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AIは仕事を奪わない? 富士通のAIがつくる未来のかたち(1/2 ページ)

膨大なデータの処理や制御を行うためにAIの技術は不可欠である。富士通が志向するAIは「人に寄り添う」というコンセプトを掲げている。果たしてその真意とは?

» 2017年05月19日 10時00分 公開
[溝田萌里キーマンズネット]

 AIと聞くと、人間の仕事を奪うのではないか、失業率を上げるのではないかという懸念を抱く人もいるだろう。30年後には、全てのホワイトカラーの仕事をAIが代替するというような説もささやかれ、AIの進歩を複雑な心境で見守ることもあるかもしれない。

谷口典彦 富士通 谷口典彦副社長

 しかし、デジタル技術の波が押し寄せている中、膨大なデータの処理や制御を行うためにAIの技術は不可欠である。富士通は、中軸となるAI事業の戦略として、人を押しのけるものではなく「人に寄り添うAI」というコンセプトを掲げている。

 人に寄り添うとは、「AIが単独で行動するのではなく、人の判断を大事にしながら業務を進める」(谷口典彦副社長)というもの。これを基本的な姿勢とし、「お客さまと一緒に、継続的に成長すること」「AIをサービス化して提供すること」という3つの指針に基づいてAIブランド「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」(以下、Zinrai)の技術やサービス向上に注力してきた。

 Zinraiは、同社が30年以上にわたって培ったAIに関する知見を体系化したもの。「素早くはげしいこと」の意である「疾風迅雷」という四字熟語を由来とした名前をひっさげて、2015年にAI「Zinrai」として登場した。

 2017年4月には、Zinraiの機能をパッケージ化した「FUJITSU AI Solution Zinraiプラットフォームサービス」(以下Zinraiプラットフォームサービス)の提供がはじまり、Zinraiがさまざまな分野で活用される土台ができた。2017年5月の時点で、Zinraiに関する商談は500件にのぼっており、富士通のAI戦略が机上の空論でないことが伺える。

 同社が2017年5月に開催した「富士通フォーラム2017」では、Zinraiを使った具体的な事例を紹介した。また、オンプレミス環境でディープラーニングを活用するための基盤を構築する専用システムを発表している。本稿では、同社のAI戦略の一端を紹介していこう。

富士通のAI戦略を体現するZinraiプラットフォームサービス

 Zinraiプラットフォームサービスには2つの特徴的な施策があると富士通では説明する。1つ目は、「AIのサービス化」を実現する施策だ。AIの機能をさまざまなビジネスに落とし込むためにクラウド上で30種類のAPIを提供する。これらは、18種類の基本APIと12種類の目的別APIに分かれている。前者の基本APIは、主に画像認識や音声処理などの「知覚・認識」、自然言語処理やパターン発見などの「知識化」、推論や予測などの「判断・支援」の3ジャンルに分かれ、既に9種類のものが先行で配信された。

 一方、後者の目的別APIは、交通画像認識や会話翻訳など、より細分化された場面にマッチするものである。これら30種類のAPIは、いずれも実際に富士通の社内業務で実際にZinraiを活用して培ったノウハウなどを基にニーズや実用性の高い機能を選んだ。

図1 30種類のAPIを提供 図1 30種類のAPIを提供

 2つ目は、「AIを継続的に成長させる」施策、すなわち「FUJITSU AI Solution Zinrai ディープラーニング」と呼ばれるディープラーニング基盤の提供である。これは、ディープラーニングを行うことで、AIの認識制度を向上させる基盤であり、クラウド環境とオンプレミス環境の双方で提供されている。

図2 Zinraiディープラーニング 図2 Zinraiディープラーニング

 富士通は2017年4月から、クラウド上で「Fujitsu Cloud Service K5 Zinrai ディープラーニング」の提供を開始した。つづく5月16日にはNVIDIAのハイエンドGPU「NVIDIA Tesla P100」を搭載した「Zinrai ディープラーニング システム」の販売が始まり、クラウドだけでなく、オンプレミス環境でもGPGPUを前提とした構成でディープラーニングを実施できるようになった。これによって、データを外部に持ち出したくないなどの理由から、オンプレミス環境でディープラーニング基盤を構築することを望む顧客の要望をかなえることができる。

 また、このディープラーニング基盤には「お客さまと一緒に」AIを成長させ、AIの学習モデルを最適化するための仕組みを用意していることも特徴的だ。例えば、富士通のクラウド側で学習したモデルを顧客のデバイス側に配信し、双方で得た知見を活用することで学習モデルをブラッシュアップしていき、顧客とともに継続的にAIを成長させることを実現している。

図3 Zinraiプラットフォームサービスの特長 図3 Zinraiプラットフォームサービスの特長

 富士通は、このディープラーニング基盤サービスとともに、各業務に適したAPIを組み合わせることで、多岐の分野にわたるAI活用を実現できると話す。今後も、さまざまなビジネスシーンに合わせて、ソリューションを提供していく予定だ。

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