体調を予言できるシステムがあったとしたらどうだろうか。「午後のあなたの体調模様は“土砂降り”です」と予報されようものなら、休憩時間が増えるのか。安全運行サポーター協議会の取り組みを紹介する。
商用車の運転を務めるプロドライバーの健康状態を予言できる技術があるとしたらどうだろうか。プロドライバー不足問題が深刻化する中、繁忙期には1人のプロドライバーにかかる労働負担が重くなり、心身への負荷が事故を誘発する危険性も高まる。
昨今ではプロドライバーの健康疾患に起因した痛ましい事故が発生していることも事実だ。企業がプロドライバーの健康状態を把握し、事故を予防するための対策を打つことは必須だといえるだろう。
そうした時勢の中「プロドライバーの健康状態を予想し、安全運行に役立てる『体調予報』システムの開発に力を入れている」と話すのは、安全運行サポーター協議会、安全・健康プラットフォームWGで主査を務める北島洋樹氏だ。
同氏は、「CEATEC JAPAN2017」(幕張メッセ、10月3〜6日)のカンファレンスに登壇、同ワーキンググループで福主査を務めるタニタの新藤幹雄氏とともに「事業用自動車の運転者の安全・健康管理におけるヘルスケアウェアラブルなどの活用」と題する講演を行った。
本稿では体調予報システムよって企業がプロドライバーの体調や健康を管理し、事故を防ぐ方法について、講演会の内容を基に紹介する。また、後半ではCEATECの展示会ブースに展示された自家用車も含めた車両ドライバー用のウェアラブル機器や車載センサーなどに注目したい。
講演では、新藤氏が運転者の健康に起因した事故の発生状況について説明。プロドライバーにおいては、一時の不調だけでなく、生活習慣病など日常生活に起因する不調が大きな事故の直接的な原因となり兼ねないことを示し、日頃からプロドライバーの健康や体調を管理することの重要性を訴えた。
同氏がその根拠として示したのは、国土交通省が公表する「自動車運送事業用自動車事故統計年報」(平成25年度/平成27年3月発表)。平成25年度において事故を誘発した運転者の疾病を見ると、脳疾患や心疾患、糖尿病や高血圧といった生活習慣病に起因したものが多く並んでいることが分かるという。
ドライバーは生活習慣病を患う傾向にあるのだろうか。安全運行サポーター協議会が40代のプロドライバー41人を対象に行った調査では、全体の40%以上が生活習慣病の1つである高血圧に分類され、同年代の一般男性と比較しても高い割合の数字であることが分かっていると新藤氏は説明する。
「生活習慣病を患っているプロドライバーにおいては、過労やストレスといった二次的要因が脳疾患や心疾患などの症状を引き起こし、結果的に突発事故を招く」と新藤氏は考察。こうした事故を防ぐためには過労運転の防止や運転状況の監視といった労務管理に合わせて、ドライバーの健康管理を行うことが重要だと主張した。
労務管理と健康管理の両輪を企業はどのように満たせばよいのだろうか。プロドライバーの場合、労務管理ではデジタル式運行記録計で車両の運行状況を自動的に記録する企業も多いだろう。しかし、導入して記録するだけでは効果が出ず、運用に苦戦する場合も多い。健康管理においては、点呼の際にヒアリングを行うなどのフローを設けているかもしれないが、本人の申告だけではプロドライバーの日々の体調を管理できているとは言い切れない。
こうした課題の打開策として、労務管理と健康管理のデータを掛け合わせ、プロドライバーの未来の疲れ度合いを予測する体調予報システムの開発に踏み切ったと北島氏は話す。この体調予報システムでは、運行表における「出庫」や「帰庫」といったイベント毎に、ドライバーの体調を「快晴」から「土砂降り」までの5段階で評価し、予測する。体調に「土砂降り」の予報が出た場合には、プロドライバーに休憩を多くとらせるなどの対応も可能になる。
体調を予測する上で、具体的に使用するデータは、年齢や性別、健康診断結果といったドライバーの基本情報、運転時間や休憩時間といった労務情報、そして脈拍、睡眠状況といった日々の測定データなど。この中で労務情報や日々の測定データは、ウェアラブル機器から自動的に取得する仕組みだ。
「労務情報は、デジタル式運行記録計を使って取得する。また、バイタル情報などの日々の測定データは、運転中に装着するウェアラブルの脳波計、脈拍計などを活用して収集する」(北島氏)
ウェアラブル機器からはデータをリアルタイムで収集し、乗務中のドライバーの急変などを察知した場合は、水際対応することも可能。また、体調予測の際には、こうして集めたデータを、匿名化し、体調予報ライブラリに蓄積、分析した上で結果を出力する。
体調予報システムの精度も年々向上しており、2016年に実施した、長距離トラックや高速乗り合いバスのドライバーを対象とする実証実験では、体調予報がの出力結果が実際のドライバーの体調と90%以上の確率で一致したケースもあった。2018年のサービス提供開始を目指し、さらなる精度の向上を図るという。
「体調予報システムでは、1人のデータを蓄積していくことで、予報の精度を継続的に向上させることができる。とはいえ、1人の対象者のデータを蓄積するには時間がかかるため、今後は多くの対象者のデータを集積したビッグデータを形成し、特徴が類似した人のデータを基に精度の高い結果を出力できるようにしたい」(北島氏)
前述したように、体調予報システムの核は、ウェアラブル機器から収集するデータにある。ここで使われているウェアラブル機器はタニタや富士通、デルタ工業、デンソーなど各社が開発したものだ。CEATECでは同様に、車両ドライバーの安全をサポートすることを目的としたウェアラブル機器の展示が多くみられた。
図5は、NTTドコモが提供する眠気検知セットだ。ドライバーは専用の下着「hitoeウェア」を着用、スマホ用の「眠気検知アプリ」と連携して利用する。下着の胸の部分についている装置「hitoeトランスミッター01」は、Tシャツとアプリを連携させる媒介を果たす。
東レが開発したhitoeウェアの裏には、心拍数を計るためのセンサーが搭載されている。このセンサーによってドライバーの心拍数を計り、データをhitoeトランスミッター01がスマホアプリへと送信する。ドライバーが眠気を催した場合には、心拍数データを基にアプリが危険を察知し、ドライバーにアラートを送るという仕組みだ。アラートは管理者や、別途アプリ上に登録した第三者にも通知でき、アラートを受け取った人物がドライバーに連絡して状況を確認するといったことも可能だ。
提供の際は、hitoeウェア、hitoeトランスミッター、眠気検知アプリ1ライセンスの1セットを4万2000円(税別)で提供する。
オムロンの展示ブースでは、ドライバーが運転に集中できているかを判断する「ドライバー見守り車載センサー」が展示していた。
ドライバー見守り車載センサーは、カメラによる画像でドライバーの様子を認識し、ドライバーの運転状態に問題があればアラート音を発する。センサーの肝となる画像認識では、同社がRNN(Recurrent Neural Network)と呼ばれる技術を独自に改良た「時系列ディープラーニング」の技術が活用されており、「ドライバーが運行の状態を注視しているか」「ドライバーがどれだけ早く運転に復帰できるのか」「ドライバーが運転席にいるのか」という時系列の概念を含んだ3つの指標で集中度を計測する。また、同社の顔認識技術である「OKAO」を搭載することで、ドライバーがサングラスやマスクをした状態であっても、センシングが可能となっている。
「この2つの技術を用いた画像認識によって、例えば、ドライバーの目が一定時間以上閉じていたり、脇見をしていたり、スマホの操作を行っていたりした場合に、状況を察知し、即座にアラートを発することができる」と同社は説明している。
車載センサーの形態として、既存の車両にセンサーを外付けするタイプと自動車を制御するシステムに組み込むタイプの双方があるという。後者の場合、センサーがドライバーの集中度に異変を検知した際に、アラートを発するだけでなく、システムと連携して車両を止めるといった対応も可能になるだろうと同社は説明する。同センサーは2020年をめどに、発売される自動車への採用を目指すという。
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