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RPAブームに乗れている? システム化できない単純作業の救世主が現れた

「RPA」とは、バックオフィスをはじめとする人間の業務を自動化する仕組みだ。NTTデータが語った昨今の動向や導入のポイント、同社の取り組みなどを紹介する。

» 2017年06月08日 10時00分 公開
[溝田萌里キーマンズネット]

 「RPA」をご存じだろうか。最近では、英語3文字で表す用語が世の名にあふれかえり、英語3文字を見ただけでげんなりする方もいるだろう。しかし、本稿で説明するRPA(Robotic Process Automation)は、これからの時代を生きていく中でよけては通れない言葉かもしれない。

 RPAとは、一言でいうとバックオフィスをはじめとする人間の作業を自動化する仕組みのことである。何だ、特に目新しいものはないではないかと思うかもしれない。しかし、昨今の労働力不足や、海外の労働力の単価が高まったことによるオフショアの手詰まり、また労働環境の変化に左右されずに生産性を高めるという欲求などが相まって、人間の作業をシステムで自動化する「RPA」という概念が注目を集めており、その波が2016年の秋ごろから、日本にも押し寄せてきた。

 日本では現在、ITベンダーやSIerだけでなく、大手コンサルティングファームなどの企業がRPA事業に注力している。NTTデータもまたその1社だ。本稿では、このRPAについて、NTTデータが語った昨今の動向や導入のポイント、同社の取り組みなどを紹介する。

面倒なお仕事を自動化 RPA3つのメリット

 RPAは、これまで人間が行ってきた作業を人間に代わって自動化する。とはいえ、工場で動く機械式のロボットとは違い、ソフトウェアとしてPC上で動作して、企業で働く業務部門がこれまで担ってきた作業を代行する。人事、経理財務、調達、営業事務など、ERPでシステム化するには作業ボリュームが少なく、泣く泣く自動化には至らなかった作業をカバーできることが特徴だ。

 1つ例を紹介しよう。例えば、下の図はNTTデータが提供するRPA「WinActor」が、コールセンターに届いた顧客の問い合わせ内容を基に、従業員に対する工事作業の指示書を自動的に作成する例である(図1)。

図1 RPAで指示書作成を自動化 図1 RPAで指示書作成を自動化

 コールセンターから届いた問い合わせ内容を基に、RPAが顧客の名簿から受付番号、顧客の名前、住所、工事の希望日などの必要な情報を取り出して指示書に入力する。住所に関しては、地図ソフトを自動で起動し、住所を検索した後に、該当する地図を切り出して指示書に添付することも行う。

 このようなRPAを使うと何が良いのか。NTTデータは3つのメリットを強調した。1つは、人間に比べてスピードと生産性が向上することである。上記の例であれば、人間の約3倍の早さで作業が進む上、24時間稼働できるため生産性は手作業の約9倍だとNTTデータは話す。もちろん、ロボットが行うためミスは無い。

 2つ目のメリットは、プログラミングの知識が無い業務部門でも自らRPAを設定できることだ。以下は、RPAであるWinActor作業を行うためのシナリオを作成する様子である。画面右の住所管理システムで人間の手作業を記録し、それを画面左のシナリオに項目別に追加することで、フロー図のようなシナリオのひな型ができていく。こうしてできた業務フローになぞらえて、RPAが業務を再現する(図2)。

図2 RPAのシナリオ作成 図2 RPAのシナリオ作成

 3つ目のメリットは、システムを開発するよりも安価であることだ。内容にもよるが、通常、作業をシステム化するには数千万円ほどの費用がかかるため、費用対効果の薄い作業はシステム化から取り残される傾向があった。一方、NTTデータのWinActorの場合は、数百万から導入が可能であり、導入のハードルは低いとNTTデータは話す。

 同社によれば、さまざまなメリットがあるRPAであるが、導入の際には何がポイントとなるのだろうか。また、どのような導入事例があるのか。NTTデータの第二公共事業本部 第四公共事業部第二統括部RPAソリューション担当課長の中川拓也氏が語った。

導入を主導するのは、経営層または業務部門

 導入を検討する際に問題になるのは、誰が主導するかということだ。「従来の情報システム部主導の形から、目線の高い経営者層や業務部門の方が主導するようになってきた」と中川氏は話す。

 これは、業務の効率化を考える際、「ERPによってシステム化しよう」という発想から、「システム化できないユーザーオペレーションを自動化しよう」という発想へと考え方が変わってきたため。Foresters Researchの調べによれば、2020年にはERP周辺業務の64%が自動化されるという結果が出ている(図3)。

図3 2020年までにERP周辺業務の64%が自動化 図3 2020年までにERP周辺業務の64%が自動化

 この風潮によって、RPA導入を推進するのは、システム部から目線の高い経営層や、財務、購買部門など現場の業務部門へと変わってきた。そして経営企画部や改革室などがRPAの推進役としてとりまとめを行い、そのサポート役に情報システム部が従事し、実証実験の後に全社的な普及を目指してロボット室などが新設されるケースが多いようだ。

マクロと同じてん末にしない、運用に関する課題

 では、運用の際に課題は無いのだろうか。中川氏は、RPAがExcelマクロやEUC(End User Conputing)と似た特徴を持つことから、導入の際に同じような課題が発生することを危惧しており、十分なサポート体制が必要であると説明する。

 すなわちRPAは、エンドユーザーがシナリオを作れるという手軽さ故に、「類似のプログラムが多く、どこに何があるのか分からない」「他の人が作ったモノをメンテできない」といった管理・統制の問題が起こると考えられる。

 NTTデータはこの課題に対して、RPAが代行する業務の相談といったコンサルティングや、導入の実証実験、導入に向けた定着化支援、導入後のロボットの保守・運用まで一気通貫したサービスを用意する(図4)。

図4 NTTデータのRPAサービス 図4 NTTデータのRPAサービス

どの業界がRPAツールに適しているか

 「RPAが扱いやすいということも相まって、いろいろな業界の方からの相談が増えている」と中川氏は説明する。以下で同社の紹介した、某企業の購買部門や金融機関の融資業務における導入事例を見ていこう。

 請求書の入力審査業務にRPAを活用することで、生産性をアップさせた例がある。1日数万枚という請求書を取り扱う某企業では、請求書と決済の情報を突き合わせて、食い違った情報がないか目視で確認し、承認するという業務フローを30人体制で行っていた。

 このフローをRPAで代行するとどうなるか。請求書をOSRで文字データに変換した後、ロボットにそのデータと決済情報を確認させ、2つのデータに食い違いがある場合のみアラートを上げるように自動化したところ、作業を5〜6人で賄えるようになったと中川氏は話す(図5)。

図5 請求処理業務の自動化 図5 請求処理業務の自動化

 金融機関の融資業務もRPAで自動化することが可能だ。従来、金融機関では、融資の申し込みがあった場合に、同じ顧客情報を、基幹システム、顧客管理システム、外部の信用機関などに分けて複数回登録する必要があり、作業効率が悪かった(図6)。そこで同社のRPAツールであるWinActorを使用したところ、入力作業はを1回に削減できた(図7)。また、自治体や警察といった機関から来る預金者の問い合わせに対して、自動で顧客情報をの検索をし、リスト化するというケースもある。これまではリスト化の作業を全て人手で行っていたが、RPA導入後は同姓同名などのまぎらわしい情報だけに人間の判断が必要になった。

図6 金融機関の融資業務を自動化する前 図6 金融機関の融資業務を自動化する前
図7 金融機関の融資業務を自動化した後,図7 金融機関の融資業務を自動化した後

 昨今クラウドの活用が進む中で、「外部のサービスと自社システムを横断してデータを自動的に連携させるニーズも増えている」(中川氏)例えば、Webバンキングと自社システムのデータ連携作業を自動化することも可能だ。Webバンキングから、最新の口座情報などをダウンロードし、自社のシステムに登録したり、逆に自社のシステムから企業振り込み情報などを検索し、銀行への振り込み処理などを自動で行う(図8)。

図8 外部のサービスと自社システムを自動連携 図8 外部のサービスと自社システムを自動連携

 通常、外部のサイトと基幹システムを連携させると数千万円のシステム開発費用がかかってしまうが、RPAはより低コストでシステム連携できなかった業務を代行することが可能だ。

RPAを武器にあらゆる業種が参入

 このように、RPAを利用するユーザー企業が増える中で、NTTデータはベンダーやSIer以外の企業もRPAを自社のサービスとして展開する構想が生まれてきていると話す。例えば、Webバンキングがユーザー企業にデータを提供するオプションサービスとして、ユーザー企業向けにシナリオを設定したRPAを提供するといった具体例だ。また、人材派遣会社がRPAの技術を有した派遣社員とともにRPAを提供するケースや、ITベンダーがERPとRPAをセットで提供するといった構想もある(図9)。

図9 あらゆる業種がRPA市場に参入 図9 あらゆる業種がRPA市場に参入

 「あらゆる業界の人がRPAを武器にして市場に参入してきている」と話す中川氏。RPAに対する期待感が世界的に高まり、海外のベンダーも台頭する中で、NTTデータは唯一日本語に対応するツールという国産ならではの強みと取り扱いの容易さという特長を武器に、さまざまなパートナーと協業してRPAの裾野を広げていく予定だ。

 「業務フローのあらゆるところにRPAが導入できると考えている」(中川氏)今後同社は「手足や五感に相当するようなRPAを充実させるとともに、単純作業を代行するだけでなく、自律的に高度な判断ができる賢いRPAを目指す」と語った。

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