こうした欧米の先行研究における健康に関連する企業の総コストの構成比や、健康リスク数との相関性などは、日本の組織においてもほぼ同じであることが、尾形教授率いる東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットの研究により示されている(図6)。
また、同研究によると、「主観的健康感」や「生活満足度」「仕事満足度」「ストレス」といった心理的リスクが、他の生物学的リスクや生活習慣リスクと比べても、プレゼンティーイズムによる損失により強く影響することが分かっている。
「心理的リスクの影響までを含めてプレゼンティーイズムによる損失をいかに抑えるかを考えることが、健康経営には欠かせないでしょう」(尾形氏)
本格的に健康経営に取り組むとなれば、従業員の健康データをはじめ膨大なデータを取り扱うことになり、ビッグデータ分析やAIの活用などの効果が期待できる。さらに、今後はウェアラブルデバイスなど健康関連のIoTが本格化すれば、扱うデータの幅が広がり、より高い効果を見込むことができる。
「ディープラーニングなどを用いれば、われわれの考えられないような健康と生産性との相関関係が分かるかもしれません。健康経営を実践するに当たり、ITは非常に強力なツールとなることでしょう」(尾形氏)
最後に尾形氏は、これから健康経営に取り組む企業に向けて、次のように語ってくれた。「健康経営の取り組みは、企業の生産性に関係すると言うと、よく労働生産性を上げることだと思われるのですが、そうではありません。健康経営というのは、労働生産性を100から110へと上げるものではなく、90に落ちていた状態から本来あるべき100に戻すためのものだということを最初に理解しておいてほしいのです。その上で、まずは自社の従業員の健康状態など状況を可視化して、何が問題なのか把握することから始めるのが重要なのです」
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