メディア

Watson AIとコンテナ技術の使いどころ、管理のポイントイベントレポートアーカイブ(2/2 ページ)

» 2018年05月16日 10時00分 公開
[原田美穂キーマンズネット]
前のページへ 1|2       

AI+DataでIBM Cloudが効く点は「カタログ管理」によるガバナンス

 日本企業での活用例としては、ホンダの研究開発部門である本田技術研究所における「デジタルサンドボックス」の例が挙げられた。

 共通基盤の中で利用するデータを共有しながら、複数の部門がそれぞれにデータを活用し、分析結果や構築したモデルなど一元的に管理できる環境として利用している。この運用例に見られるように、Watson Studioの特徴は、「Watson Knowledge Catalog」がデータのオーナーや分析ソースの情報などを一元管理するため、ガバナンスを効かせられる点だ。取り扱うデータによっては必要があれば適切な情報開示が求められるケースも想定されるため、企業で利用する際には一元化出来ていることが望ましい。

本田技術研究所におけるWatson Studioの利用例

Watson Assistant

日本IBM 執行役員 ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部 吉崎敏文氏

 チャットボットに代表される対話アプリケーションを開発するためのサービス。Conversation APIを機能強化し、会話フローの開発支援機能が追加されている。また、会話ログの分析やその改善も簡単にできるように改良された。

 日本向けには産業特化型の辞書を整備中だ。汎用(はんよう)辞書では対応できないような問い合わせにも対応できるように「学習済みインテント」の整備を進める。eコマース向け、Bot管理、カスタマーケアなどの分野ですでに日本語対応している。各インテントは標準で利用できる。利用に際しては明示的に辞書を指定する。

 「2017年はようやくPoCの段階から脱して本稼働での運用が続々と始まった一年だった。その中でデータ基盤整備の重要性をあらためて確認した。データ分析モデルの継続的な最適化も重要だ」(日本IBM 執行役員 ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部 吉崎敏文氏)

 国内企業でのWatson導入例としては、JR東日本における「お問い合わせセンター業務支援システム」での採用などの例が挙げられる

IBM Watson Services for Core ML

 Core MLはiOSやmacOS向けの機械学習アプリケーション開発支援フレームワーク。Watsonの学習モデルをiOSなどにデプロイできる。「現段階では画像認識API(Watson Visual Recognition)が対応済み」としている。

 これら3つを組み合わせた簡単なデモとして、顧客フィールド業務におけるスマホアプリケーションの例が示された。画像認識による部品の特定と想定される対応策の探索、ARを組み合わせた映像による作業指示に加え、Watson Assistantを使った対話型の作業報告などが行えるもの。ユーザーは目的ごとにツールを使い分ける必要なく、1つのアプリケーションの中でメンテナンス対象部品の特定から作業指示出し、作業完了報告の提案までが完了できる。

画像を認識して対応策を提示、作業指示と完了報告までをスマホアプリ1つで完了する

VMwareユーザー、Javaユーザーを保護しながらコンテナエコシステムにも

 これとは別に2018年5月8日、IBMはRed Hatとの連携強化を発表している。この一環でIBM Cloud Privateの各種ミドルウェアは、コンテナオーケストレーションツールであるRed Hat OpenShift Container Platformでも動作させられるようになった(発表ではこの他、PowerSystemsにおけるRed Hat製品への対応強化なども発表されている)。つまりは、Red Hat Enterprise Linuxをベースに、コンテナツールを介してIBMの主要ミドルウェアが動作するというもの(IBM Cloud on Red Hat OpenShift)だ。IBM Cloudはもともと、オープンソースソフトウェアのクラウドオーケストレーションツールKubernetesに対応しており、自社ミドルウェアのコンテナイメージでの配布も行っていたが、エンタープライズ向けのコンテナオーケストレーションツールをうたうOpenShiftに対応した意義は大きい。

 日本IBM 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部 三澤智光氏は、「デジタル時代のアプリケーションは、ITに対する発想が変わる。従来の業務支援システムで求められてきたモノリシックなアプリケーションが全く不要になるわけではないが、デジタル時代のアプリケーションの在り方は、データドリブンであり、新しい顧客体験を生み出すもの。素早く開発してデプロイする必要もある。こうした変化に強く素早くサービスを提供する仕組みとしては、マイクロサービスアーキテクチャが適している」として、コンテナオーケストレーションツールのデファクトスタンダードになりつつある、KubernetesとRed Hat OpenShiftに対応することの意義を説明する。

日本IBM取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部 三澤智光氏

 「クラウドプロバイダのロックインを回避できる、柔軟かつ自由なクラウドネイティブアプリケーションが求められている」(三澤氏)

 IBM Cloud on Red Hat OpenShift構成の何がうまみかというと、既存PowerSystems上のミドルウェアのように、クラウド移行しにくい環境についても、アプリケーションから上をカプセル化するコンテナ技術を使うことで、クラウドインフラ運用のスキームに乗せられるということだ。その際、ステートフルなアプリケーションの動作も保証するOpenShiftであれば、適用範囲が大きく広がる。

  IBMではさらにJavaアプリケーションのサポートにも注力する。それも、Oracleが提供するJava SEだけでなく、OracleからEclipse Foundationに開発が移管されたJava EEについても「保護する」と宣言しており、開発環境やミドルウェアの代替を用意、サポート体制も準備することで、レガシーなJavaアプリケーションのクラウド移行やマイクロサービス化推進にも門戸を開いている。

 日本IBMではこれより前、2017年10月には「VMware on IBM Cloud」として、ベアメタル環境にVMware環境を用意、通常はクラウド移行時に変更が必要になる、サーバ監視環境やジョブ制御のなどの非機能要件やライセンスなどを、変更なくクラウドに移行できるソリューションも発表している。

 ここまでの、企業が抱えるレガシーアプリケーションをクラウドにリフト&シフトする動きとWatson関連の機能強化は「企業自身が持つデータの価値をAIで最大化する」というIBM全体が掲げるデジタル変革支援の在り方に通じるものと考えられる。

 IBMが直近で提示するレガシーシステムのクラウドネイティブ化支援のアプローチと、クラウドプラットフォーム上でのAI活用基盤の現在を紹介した。WatsonのAIに関しては今後、日本の業種業界別ソリューション展開が明らかになれば、大きな改革につながる可能性を秘めていると考えられる。今後の展開を期待したい。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。