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天気予報革命「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」とは5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2016年08月24日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」の結果と今後

 このシステムでどの程度、予測精度が上がるのかを図4で見てみよう。図の右端が実際の降雨の状況だ。左から順に「データ同化をせずに行ったシミュレーション結果」「解像度1キロのデータ同化を行ったシミュレーション結果」「解像度100メートルのデータ同化を行ったシミュレーション結果」を示す。実際の観測結果=正解にどれが一番近いかは一目瞭然だ。

シミュレーション結果と実際の観測結果の比較 図4 シミュレーション結果と実際の観測結果の比較(出典:理化学研究所 三好建正氏)

 2014年9月11日朝のゲリラ豪雨を3次元CGに再現したのが図5である。これも、100メートル解像度でデータ同化を行った場合のシミュレーションが非常に実際の観測と近いことが見て取れる。

過去のゲリラ豪雨時のデータを利用したシミュレーションと実際の観測値の比較 図5 過去のゲリラ豪雨時のデータを利用したシミュレーションと実際の観測値の比較(出典:理化学研究所 三好建正氏)

 ただし、雨量の正確な計測がまだできていないことの他、ビッグデータを同化した場合のシミュレーションにかかる時間も課題だ。これは計算性能の問題があり、京の能力を持ってしても、現状では更新されたデータの反映に10分程度の時間がかかってしまう。

 実際のシミュレーションは、初期データの誤差を勘案して、100〜1000通りの少しだけ違う初期値によって計算し、その平均を取るなどの仕事を行う。計算量そのものが膨大なのだ。

 将来、コンピュータ性能が上がればある程度は解決できるかもしれないが、今のところは京の最大性能を占有することも考えられないため、データを受けてから10分後くらいまでの予測をリアルタイムで行うのは難しそうだ。

 その部分を補う5分から10分先という程度の予測精度は、データ同化を行わない線形的な変化を予想する従来のナウキャストという予想手法の方が正確になる。これはレーダーの情報だけで予測できるのでNICTの佐藤氏は、まずはこの方式を使えるようにしたいという。2017年のゲリラ豪雨シーズンまでには利用できるようにしたい考えだ。

 また、共同開発チームとして、実用化に向けて30秒ごとに得られる観測データを30秒以内に処理するためのデータ転送や計算の高速化を追求、さらに高精度かつリアルタイムなゲリラ豪雨予測を実現していくとのことだ。

関連するキーワード

XバンドMPレーダー

 9ギガHzの周波数帯(Xバンド)を利用したレーダーで、2種類の偏波(水平、垂直)を送信することで雨粒の形状などから雨量を推定できる。MPは「マルチパラメータ」の略。国土交通省がこの方式のレーダーを国内各地に設置し、XRAINと名付けられたネットワークは河川の増水などの予報に役立てられる。

「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」との関連は?

 フェーズドアレイ気象レーダーは現在のところ偏波観測ができないため、雨粒の形状を観測できず正確な雨量が分からない。原理的には偏波を利用した送受信が可能であり、いずれアンテナなどの改善により、正確な雨量予測も可能になると考えられる。

データ同化

 数値シミュレーションを行うためには、初期条件と境界条件などのパラメータが必要だが、気象予測のシミュレーションではどちらも正確な値が得にくい。そのためシミュレーションは現実と異なる(予報が外れる)ことが多いのだが、予測と現実のギャップを埋めるために、実測データをシミュレーションモデルにうまく埋め込むと、より現実に近い予測を行える。数値モデルに実測データを埋め込んでなじませることをデータ同化という。

「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」との関連は?

 データ同化にはシミュレーションの数値モデルと計算能力、実測データが必要だ。数値モデルとしては「京」プロジェクトで開発された超高解像度の気象シミュレーションモデル、計算能力には「京」の世界最高レベルの性能を、実測データには30秒ごとに100メートルの解像度でデータを取得できるフェーズドアレイ気象レーダーからのデータを利用した。

アンサンブル予報

 気象予報が外れるのはデータに誤差があるか、結果に誤差が出るような計算手法を使っているかのどちらかだ。データの誤差は避けられず、スーパーコンピュータでも限りある計算性能を使う以上、近似式で結果を出さなければならない。

 そこで計算パラメータを多数用意して異なる結果を多数計算した上で、統計的に最も起こりやすい気象現象を選ぶ方法がとられる。これがアンサンブル(=集団)予報だ。例えば、台風の予想進路がある程度の面積を持った円で気象図上に表されるが、それはパラメータの誤差を含んだ可能性の幅を示す。

「超高解像度ゲリラ豪雨予測システム」との関連は?

 超高解像度ゲリラ豪雨予測システムでは、世界最高クラスの計算性能を誇る「京」を利用することを前提にしているが、やはりアンサンブル予報を行わざるを得ない。実用化にはこの部分も課題の1つになる。

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