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RPA導入が業務部門主導のイノベーション巻き起こすーーNTTデータが考えるRPA導入の”王道”とは

» 2018年03月14日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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最新版の「Ver.5.0」が3月1日にリリースされた純国産のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツール「WinActor/WinDirector」。日本の繊細な業務環境にフィットし、PC1台へのインストールですぐ始められる同製品に早くから着目してきた販売元の株式会社NTTデータ(東京都江東区)は、多業種にわたる500社以上の導入実績を誇っている。豊富な事例に基づく知見が示された「RPA SUMMIT 2017 IN OSAKA」(2017年11月に大阪で開催)での同社セッションから、ロボットを職場へ円滑に採り入れるための”王道”について紹介したい。

AIブームから見えてきたRPAの価値

従業員数が10万人を超えるシステムインテグレーター最大手のNTTデータ。その中で現在RPA関連事業の中核を担うのは、省庁のシステム構築を柱としてきた「第四公共事業部」だ。ここ2年で一気にRPAへの注力を進め、現在は150人がRPA専門のメンバーとして参加。自身のビジネスモデルまで変革し、今では顧客比率が民間企業70%、金融機関20%、公共機関10%になっているという。

意外な事業展開の背景について、同社RPAソリューション担当の中川拓也氏(第二公共事業本部第四公共事業部第二統括部課長)は「省庁向けだったOCR(光学文字認識)技術を、『Prexifort-OCR』という商品にして金融機関にも販売したのが始まり。フロント部分にあたる紙の自動入力を支援していると、コアとなる基幹システム周辺こそ自動化が進んでいない現実が見えてきて、WinActorの導入に注力するようになった」と経緯を説明。加えて、RPAのニーズが大きく、また急速に普及する背景を「社内の関係各所の利害が一致」「AIブームから現実解へのシフト」という2つの視点から整理した。

まず、AI(人工知能)がトップ棋士に勝利するなどの影響もあって、経営者層や業務部門のIT活用意欲が飛躍的に高まった。半面、汎用的でなんでもできる人工知能はいまだ実現しておらず、特定領域に特化した既製のAIツールのカバー領域も限定的であることから、意欲はあるのに手段がない、という状態になっていた。

「業務部門に残っているムダな人員配置をITにより改善したい経営者層、定型業務をITにより自動化して付加価値の高い仕事に専念したい業務部門、ITにより社内改革を進めたいが、業務部門の課題が見えず、また思うように業務部門の協力が得られないと思っていたIT部門、一見すると利害の反しそうな立場の3者だが、実は3者ともITによる自動化を求めていた」と指摘。

「そのようなところに、AIよりも身近で地に足の着いたテクノロジーであるRPAが現れ、『ルールベースのRPAでも自動化できることがたくさんある』という経営者層や業務部門の嬉しい発見につながり、3者ともにRPAを推進する流れになっている」と分析した。

業務部門を主役にするRPA導入論

ソフトウエアが定型的な作業を自動実行するRPAの原理はシンプルで、しかも作業時間やヒューマンエラーの削減といった明白な導入効果は誰もが納得できるものだ。中川氏によると、一部の部署でRPAを導入すると、RPAがすごいとの口コミが広まり、他部署から続々と導入要望や解決したい業務課題が集まってくる。業務改革やRPA導入を統括する推進組織は、対応に追われることになるという。

中川氏は、実際にロボットと働くことになるスタッフが前向きな気持ちで作業を委ねられるよう、ロボット化の段階から業務部門が主体的に参画する体制を作るべきであり、ロボットを作るIT部門とロボットを使わされる業務部門という対立構造を作ってはならない、とした上で「業務部門からRPA導入要望がどんどん上がってくるということは、改革に向けての歓迎すべき前向きな事象であり、この気運こそ大事にしてもらいたい」と強調。

RPAの神髄は、業務部門の業務改革が自然に進むことであるため、ティーチング的なアプローチで、RPA推進組織がロボットを作って業務部門に与えるよりも、コーチング的なアプローチで、RPA推進組織は業務部門から改善要望を引き出したり、RPAツール活用を支援したりする役割を担い、二人三脚でロボットを作り改善していく手法が効果的だとした。

RPAの本質を生かすスモールスタート

RPAの導入ステップにおいては一般に「技術研修」や「トライアル導入」からスタートし、「一部部署での導入」をクリアした後で「全社導入」へ移行していく経過をたどる。この一連のプロセスに入る前に「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」が必須か否か、つまりRPA導入などを検討する前に詳細な現状分析と改善計画の策定を事前に行うべきかについては、見解が分かれるところだ。

いわば「スモールスタートによるステップアップ」と「綿密な調査・分析に基づく全社一斉改革」のいずれを優先するかという難題だが、中川氏は「システム構築」との比較の視点から、RPAが持つ特徴を再度整理。「システム構築は、開始後の変更や修正が難しいことから、確実な成果を得るためには事前の調査・計画と仕様凍結がきわめて重要であった。

一方で柔軟性の高いRPAは試行錯誤が可能であり、取り組んでみると自然と導入効果の高いターゲット課題が可視化されていくとの特長がある。システム構築がほぼ唯一の改善策であった頃は事前のBPRが不可欠だった訳だが、RPAという有力な改善策の登場した今となっては、まずスモールスタートし、自然と業務課題が可視化されてきたら、RPAのロボットを増やすなり、システムを改修するなり、BPOをするなりの改善策を続けて打つ、というPDCAを回していくことが許されるようになった。

BPRにより、調査する推進部門と調査される業務部門という構図を作り出すよりも、RPAによるスモールスタートで業務部門が主体的に改善していく方が、コストの面でも効果の面でもメリットが大きいだろう、との見解を示した。

中川氏はさらに、実績に裏付けられたNTTデータの「顧客向けRPA導入推奨ステップ」を概説。こうした枠組みに即して運用の確立に成功した遠州信用金庫(浜松市中区)、近鉄グループホールディングス(大阪市天王寺区)の事例と、RPAに通じた業務部門のIT人材育成で協業するヒューマンリソシア株式会社(東京都新宿区)の取り組みについても紹介した。

RPAがイノベーションの呼び水に

大半の企業ではなおハードルが高いAIを含め、将来的にはITが業務とシームレスに融合していくとの予測が「デジタルトランスフォーメーション」というキーワードとともに語られる昨今。企業組織のあり方が抜本的に変わる時代を控え、いまRPAが果たす役割について中川氏は「業務の効率化で新しいことを考える余裕が生まれる」「(AIの学習などに欠かせない)デジタルデータを自動的に蓄積できる」「IT活用に対する業務部門の関心が高まる」という3点を列挙。

そこから、「AIの現実解であったはずのRPA導入を進めていくと、今度は逆にAIを活用したイノベーションを巻き起こすチャンスが近づいてくるだろう」と予想、「RPAは業務部門発のイノベーションの呼び水になる、そのためにも業務部門が主役になる形でRPAの導入や活用を支援していくのが我々の務めだ」、との力強い言葉をもって、セッションを締めくくった。

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