「RPAを一度導入してしまえば、手放せなくなる」――そう強調するアビームコンサルティングが、RPA業界の動向や同社の知見を発表した。本稿では、同社が指揮したRPAの特徴的な導入事例や企業の導入状況を紹介する。
「RPAを一度導入してしまえば、手放せなくなる」――そう話すのはアビーム 戦略ビジネスユニット執行役員 プリンシパルの安部慶喜氏だ。
RPA(Robotic Process Automation)とは、ソフトウェアに人間の行う作業手順を登録することで、手順通りに仕事を進める「お仕事自動化ロボット」。データの転記や入力などの単純作業を「素早く正確に行う」ことに加え、システム開発よりも低価格で導入できるというメリットが注目を集める。
そうした情勢の中、RPA導入を支援するアビームコンサルティングは12月7日、RPA業界の動向や同社の知見を発表した。その内容を2回に分けてお届けしたい。前編となる本稿では、同社が指揮したRPAの特徴的な導入事例や企業の導入状況を紹介。そして後編では、既にRPAを活用している企業の悩みとその解決策を解説する。
安部氏は、同社が導入を指揮した事例の中から特徴的なものを3つ紹介した。1つ目は、OCRという文字認識技術とRPAを組み合わせ、売掛金処理を自動化した事例だ。導入後には、大幅な処理工数とミスの削減を実現したという。
売掛金消し込み処理とは、売掛金での取引があった場合に、支払明細と入金データを照らし合わせ、既に入金が完了しているデータを消していくこと。これによって売掛金が請求通りに回収できているか、データ上の残りの売掛金が実際の入金でズレていないか、回収の遅れが出ていないかを確かめる。
この作業を自動化する前は、多大な工数がかかっていたと安部氏は説明する。すなわち、支払い明細書と入金データを照らし合わせ、データが一致した場合には、売掛金の消し込み処理をし、処理が終わったタイミングで承認者に通知メールを送付、承認者が最終確認を行うという流れを人力で行っていた。
一方、RPA導入後には人間の作業は、支払い明細書をPDF化すること、そして承認者が最終確認をすることの2つだけに縮小された。ここでは、紙の明細書をPDF化することで、デジタルデータへと変換するという最初のステップがポイントだ。PDF化された支払明細書の内容は、OCR技術を介して、RPAが読み込むことのできるCSV形式のデータに変換される。その後RPAがその内容と基幹システム内のデータを照らし合わせ、情報に食い違いがない場合には消し込み処理を行い、承認者に通知メールを送るという仕組みだ。
「人間が行う作業の省力化につながった」と安部氏は説明する。
「人間が行う作業を代替するだけでなく、人間では不可能なRPAの処理能力を生かした先進的な事例もある」(安部氏)
同氏が挙げたのは、情報収集作業と収集したデータをシステムへ登録する作業をRPAで自動化した例。具体的には、エンターテインメント事業を展開する企業において、天気情報やチケット販売状況といったビッグデータを、外部のWebサイトや社外システムから収集し、社内システムへ登録する作業を自動化した事例だ。こうして収集したビッグデータを生かし、物販戦略を立てたり、天気と客数の関係分析をしたり、チケットの種類を検討する際に活用したりなど、集客向上につながる施策を展開できるようになったという。
「人力では、1日に何回も外部のWebサイトやシステムを巡回してデータを収集し、リアルタイムにシステムへと登録する作業は不可能。RPAの導入によって、人間では不可能だった作業が可能になった。人間の作業をロボットが代替するというレベルを超えた先進的な事例となっている」(安部氏)
「海外の現地法人でRPAを導入したことによって、課題を解決したという例もある」(安部氏)。具体的にRPAが適用された業務は、中国の現地法人における販売戦略立案のための情報収集作業だ。
自動化前は、他社の商品情報などをWebサイトから収集する作業や、商品情報のデータの補正処理、各種集計作業に20人の従業員で10日間が必要だった。この作業をRPA化したことで、同じ作業を1日で完了できるようになったと安部氏は説明する。これによって、戦略立案のサイクルが短期化されただけでなく、海外拠点ならではの課題解決にもつながった。
例えば、RPA導入前は、スタッフが離職する度に必要だった作業の引き継ぎや、新しいスタッフへの教育が大きな負担となり、さらに離職率を高めるという悪循環が発生していた。RPAで作業が自動化されたことによって、引き継ぎ作業が不要となり、高止まりしていた離職率に改善が見られたという。
また、その他に得られた効果として「言い切れない部分もあるが、海外法人では作業のミスが多いという問題も発生しがち。RPAで行えばミスがないので、作業の質も上がる」と安部氏は説明した。
国内でも先行事例が増えつつあるRPAだが、実際に企業の導入状況はどうなっているのだろうか。同社は日本RPA協会およびRPAテクノロジーズと共同し、2017年7月から9月末までの期間で寄せられたRPAに関する問い合わせの件数およびRPA導入実績件数などを基に、日本におけるRPA導入動向調査を実施した。同じ内容で同年1月から6月までに実施した調査結果と比較し、以下のような状況が分かったという。
第一に、「RPA導入件数は速いスピードで増加しており、幅広い業界で導入が進んでいる」と安部氏は説明した。図1のように、RPAの導入件数は、前回の調査時には月に平均して約35件増加していたのに対し、今回は月に約50件のペースで増加している。「このペースで、導入件数が加速度的に増加していけば、2018年末には1000件を超えることも考えられる」と安部氏は指摘する。
また、調査期間内にRPAを導入した企業を業種別に分類した結果、前回調査ではサービス業を営む企業の割合が多かったのに対し、メーカーの割合が拡大した。「日本企業の業種構成に類して、幅広い業種での導入が進んでいる。産業を問わず、興味の輪が広がっている」と安部氏は指摘する。
企業規模をベースに導入状況を見るとどうだろうか。調査期間内にRPAを導入した企業を、従業員数別、売り上げ規模別に調査した結果、1000人以上の従業員数を抱える企業、売り上げが500億以上の企業がそれぞれ全体の約6割を占めるという結果になった。これは、前回調査とほぼ変わらない数字だ。
一方で問い合わせ件数を見ると、前回調査時に比べて中堅以下の企業の割合が増えているという。これが2つ目のトピックだ。例えば、従業員数別では1000人未満の企業からの問い合わせが全体の47%から60%へと上昇した(図6)。売上規模で比較しても傾向は同様であり、売上規模が500億円以下の企業の問い合わせは、全体の53%から62%へと上昇している(図7)
同社では、実際に導入した企業の状況も調査した。その結果、「RPAの業務削減効果は高く、また短期間での導入が増えている」ことが分かったとしている。根拠として、96%の企業で5割以上の業務工数を削減したという結果が得られたことを強調(図8)。また、RPAの導入を1カ月以内に実現した企業は、前回調査の5割から約8割にまで増加したことも見逃せないポイントだと説明した(図9)。
安部氏は、この状況について「具体的な導入事例が増えたことで、RPAの具体的な導入方法といった知見が広がっているため」と話す。
さて、企業規模、業種に隔たりなく関心の裾野が広がっているRPAだが、導入の際にはさまざまな悩みも出るだろう。次回は、同社が説明した、RPA導入に際してありがちな悩みとその処方箋を紹介する。
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