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既存光ファイバーの10倍以上の伝送速度「マルチサブキャリア光送受信」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2016年04月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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「マルチサブキャリア光送受信」技術の今後

 光ファイバーの伝送速度向上への取り組みはさまざまな面で行われている。波長分割多重方式を採るのは当然だが、1本の光ファイバーに詰め込める波長の数に限界があることから、1つの波長に多くの情報を乗せる技術が追求されてきた。

 例えば、差動4値位相遷移変調(DQPSK)や直角位相振幅変調(QAM)、直交周波数分割多重(OFDM)などの変調技術により、一度に多値のデータが送受信できるようになっている。その多値変調技術は今回のマルチサブキャリア光送受信技術にも生かされており、さらなる多値化を目指して開発を進める計画だ。

 また、他の研究機関では光をコアに送り込むときの角度(入射角)を制御してコア内の光の伝搬経路を複数作り出すモード多重(マルチモード)技術、1本の光ファイバーに複数のコアを作りこむ空間多重(マルチコア)技術の研究も盛んだ。こちらは新開発のマルチモード・マルチコア光ファイバーを用いて1Pbps超の伝送速度が実証済み。

 これらの技術とマルチサブキャリア光送受信技術について、開発者は「対立するものではなく、それぞれ大容量化技術の要素として利用できるもの」と言う。つまりこうした新しい大容量光ファイバーにマルチサブキャリア光送受信技術を加えることができれば、さらに高速、大容量の通信が可能になるかもしれないということだ。

 ちなみに、現在各機関で開発中のチャネル当たり400Gbpsの伝送装置にもサブキャリアを使った高速化技術が組み込まれている。三菱電機ではサブキャリア1波当たり200Gbps(2波で400Gbps)を実現する技術を開発済みで、現在は実用化に向けた送受信機の開発を着実に進めている段階という。

 チャネル当たり1Tbpsのマルチサブキャリア光送受信技術の実用化は、今のところ2020年がめどになるとのこと。そのころにはIoTデバイスは約530億個。生産、自動運転、警備、公共交通などにIoTが普及・拡大していることだろう。

 また、日本では同年に世界に先駆けた5G(第5世代移動通信システム)実用化を目標にしており、現行比60倍(20Gbps)の無線通信が普及を始めそうだ。格段に情報流通量が増えることが予想される2020年は、三菱電機に限らず光ファイバー関連の技術開発の大きなマイルストーンだ。同年の東京五輪は世界に向けて日本の技術を披露する格好の舞台になる。それまでにどんな大容量化技術が登場するかが楽しみだ。

関連するキーワード

光ファイバーの大容量化技術

 波長分割多重、多値変調、偏波多重、モード多重、空間多重などの、1本の光ファイバーにより多くの情報を詰め込んで伝送する技術のこと。

「マルチサブキャリア光送受信」との関連は?

 マルチサブキャリア光送受信技術も大容量化技術の1つ。なお、光ファイバーの伝送速度について議論する時、さまざまな数字が出てきて混乱することがあるので付言すると、本文で1Tbps実現と言っているのは、コアが1つの「シングルコア光ファイバー」(既存の長距離伝送用の一般的な光ファイバー)を利用した場合の、通信チャネル当たりの伝送速度のこと。波長分割により1本の光ファイバーで数十〜百数十のチャネルが利用できるので、例えば88波を多重した時の1本の光ファイバーの伝送速度は88Tbpsとなる。

 また、光ファイバーにはマルチモード光ファイバー(データセンター内などの短距離伝送によく使われる)や、コアが複数のマルチコア光ファイバーもある。マルチモードのコアを複数備えるマルチモード・マルチコア光ファイバーを用いた研究では、複数の研究機関で1本で1Pbps超えが実証されている。なお、光ファイバーを数本から200本といった本数で束ねたものが光ケーブルで、何本束ねるかで合計の伝送速度が決まる。

波長分割多重

 光ファイバーが伝送できる波長は1260?1625ナノメートルの範囲。波長分割多重は、その範囲の波長を細かく分割して、分割された波長領域を1つの通信チャネルとする大容量化技術だ。チャネル数分の通信を同時に行うことができる。

 分割の方式に2種あり、DWDM(Dense WDM)方式では、数十から数百の分割ができ、長距離伝送でも信号損失が少ない利点があるが、比較的高コスト。バックボーンネットワークではこの方式が主流だ。もう1つは比較的低コストなCWDM(Coarse WDM)方式で、もっと大きな単位で分割し、8分割する製品が多い。こちらは光信号を増幅できないので短距離のみで使われる。

「マルチサブキャリア光送受信」との関連は?

 波長分割多重技術を利用しつつ、1チャネルの通信を11本のサブキャリアで同時伝送するのがマルチサブキャリア光送受信技術。1組の送受信器で伝送できる限界は現在のところ100Gbpsだが、それを1Tbpsにまで高めた。

多値変調

 光の位相角を識別し、複数のビットを一度に伝送する技術だ。4値位相偏移変調(QPSK)で一度に2ビット、8値位相偏移変調(8PSK)で3ビット、振幅の変化も識別する直角位相振幅変調(QAM)では16値で4ビット、64値で6ビット、最新技術では2048値で11ビットが同時に伝送できる。ただし雑音に弱いため、誤り訂正のための信号処理が不可欠だ。

「マルチサブキャリア光送受信」との関連は?

 マルチサブキャリア光送受信技術は、他の大容量化技術と組み合わせが可能。多値変調技術としては16値のQAMを採用した。十分な誤り訂正機能を開発し、多値化でも十分な信号対雑音比を実現している。

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