバイトだったから、この9年間で9倍に急増していることになる。
急増傾向にはこれからますます拍車が掛かる。モバイルコンピューティングが今後も拡大し、IoTデバイス(インターネットに接続するデバイス)数は2011年の約104億個から2020年には約530億個へと増大すると見込まれているからだ。
現在のインターネットバックボーンがいつかは対応しきれなくなることは確実だ。そこで、高速通信の重要インフラである光ファイバー通信の飛躍的な増速が早急に求められる。
光ファイバーに多くの情報を乗せる技術は古くから研究されており、1つの画期となった技術に「波長分割多重」技術がある。これは現在一般的に用いられており、1本の光ファイバーに波長が異なる光を幾つも重ねて同時に送信し、受信側では波長ごとに1つのチャネルとして分別して受け取る仕組みだ。多数の波長を重ねるほど、伝送容量は増えることになる。
この波長多重化技術をベースに、偏波多重技術や多値変調技術、誤り訂正技術などを加えて、現在までのところ、実用的には1つの波長で100Gbpsの長距離伝送が一般化してきた。ちなみに、図1に示すのは現在提供されている波長多重伝送装置の製品の一例だ。対応する光トランシーバ(図2)と光集積送信モジュールにより、1波長(=チャネル)当たり100Gbpsのチャネル88個を束ねて合計8.8Tbpsでの通信を、1本の光ファイバーで実現している。
これら技術はまだまだ発展可能で、今のところ実験成果として1波長当たり400Gbpsまでは達成できている。今回の「マルチサブキャリア光送受信」技術は、こうした研究の上に新しい技術をつけ加え、1波長当たりの伝送速度を一挙に1Tbpsにまで高めようという試みだ。
この技術による実験は、英国ユニバーシティカレッジロンドンのOptical Networks Groupの設備を借りて実施され、1組の送受信機に従来型の長距離伝送用シングルモード・シングルコアの光ファイバーを接続、1Tbpsの通信速度が実現するとともに、周波数利用効率として9.2bit/s/Hzが実証できた。
これは一般的な光ファイバーを利用した高速化研究として世界最高の利用効率(2016年1月、三菱電機調べ)となる。この技術が仮にこれまでと同様な波長数である88波長を分割多重可能な伝送装置に搭載されたとすると、1本の光ファイバーで88Tbps(11TB/s、25GBのBlu-rayディスクなら440枚分が1秒で送れるスピード)の伝送が実現することになる。
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