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天気予報革命「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」とは5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)

短時間での解析が困難だった「ゲリラ豪雨」を正確に予測できるシステムをNICTが開発した。高精度で結果を導き出す技術とは。

» 2016年08月24日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 今回のテーマは「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」だ。1時間に100ミリ以上といった量の局地的大雨や集中豪雨のことを俗に「ゲリラ豪雨」という。雨雲の情報を100メートルごとに30秒という早さでレーダー監視し、スーパーコンピュータ「京」のシミュレーションに直ちに組み込むことで、より早く、正確な降雨予測が可能になった。ゲリラとは予測がつかないところから名付けられた形容だが、局地的大雨はもうゲリラではあり得ないものになりそうだ。

「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」とは?

 超高解像度ゲリラ豪雨予測システムは、半径60キロ以内の地域の雨雲の状態を解像度100メートルで30秒ごとに観測し、そのデータをスーパーコンピュータ「京」による世界最高レベルのシミュレーションに取り込むことで、ごく限られた地域の降雨であっても事前(30分前)に正確に予測できるシステムだ。

 気象データの観測には情報通信研究機構(NICT)、大阪大学、東芝が共同開発した「フェーズドアレイ気象レーダ」(大阪大学吹田キャンパス、NICT未来ICT研究所(神戸)などに設置)が利用される。京のシミュレーションには観測データを組み込む部分は理化学研究所計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正氏らのチームが取り組んでいる。

 現在、気象庁の気象予報に使われるのは、パラボラアンテナを使った従来型のレーダーなどの観測結果を基にスーパーコンピュータでシミュレーションした結果だ。その観測結果は通常、2キロより粗い解像度で1時間ごとに新しい観測データが更新される。

 ところが、ゲリラ豪雨は数分のうちに積乱雲が発生し、発達するため、予測できなかった。そこで気象庁では「高解像度降水ナウキャスト」という仕組みを作り、従来型レーダーの他、XRAINと呼ばれる国土交通省が設置したXバンドMPレーダネットワークで250メートル四方の雨の分布を観測し、雨量計や地上高層観測の結果などを加えた初期値として予測を行っている。それでも予測結果の精度はまだまだだ。

フェーズドアレイ気象レーダーで観測時間を5分から30秒以下に

 精度が上がらない要因の1つは、積乱雲の中で雨の「タマゴ」であるファーストエコーと呼ばれる現象が生まれてから、地上に雨として落ちるまでの時間が10分程度と短いことだ。上空5キロ程度の高いところで生まれるファーストエコーを捉えたところで、地上での降雨までの時間がどのくらいあるかを予想しなければならない。

 そのためには、レーダーの観測は単に雨雲の水平分布を捉えるだけでなく、3次元で観測できなくてはならない。従来方式では、パラボラアンテナの角度を十数回変えながら360度回転させる必要があり、どうしても5分程度の時間がかかってしまう。現在の高解像度ナウキャストではこれが限界だ。

雲の発生と雨への変化の様子 図1 雲の発生と雨への変化の様子:10分間で大きな変化が起きる(出典:NICT)

 そこでNICTなどが開発したのが、従来のMPレーダーに代わるフェーズドアレイ気象レーダーだ(2012年発表)。これは平面にアンテナを128本並べたもので、幅広いビームを発射した後に同時に10本のビームの反射を受信することで、精密に雨雲の状態をデータ化できる。

 これを1回転させると、MPレーダーで5分かかっていたデータを10〜30秒程度で取得できる。つまり同時間で100倍のデータ量が取得できることになる。

 開発の中心となったNICT電磁波研究所の佐藤晋介氏によると、現在のフェーズドアレイ気象レーダーはMPレーダーが利用する偏波パラメータを使えないが、アンテナの改善を行うことで、偏波パラメータを利用して正確な雨量計測(雨粒のサイズの観測)を可能とするマルチパラメータフェーズドアレイ気象レーダーが近い将来実現する予定だ。

 図2にMPレーダーとの違いを、図3にフェーズドアレイ気象レーダーのイメージを示す。

MPレーダーとフェーズドアレイ気象レーダーの比較 図2 MPレーダーとフェーズドアレイ気象レーダーの比較(出典:NICT)
フェーズドアレイ装置とアンテナ走査のイメージ 図3 フェーズドアレイ装置とアンテナ走査のイメージ(出典:NICT)
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