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SMFG・電通の事例から見えてくる「スケールさせるRPA」

» 2018年03月19日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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国を挙げた「働き方改革」の具体策として注目を集めているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)。ソフトウエアのロボットに定型的なホワイトカラー業務を代替させていく取り組みは現在、全社展開の前段階として一部部署で試行を重ねるケースが多くを占める。そうした中、株式会社三井住友銀行(SMBC、東京都千代田区)と株式会社電通(東京都港区)は、海外の先行事例に通じた外資コンサルの支援を受けることでロボットの全社的な導入をいち早く実現。「稼働数4ケタ」という大規模運用も見すえた体制を確立しつつある。両社にRPAツール「UiPath」を提供するUiPath株式会社が1月26日に都内で開いたカンファレンス「#UiPathForward Japan 2018」のセッションから、「スケールさせるRPA」の最前線を紹介する。

400業務83万時間の余力捻出を実現するSMFGのRPA運用

「われわれの強みである『強靭なコスト体質』を磨き上げるための革新的ツールがRPAだった」。この日壇上でそう語ったのは、SMBCなどを束ねる株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)企画部業務改革室の山本慶副室長だ。グループ全体のさらなる生産性向上を図る目的で2017年4月に発足した同社業務改革室は、RPAの活用を重点施策の1つと位置づけており、ロボットによる業務量の削減で2020年3月末までに従業員1,500人相当となる300万時間以上の余力捻出を計画している。

業務改革室の発足から同年9月までの半年間、SMBCの本部から始めたRPAの導入では約200業務・40万時間分の業務が自動化されており、直近の開発着手分も含めると約400業務で83万時間分のRPA化に着手済み。現在、800台以上のロボットが稼働し、その導入範囲は本部から事務センターに拡大、支店等の営業店業務をミドル・バックに集約してRPA化を進めることで現場の負担軽減にも繋げているという。また、規制強化等により、今後、業務負担の増加が予想されるコンプライアンス・リスク関連業務では、反復性が高くミスの許されない定型業務に従事せざるを得ない従業員が多くいるが、当該業務をRPAに任せることにより、業務の網羅性、正確性、スピードが改善されるとともに、従業員はストレスの高い業務から解放され、RPAを管理・監督する立場になることで、一段高いレベルの業務に従事でき、モチベーション向上にも繋がっているとしている。

またSMBCはRPAの適応領域拡大に向けて、紙ベースの資料をデータ化するOCR(光学文字認識)とロボットの連携にも注力。OCRの読み取り結果と、過去の取引データや辞書データとの照合をRPAが担うことで精度を上げる仕組みが既に実用化されているという。

本部だけで約7,000人、全行でおよそ3万人が勤務するSMBC。そこで多岐にわたって展開されるRPA活用プロジェクトは、外資系コンサル5社にUiPath社を加えた外部パートナー6社と、SMFGのITを担う株式会社日本総合研究所と共同で進められている。各コンサル会社は、個別に割り当てられたSMBCの事業部門と緊密に連携しながら、現場目線での自動化対象業務の選定やロボットの実装を担当。さらに、こうしたRPAの専門家による「トップダウン」でのロボット化とは別に、各現場で業務を一番理解している従業員がロボットの実装研修を受講後、自らロボットを開発・実装する「ボトムアップ」の体制も整備されている。

一般に、トップダウンでロボットの実装を行う場合は統制を取る便宜上、サーバー上で動作するRPAツールが選定される傾向にある。一方、ボトムアップで実装されるロボットは簡易で適用範囲も限られることから、端末単位で動作するツールとの相性がよい。UiPathのサーバー型・端末型ツールをそろって導入したユーザーの立場から、山本氏は「業務特性に応じ使い分けることで、高いユーザビリティとスケーラビリティを実現できる。我々のRPAを活用した生産性向上の取り組みが皆様の一助になれば幸い」と述べた。

全部署従業員7,000人でスタートした電通のRPAプロジェクト

働き方改革によって労働時間の短縮を目指す電通では、RPAを業務時間短縮の切り札として位置付けている。「違法な長時間労働への管理ができていなかった企業文化を作り直している最中」と述べた電通ビジネスプロセスマネジメント局業務推進室の小肇室長は「労働時間短縮のために取り組まざるを得なかったという事情ではあるが、結果的に国内の先がけとしてトライすることになった」と述べる。

働き方改革に積極的な意義が見いだせるよう、思い切った施策を急ピッチで進めていることを明らかにした。

国内最大手の広告代理店である電通とグループ会社で働く人の総数は「パートなども含めると、優に6ケタに達する」(小氏)。よりよい働き方への転換をグループ全体で進めることも視野に2017年4月から始まったRPA導入プロジェクトは、電通本体の全部署を対象とし、約7,000人の従業員に対してロボットの活用が一斉に呼びかけられた。スモールスタートで着実に実績を積むのが“定石”とされるRPAの導入プロセスにおいては明らかに異色であり、面としての展開をまず優先させたようにみえる。

こうした判断とも関連するのが、RPAの導入検討に並行して電通が全社員に実施した業務量調査の結果だ。調査で示されたのは、手順通りに処理する事務作業(オペレーション)の負担が全社で想定以上に重くなっている現状。クリエイティブで非定型的な業務とされる広告制作の分野でも「ある部署ではオペレーションが半数近くに達していた」(同)という。背景には、広告効果の定量化への要請が高まり、煩雑な定型作業が増大したにもかかわらず対処の手立てが足りていなかった状況と、それがもとで他業務への対処が遅れ、いっそう業務効率が低下していく悪循環があった。マイナスの連鎖を断ち切るための、いわば“即効薬”として期待を寄せられたのがRPAだった。

電通では現在、「ロボット人事部」と銘打ったコンセプトのもと、サーバー上で機能する約400体のロボットの運用や保守を、管理ツールの「UiPath Orchestrator」で一元化している。17年末時点で月間1万時間超の業務削減効果を達成しているロボットについて、個別の稼働状況をリアルタイムに把握。作業内容が陳腐化したロボットは離脱させるといった判断も随時行っている。

検討開始から1年足らずで、ここまで確固としたロボットの管理体制を確立しているのは「RPAの導入当初から4ケタのロボットに働いてもらうことを見込んでいたため」(小氏)で、実際の体制構築や個別業務へのロボットの導入、またそれらに先立つ対象業務の分析においては、複数の外資コンサル、そしてグループ内のシステム開発会社である株式会社電通国際情報サービスからサポートを得ているという。

現在、広告ターゲットの分析処理をはじめ会計事務の処理などにも活用されている同社のRPA。プロモーションの専門家が集まる企業だけに、社内PRに際してはRPAツールのデモ動画や、ロボット化に適した作業を「転記」「抽出」「集約」「分割」「送付」「照合」「登録」「入稿」の8類型にまとめたカタログなども制作している。小氏は、RPAの導入を検討している他企業に対してもこれらの素材を提供していく意向を表明。「導入に向けた社内での説得にも協力できる。いつでも声をかけてほしい」と会場に呼びかけた。

目指すのはRPAを活用した組織のオーギュメンテーション(増強・拡張)

事業や業務の内容はまったく異なるSMBCと電通だが、そろって大規模に進める定型業務のロボット化では、いくつかの共通点もみられる。あらかじめ一元的な管理の仕組みを構築することで統制やセキュリティーの課題をクリアしている点もその1つだが、人的な企業規模を維持しながら成長を図るための手段としてRPAを位置づけている点でも重なる部分は大きい。

SMFGの山本氏は「創出した余力をどのように活用していくかが重要。我々は『付加価値業務の拡大』『働き方改革の推進』『人員配置の最適化』に充当し、グループベースで圧倒的な生産性の向上を実現していく。あわせて、従業員がRPAの特性を踏まえ、仕事を任せて管理することで、自らのパフォーマンスを高めることができるといった、新しい働き方や価値観の醸成にも注力する。」と語った。

電通の小氏はさらに「ルーチンワークを代替する存在としてロボットを使うだけでは活用方法に限界がある」と指摘。「ロボットによって能力が増えるというオーギュメンテーション(増強・拡張)としてのRPAも広めたい。1時間かかっていたことが5分でできて席も外せるといった時間創出だけでなく『何時間かけても、こんなことはできなかった』という人間離れした作業ができればもっと面白いことになる」と展望を示した。

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