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色も材料も接合強度も設計できる3Dデータ仕様「FAV」って何?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2016年09月14日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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FAVの課題と今後

 FAVのメリットは分かったが、これをどうやって出力するのかが問題だ。現在のところFAVが記述する情報を全部うまく反映できるような3Dプリンタはない。

 ハイエンドの3Dプリンタでは上述したAMFや3MFに対応した製品があり、色や材料などに関する中間処理を省略できているが、それでも全ては対応しきれない。実は、FAVは3Dプリンタありきの仕様ではなく、3Dデータ利用の「自由度を確保する」ことを最優先に作成された。

 製造、医療、教育など、3Dプリンタを利用した応用分野での実用を想定した際に、最低限必要な自由度に絞ったフォーマットではなく、グラフィックスやシミュレーション、CAD、CAM、CAEといったさまざまな情報を組み込んだ技術への対応の自由度も視野に入れた。FAVあくまでもデータフォーマットの仕様であり、それをどう使うかはアプリケーション側に託されている。

 もちろん3Dプリンタは最有力の適用領域だ。ボクセルの位置とサイズと色の情報だけを利用するなら、スライスデータを作成して既存の3Dプリンタでも出力することはそう難しくはなさそうに見える。2017年に登場しそうな普及価格帯のジェットノズル方式の3Dプリンタとも相性が良さそうだ。

 ただし、データ量が大きくなりがちなのが課題の1つ。富士ゼロックスの専門家によると、ビットマップ画像が圧縮技術の発展で軽量化が進んだのと同様に、バイナリ形式のFAVも高圧縮が可能なのではないかということだ。

 また、標準化も大きな課題だ。現在のところ、ISO(国際標準化機構)TC261でAMFが採用されているが、次期バージョンではボクセルの概念を取り入れる検討が行われ、FAVが参考にされるかもしれない。

 日本ではTRAFAMが次世代型産業用3Dプリンタおよび超精密3次元造形システムの開発を推進し、これとの関係も今後注目される。FAVはオープン仕様なので、対応ソフトとハードの開発が進めば、一気にデファクト標準となる可能性もあり、今後が見逃せない。

関連するキーワード

STL

 Standard Triangulated Language。3Dプリンタ大手の米3D Systemsが開発した3Dモデルのファイルフォーマット。モデルの表面形状をポリゴン(小さな三角形の集合体)で表現する。色や内部構造などの情報を記述することはできないが、軽量であることから多くのCADなど3Dモデリングソフトで利用され、3Dプリンタの標準的なデータとして広く使われる。

「FAV」との関連は?

 STLでは記述できない色、複雑な内部構造、接合強度などの情報をデータ自身に記述できるようにしたのがFAV。また、STLは形状の表現をポリゴンの集合で行うが、FAVはボクセルという体積を持つ単位の集合で行う。ポリゴンによるモデル設計は重なりや抜けなどのエラーが生じやすいが、ボクセルをベースにした設計ではエラーが生じず、ボクセルの編集、加工、置き換えなどがモデリングツールでなくても簡単に行える。

AMF、3MF

 AMF(Additive Manufacturing Format)は、2013年にISOおよびASTM(米工業規格会)の国際標準となった3Dデータの仕様。一般的なSTLには含まれない色、材料、内部構造、部品の配置、作者や著作情報などのメタデータもXMLで記述できる。

 3MF(3D Manufacturing Format)はマイクロソフトが提唱し、業界団体3MFコンソーシアムが開発する3Dデータの仕様(2015年公開)。AMFとよく似た特徴を持つ。

「FAV」との関連は?

 AMFと3MFも、従来のSTLでは記述できない属性を3Dデータフォーマットの中に含められるところがFAVと共通する。ただし、どちらもポリゴンベースのフォーマットであり、追加された属性を出力に反映させるには中間処理が必要となる。FAVは中間処理をせずに、データを直接3Dプリンタで出力することを目指す。

TRAFAM

 Technology Research Association for Future Additive Manufacturing、技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構。グローバルな競争力を持つ世界最高水準の次世代型産業用3Dプリンタおよび超精密3次元造形システムの開発を行う団体。日本の国家プロジェクトの一環として2014年に設立された。

「FAV」との関連は?

 TRAFAMの目的は、少量多品種で高付加価値の製品や部品の製造に適した3Dプリンタおよび超精密3次元造形システムの開発だ。金属材料を使い、レーザーや電子ビームで溶融、積層して、直接部品や最終製品として工業的に使えるものを生産できる技術のさらなる精密化や高速化を目指して開発する。FAVが適用可能な部分が多いと考えられるが、今のところ直接の関連はない。

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