ロボットへの業務教育方法、RPAに適する業務、導入と運用管理、他部門などへの展開など、先行企業のRPA導入事例を紹介する。
RPA導入には従来のITシステム導入の手続きとは異なる部分が多々ある。長期にわたり工数を重ねて設計、開発されるITシステムはリリース直後が最高品質であるのに対し、RPAシステムは運用の中で改善が進み、徐々に品質が高まっていくのが特徴だ。まるで現場に配属された新入社員のようなものだ。今回はRPAに適する業務は何か、導入、運用管理、他部門への展開などの際のポイントと、先行企業のRPA導入事例を紹介する。
RPAは人間が行うPC上の作業を代行する。その機能を効果的に使えるのはどのような業務だろうか。既に国内100社以上(金融・通信など大手企業含む)にRPAを導入、4000台以上のロボットを提供済みのRPAテクノロジーズでは、図1のようなタイプのロボットが実際に稼働しているという。
図1を補足すると、RPAに向いている業務は、具体的に次のようなタイプの作業だ。
ルールに従った定型的な手順がある作業
Excel申請書などから業務システムへの転記、各種システムやWebサイトから特定目的データを抽出してのレポート作成、定期的なマスターデータのシステム間連携、月次締め処理、特定の状況をトリガーとしたメール送信や請求書発行、各種ログデータの自動収集とレポート化など
チェックや確認を自動化できる作業
複数データの照合による確認(従業員の経費精算確認など)、申請書内容の社内規定との整合性チェックなど
特定情報ソースからの情報取得作業
株価、為替、商品価格、その他、頻繁に更新されるWeb上の情報の自動取得や情報配信など
繰り返し実施される人間が間違いやすい作業
複数Excel申請書などから業務システムへの転記、特定データの複数システムへの入力、条件分岐が多い業務フローがある作業など
夜間・休日に行う作業
店舗からのデータを夜間や休日に集約してレポート化するとともに別システムにデータ連携など
業務システム間をまたがる作業を自動化するのは効果的だが、2つのシステム間だけの連携をRPAで作り込むだけではコスト効果面であまり有意義ではない。といって10以上のシステム間の連係を作るようではかえって複雑化させるだけだ。人間が普通に作業できるような数(10以下)のシステム連携が望ましいといえる。
ツールベンダーやコンサルティング会社への取材では、RPA導入の窓口になる部門は「情報システム部門」「経営企画部門」「人事などの業務部門」の3通りがあるという。その違いは、規模と用途、ツールのタイプやスケーラビリティによる部分もある。図2に示すのは、ほぼ規模別のRPA導入形態だ。
個別の業務の小規模な自動化ならエンドユーザーのEUCの延長としてデスクトップタイプのRPAツール(図の協働分散型RPA)が向いており、個別のフロントエンド業務にぴったりフィットする自動化ができよう。ただしスケーラビリティはほぼない。
それよりももう少し大規模に業務を部門やチーム内部で自動化したい場合には、業務部門内で各ロボットの集中管理が可能な、センターサーバを設ける手法(独立分散型RPA)が適する。現場に近いだけに個別業務に柔軟に対応できるが、一方でガバナンスの問題が生じやすくなる。例えば連携する業務システムにバージョンアップなどの変更が加わると、関連するロボットに影響が生じることがあり、そのための対応が難しくなる。
管理効率の面からは、個々の業務部門と管理責任組織を切り離し、センター化する方法が望ましい(センター型RPA)。こちらは変更の多いフロントエンドの個別業務プロセスよりは、確立された業務プロセスを回すバックエンド業務用途に都合がいい。ただしその場合にも業務現場との緊密なコミュニケーションが必須だ。
業務現場のニーズを適時に拾えないRPAになってしまっては本末転倒だ。大規模運用が進んでいる現在ではセンター型の価値が認識されるようになり、管理についての責任は特定部門(情シスに限らず経営企画部門や業務部門の場合もある)が負う形態が増えているようだ。
このような導入形態のどれが適するかは、製品選択の1つの観点になろう。分かりやすい機能面や性能面の他に、全体に対してガバナンスを効かせられる管理性が重要ポイントになる。
センターでロボットを管理する構成のイメージはおおよそ図3のようになる。各ロボット(実行端末)や開発端末の稼働状況を監視できる他、例えば図4、5のように各タスク(ロボットのシナリオ)を設定したり、変更したり、スケジューリングしたり、実行のトリガーを設定したりといった集中管理が行える。
タスクに対してスケジュール以外の各種トリガー起動設定が可能
大規模なRPA展開の際には、こうした集中管理機能が不可欠だ。またツールを利用しながら社内への展開・浸透を図り、運用にガバナンスを効かせる専門組織も必要になる。これは取材したツールベンダーやコンサルティング会社が強調しているポイントで、米国では既に「RPAマネジャー」という職種が人材募集要項に記されるようになっているという。専門的管理スキルを持った人材と現場スタッフや管理者を含むRPAチームの編成も、特に全社展開や企業グループへの展開を考える場合には重要なポイントだ。
大規模になると一層短期間での開発やスムーズな保守運用が重要になる。故障〜復旧対応なども含むトラブルシューティングも自社内で完結できることが望ましい。最初はベンダーやコンサルティング会社にサポートを依頼することになるが、そこからノウハウを吸収し、徐々にスキルを高めていこうとすることが重要だろう。
RPA導入はあくまで現場主義で行うべきものだ。従来の業務システム導入のように事前調査や要件定義に数カ月から半年などといった時間はかけられない。今の課題を解決するためのRPAをまず形にし、業務現場スタッフと管理組織を始めとする関係者が使い勝手や効果を評価した上で、導入、展開を図っていくのが常道だ。そのためには早期のプロトタイプ開発が欠かせない。
図6は、デロイトトーマツ コンサルティングが示す導入方法論の一部である。まずはRPAのパイロット導入のため、業務を把握し、対象業務プロセスの評価、ベンダーの選定、導入ロードマップを描いた上でのコスト対効果の算出などを行う。パイロット導入フェーズでは関係者でRPAチームを結成して、ツールのインストール、ロボットの教育、開発、テスト、評価の作業を繰り返して改善し、自動化プロセスの例外の把握やその対応などもできるだけ含めながらプロトタイプを構築していく。プロトタイプ運用の結果が良好なら、現場での意見を取り入れながら、他の業務領域にもRPAを広げていくという流れが想定されている。
最後に、RPA導入事例を幾つか紹介しよう。
保険事務業務のシステム化が不十分で、複数の業務システムをまたいで行う手作業が多く残っていた。新しい技術の採用で非効率な部分を自動化し、それを皮切りに事務全般の合理化を進めたいと考え、RPA導入に踏み切った。投資資金、人材、時間が限られている中で、システム処理の実態はそのままに、操作の自動化だけを行った(図7)。実働20〜30日で20台のロボットを稼働開始、成果を上げている。
RPA環境は専用ではないPCサーバを開発用に4台、実行用に2台使い、エンドユーザーは開発用サーバにアクセスしてロボットの追加などが都度できるようにした。PC上の複数システムをまたいだ操作を自動化(図8)した結果、次のような効果を手中にできた。
契約事務担当部署
複数システムやツール、管理簿など多くの手間がかかるオペレーションに悩んでいたが、11台のロボット導入で約3人日/月の負荷削減効果が上がった。
契約受付システムのWeb再構築プロジェクト
申込書受付システムの入力データを契約管理システムに連携して計上していたが、手作業では高負荷、データ連携の開発投資はできなかった。RPA導入により、4台のロボット導入で1日あたり約300件が処理できるようになり、約37人日/月の手作業を削減した。
営業推進、商品マーケティング、コンプライアンス部門
手作業が日々発生することが問題視されたが、5台のロボット導入で約6.3日/月の負荷削減が実現した。
生命保険募集人の管理部門
当日に氏名変更のある募集人を募集人管理システムからダウンロードし、契約管理システムへ反映する作業は1日に大量発生することもあればゼロのこともある。RPA導入でロボット1台を稼働させると人間が操作する必要がなくなり約3日/月の作業負荷削減と、繁閑吸収に役立った。
RPA導入事例は最近豊富に開示されるようになってきた。上記以外にも、さまざまな業務へのRPA適用事例があるので、参考までに簡単に紹介しよう(事例資料はアイティフォーより)。
銀行A
社内に報告する通達業務を対象に、本部宛報告ファイルを回収、集計・エラーチェック・期日前リマインド・期日後督促を実施。業務アプリで確認、メールを作成送信。
銀行B
通達内容がルールを順守しているか否か、不備がないかを確認し、申告/修正依頼メールを送付。業務アプリで確認、メールを作成送信。
エネルギー会社A
交通費の申請内容をチェックし承認・否認結果をメールで通知。
エネルギー会社B
会計データ作成システムの「勘定残高確認状況照会」画面にて、未確認箇所を把握し対象所属にメールで督促。
エネルギー会社C
会計システムへの登録原票作成、会計システムへの登録(入力)。
サービス業A
入金消込業務にて、オンラインバンキングサービスからデータをCSVでダウンロード、Excel経由で加工し会計システムに取り込み、自動消込のオペレーションを行う。
サービス業
コールセンターにて、顧客が購入した商品の返品・返金処理を行う(顧客情報や販売履歴などを単一画面で参照できるようにするスタッフサポート型のRPA関連ツールを利用)。
製造業
検収対象案件の仕様書を業務システムを検索して確認、表示して印刷するフローを自動化。
電気機器メーカーA
四半期ごとに売掛実績データを抽出、任意フォルダに格納。集計データを添付して、メールにて経理部門へ通知。
電気機器メーカーB
1日1回、連結決算精算のバッチ処理を自動実行。結果のダウンロード、前回数値の追加、帳票出力、関係者へのメール配信までを自動化。
通信、放送会社
インターネットバンキングへのログイン、入金明細のダウンロード、顧客情報検索、入金情報入力のプロセス、さらに入金明細(入金伝票連絡表)の作成、メール作成、送信も自動化。
以上、RPAの適用しやすい業務や導入・運用管理に当たってのポイントと成功事例を紹介した。
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