顧客との関わりを考えていく上で重要なCRMだが、中堅・中小企業においての状況は? 調査データを基に概観する。
岩上由高(Yutaka Iwakami):ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品およびビジネスの企画、開発、マネジメントに携わる。ノークリサーチでは技術面での経験を生かしたリサーチ、コンサルティング、執筆活動を担当。
CRM(Customer Relationship Management)は会計、販売、メール、グループウェアといった既存の業務アプリケーションと比較すると、まだ歴史も浅く、導入率もそれほど高いわけではない。だが、相手が会社であれ個人であれ、何かの事業活動を行う先には必ず「顧客」が存在する。
また、日常生活にITが浸透しつつある中で、「スマートフォンを介したSNS上でのコミュニケーション」など、顧客との接点も広がりつつある。こうした状況の中、CRMは企業が「顧客との関わり」を考えていく上で重要な役割を果たす業務アプリケーションとなっていくだろう。そこで、CRMの最新動向と今後の注目ポイントについて見ていくことにする。
「CRM(Customer Relationship Management)」は、直訳すると「顧客との関連を管理するシステム」となる。文言だけで考えれば、顧客との接点を担うWebサイトやメールもCRMに含まれると思われる方もいるかもしれない。実際どの範囲までを「CRM」と呼ぶべきかについてはさまざまな見方がある。従って、ユーザー企業がCRMについて導入検討や情報収集をする際には、まずCRMとは何か、自分なりに明確にしておくことが大切だ。
例えば、一般消費者からの問い合わせ対応を目的として大企業が業務アウトソーシングの形で利用することの多い「コンタクトセンター」をCRMに含める分類方法もある。本稿ではユーザー企業にとっての「顧客」を個人だけでなく、取引先の会社も含めた広い視点で捉え、それらとの関係性を深めるためにユーザー企業が導入する業務アプリケーションとしてCRMを位置付けている。
この視点に立った場合、「CRM」は以下の2つを合わせた総称と捉えることができる。
SFA(Salesforce Automation)
顧客情報、案件情報、訪問履歴などを共有することによって営業担当者の活動を管理、支援し、見込み案件数の拡大や商談成約率の向上を目指すシステム
MA(Marketing Automation)
Webサイト、メール、SNSなどの異なる顧客接点を連携させて、異なるアプローチ方法を混在させながら顧客との関わりを深め、興味段階から購買行動への遷移やクロスセルやアップセルといった顧客単価向上を目指すシステム
多くの人がこれまで抱いてきた「CRM」のイメージは上記の「SFA」に近いものではないだろうか。CRMが登場した初期には個々の営業担当者が日報を入力し、営業部門の課長や部長が閲覧して指示やアドバイスをするといった仕組みを指しているケースも多かった。
営業担当者にとっては最終的に受注することが最も重要であり、その過程を日報として詳細に記述することについては消極的になってしまいやすい。そのため、初期のCRMでは「営業担当者が日報を書いてくれず、共有すべき情報が蓄積できない」という課題もあった。現在も「CRM = 営業日報を管理するだけのシステム」と考えるユーザー企業が少なくない。
しかし、CRMが営業日報の管理だけを担っていたのは過去の話だ。CRMが登場してから現在に至るまでには以下に述べる大きな2つの変化が起きている。
変化1はSFAが抱えていた「営業日報の入力が負担」という課題を解消する取り組みだ。技術の進歩によって、昨今は「訪問する企業のデータをWebサイトなどから自動で収集し、見込み客情報として登録する」および「スマートフォンのGPS情報などを活用して営業担当者の行動履歴を蓄積し、最適な巡回経路を発見する」といったことが可能となっている。営業担当者の入力負担が大幅に軽減されているわけだ。もし「営業日報の入力が負担」という理由でCRMの導入をためらっているのだとすれば、そうした懸念は一昔前の話と考えて良いだろう。
変化2はこの2〜3年で顕在化した新しいトレンドだ。ここで「MA(Marketing Automation)」とは何かを小売業を例に説明してみよう。「Webサイトで通販を行う」「販促メールを送る」「SNS上で認知を高める」といった取り組みは以前から存在していたが、個別に実施されているケースが少なくなかった。
MAとは、これらを自動的に連携させる仕組みである。例えば「Webサイトで商品Aを閲覧した顧客aがいたとき、翌週のキャンペーンで商品Aが対象製品となっていれば、顧客aに対して販促メールを送る」といった操作を自動で行うわけだ。
今ではスマートフォンが普及し、企業と顧客が対話する経路は格段に広がっており、Webサイト、メール、SNS、チャット、電話など、顧客が選ぶ対話手段は時間や場所に応じて変わってくるものだ。そのため、企業が顧客と接する際には複数の対話手段を織り交ぜる必要が出てくる。つまり、MAの登場はスマートフォンの普及を契機とした社会的な変化が生み出した流れともいえるだろう。
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