省電力で広い版をカバーするIoTネットワークに新たな選択肢「SIGFOX」が登場した。既存方式との違いやそのメリットを詳しく解説する。
今回のテーマはLPWA(Low Power, Wide Area)技術の1つである「SIGFOX」(シグフォックス)だ。幾つかのLPWA規格の中でもより安く、より広域をカバーできると考えられ、2017年から日本での商用サービスが本格的にスタートし、本格的な普及が期待される。SIGFOXは他のIoTネットワークとどのように違い、どんなメリットがあるか。
SIGFOXは、フランスのSIGFOX社が2009年から提供しているIoT(Internet of Things/モノのインターネット)用のネットワーク規格だ。同規格の世界展開に当たって1国の国内サービス事業者を1社とする戦略をとっており、日本では京セラコミュニケーションシステム(以下、KCCS)が事業者となり、2017年2月から国内でのサービスを提供する。SIGFOXは欧州を中心に普及し、現在29カ国で1000万デバイス以上で利用される。2018年までには60カ国でのサービス展開を目指す。
LPWAが注目される背景には、ご存じのようにIoTデバイスの急増傾向がある。2020年には世界で530億個にのぼると予想され、センサー数で見ると2023年には1兆個を数える見込みだ(図1)。この膨大な量のデバイスからのデータをどのようにインターネットに送り届けるのかは大問題だ。これまでのネットワークとは別に、IoT用のネットワーク技術が各種考案され、一部が実用化、商用化され始めている。
IoT向けのネットワークには、従来とは異なる観点からの要件がある。その最大のポイントはコストだ。例えば街角の自販機、オフィス機器、家電品、水道メータなどさまざまなモノからのデータをインターネット越しに収集して利用するには、計測器(センサー)ごとに装備する無線ネットワークモジュールのコスト、そのデータを集約してインターネットに送り込むゲートウェイ装置(ルーター)のコスト、ネットワークそのもののコストを考えなければならない。モノの数が多ければ多いほど、コストの問題は深刻化する。
同時にネットワークが利用できるエリアについても課題が残る。例えば牧場の牛の管理を考えると、牛舎の中のゲートウェイで牛舎内の牛の健康データを集約することは従来技術でも簡単だが、放牧中の牛のデータでは難しい。
IoT向けネットワークの主な課題をまとめると、次のようになるだろう。
センサーなどの計測器コストに加えたネットワークモジュールのコストおよびゲートウェイ装置のコスト。現在主流の3G/LTE網の場合にはCPUやメモリの性能に対する要求レベルが高く、価格は高止まりしている。性能が低く低コストなデバイスでも、必要十分な情報送信が可能な仕組みがいる。特にゲートウェイ装置の場合、現在4〜5万円程度が目安になり、広域をカバーしようとすると数千万円の投資になる。
膨大な量に及ぶIoTデバイスはランニングコストをできるだけ下げる必要がある。それにはデバイスのメンテナンスは故障時や定期交換以外は行わないのが理想だ。電池を内蔵する場合は数年はそのまま稼働し、電池寿命が尽きる前にデバイスごと交換するのが望ましい。通信頻度が高いほど電池寿命は短くなるので、頻度高くデータを収集するシステムほど省電力性が求められる。
IoTに対応したネットワークサービスはまだ少なく、現在最低料金とみられる株式会社ソラコムのIoT向けサービスでも初期費用は別にして1回線当たりの基本料金で月額300円(100デバイスなら3万円)、その上にメガバイト当たり0.2円以上の利用料金が乗る。この料金をどこまで下げられるかが今後のLPWAの競争の焦点になりそうだ。
全国を面的にカバーするのが理想。従来の3G/LTE網を利用する以外には基地局を新設する必要がある(この場合のコストはネットワークコストに反映される)。できるだけ広いエリアを1つの基地局でカバーできることが望ましい。
LPWAはこうした課題を解決できるものとして注目されているわけだ。特に通信量が少なく、情報送信がメインとなるデバイスに向き、数キロの情報伝送が可能な技術として、図2に上げるSIGFOXは商用サービスが国内提供目前となり、LoRaWANは既に商用サービスとして国内提供されている。2017年中にはNB-IoTも提供される見込みだ。
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