2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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IT専門の調査会社IDC Japan株式会社が2018年4月6日に発表した調査結果によると、17年の国内BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービス市場は前年比4.7%増の7346億円にのぼり、22年には8769億円に達することが見込まれている。アウトソーシングが加速する背景に、社内の人手不足感があるのは周知の事実。BPOサービスの一環としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を提案する企業も現れているとおり、テクノロジーによるイノベーションも強く求められているといえるだろう。
こうしたビジネス環境の中、申込書などのデータ処理や、大量に保管されている紙書類の有効活用に向けて、今年に入り再び注目を集めているのが、手書き文字のOCR(光学文字認識)だ。日進月歩で進化するAI(人工知能)の応用で、文字認識の精度は飛躍的に向上。引き続き重要な顧客接点である手書き書類からのデータ抽出に加え、過去の履歴をもとに顧客理解を深める用途でも活用が期待されている。
デジタルトランスフォーメーションの一端を担うRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のソリューション「SynchRoid」を展開するソフトバンク株式会社はこのほど、AI-OCR「Tegaki」を社内で試験導入。2018年1月には、開発元である株式会社Cogent Labs(コージェントラボ、東京都渋谷区)との業務提携も発表した。Tegakiへの評価と期待、さらにRPAとのシナジーについて、ソフトバンクのRPA推進責任者である上永吉聡志氏に聞いた。
―まず、ソフトバンクでTegakiを導入した経緯や、現在の使途を聞かせてください。
当社では以前からペーパーレス化を進めてきたこともあり、紙資料を用いる社内業務は、さほど多くはありません。しかし、一般のお客さまにご記入いただく情報に関しては紙ベースでの処理が残っていたため、こうした場面での効率化ツールとして、手書き文字に対応可能なOCRの導入検討を始めました。2017年5月から開始した試験導入は現在、口座振替申込書の自動読み取りなどで検証が大詰めを迎えており、近く本格導入となる見通しです。
自社がユーザーとして活用し、その確かな効果の手ごたえをもとに、およそ10社に対するTegaki導入支援も進めています。当社は昨年10月から、現場のオペレーション能力を自発的に拡大させるための原動力(エンジン)と位置づけたRPAソリューション「SynchRoid」を提供していますが、コージェントラボとの提携は、紙ベースの作業が多い職場の生産性向上をお手伝いする上で不可欠な手書き文字認識をラインアップに加える意味合いもありました。
―開発側はTegakiの特長として「5人の筆跡が混じった日本語文書を99.22%※の精度で認識・データ化できる」精度の高さなどを挙げています。ユーザーとして手書き文字認識を採用するにあたって、認識率や、そのほかの選定基準はどのようなものでしたか。
検討を始めた当初から認識率を重視していましたが、Tegakiは競合製品と比べても圧倒的な印象でした。「抜群の性能を持つ、現時点で最良の手書き認識ソリューション」だと確信しています。
また、業務の現場で処理される手書き資料には多くの場合、ひらがなとカタカナ、漢字や英数字、記号などが混在して判別を難しくしています。こうしたOCRに最適化していない資料をスキャンしてもTegakiは高い認識精度を保つことができ、実用面での魅力を感じたことも選定の理由です。
―テスト導入後の効果はどうでしたか。
もともと優れていた認識率が、この1年ほどの間でさらに向上したことに驚いています。AIを応用したソリューションは一般に、特定の環境下で学習を重ねることで精度を向上させていきますが、2週間に1度のペースで最新版がリリースされるTegakiは「素」の状態での性能が向上し続けています。最新バージョンの場合、初めて投入した環境においても95%を超える認識精度が得られています。
―反対に、導入のハードルとなるような課題もあるのでしょうか。
完璧を求める場合、現状ではまだ読み取り作業の完全な自動化には至らないということですね。Tegakiの驚異的な認識精度をもってして100%ではない以上、要求水準の高い業務で用いるためには、最終的に目視での確認工程が必要となります。つまりユーザーの立場からみたとき、現時点のAI-OCRは優秀ではあるものの“半自動”にとどまる可能性が高いソリューションだといえるでしょう。
したがって、社内の手書き資料をデータ化するにあたり、その方法を純粋な費用対効果だけで検討するなら、「全件の手入力」と「目視検査」を社外へまるごと委託するほうがAI-OCRを導入するより有利というケースもありうると思います。
―では、AI-OCRを導入するメリットはどこにあるのでしょうか。
Tegakiに関しては「未来志向の働き方を実現できる」「技術的なポテンシャルが大きい」という2点において、人海戦術での処理にない優位性があると考えています。
働き方改革として、現在多くの企業が取り組んでいるのは残業時間の削減をはじめとする労働生産性の向上ですが、いずれ改革の重点は「働く人の力をどこで生かすか」に移っていくと考えられます。今後さらに人手不足が深刻化していく中でも、人間らしい創造力を生かせる職場は優秀な人材から選ばれ続けるはずで、そうした働き方の障害となる単純作業を外部に委ねることなく社内で自動化できる術を持ち、体制を築いておくことは、将来的な企業競争力にも直結すると思います。
Tegakiの開発元であるコージェントラボは、世界各国から東京・代官山のオフィスに多様な専門を持つ博士号取得者らを集めており、開発スピードと精度、何より旺盛なチャレンジ精神には特筆すべきものがあります。手書き文字を仮想空間で扱うデータへ変換するAI-OCRはデジタルトランスフォーメーションの入り口を担う存在であり、SynchRoidを含む多様なテクノロジーとの連携も重要となりますが、Tegakiであれば、そうした統合的なソリューションの中で、今後いっそう存在感を発揮していけると期待しています。
―TegakiとSynchRoidの関係、さらに両者の普及に向けた戦略を聞かせてください。
それぞれ、顧客接点において必ず残る手書き書類の処理と、どんなオフィスにもあるPC上での業務を効率化するソリューションですので、幅広い業種・規模の企業がターゲットとなります。したがって「業務改革への起爆剤」として一体的にご提案し、面的な展開をしていきたいと考えています。
両者を併用する場合「Tegakiでデータを読み取り、そこからExcelへ転記したり、業務システムへ登録したりする作業をSynchRoidが担う」というイメージになりますが、まずOCRだけ・RPAだけを検討しているユーザーに対しても、将来的な発展性・拡張性の高さをアピールできたらと思います。
―あらゆる企業の現場にテクノロジーが行き渡れば、人は「仕事を失う」というより「ふさわしい業務に専念する」ような印象です。
ええ。そういう実例をTegakiやSynchRoidで示していきたいと考えています。さきほど人海戦術との比較をしましたが、SynchRoidやTegakiが肩代わりできるような時間給の単純労働は実際のところ、どれほど報酬を上げても定着率が改善しません。それは、人間にとってつまらないから。本来なら人がやるべき仕事ではないのだと思います。
いま AI-OCRやRPAに関心を持たれている多くの企業は、目の前の業務効率化にとどまらない、今後の働き方のありようをご検討なさっていると思います。当社としては日本の社会全体が「本来こうあるべき」というビジネスプロセスに引き上げていくためのお手伝いをしたい。われわれ自身も率先して未来志向の働き方を採り入れながら、先進的な企業の方々と実践知を共有していけたらと考えています。
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