RPAの課題を乗り越えた企業では成果が上がっている。あの企業はRPAをどのようなステップで導入し、どの業務に適用しているのか。ブレインパッドが指揮した業界別の事例にRPA導入のポイントを学ぶ。
人間がPCで行う作業をソフトウェアロボットで代替するRPA(Robotic Process Automation)。業務効率化の行き詰まりや人手不足を解消するというメリットが認知されるようになったものの、現場から「使い方が難しそう」「自分の仕事が奪われるのではないか」「導入をする工数や時間を割けない」といった声が上がり、導入が進まない企業も多い。
しかし、課題を乗り越えた企業では成果が上がっていることも事実だ。そうした企業は何が違うのか。ブレインパッドが5月18日に開催した「中堅企業RPA活用事例に学ぶ、導入ノウハウセミナー」では、中堅・中小企業への導入支援を指揮してきた同社のシニアコンサルタント山内康志氏がノウハウを語った。ブレインパッドではRPAテクノロジーズの「BizRobo!」に同社独自の付加価値を加えた「ブレイン・ロボ」を提供し、2017年6月からRPA導入支援や検証、立ち上げ支援サービスを行っている。「すでに100社以上の顧客の導入検討を指揮した」という同社のノウハウは必見だ。
「RPAは複数システム間をつなぐマクロのようなもの」と同社は説明する。例えば、ある業務システムからデータをコピーして別の業務システムやオフィスツールにペーストする作業の自動化は、RPAの得意分野だ。こうした煩雑で時間がかかる業務は、さまざまなビジネスシーンで日常的に行われる。
従来、そうした非効率的な業務を自動化する際には、システム連携機能を開発するという方法が取られてきた。ルーティン業務は単純であっても業務ごとに個別の手続きが存在する。細かい開発が必要な割には、投資に見合うほどの最適化が望めないことも多い。そこで、システムはそのままに、ソフトウェアがPC上の作業を自動化することで、システム開発よりも安価に業務効率化を実現する「デジタルレイバー(仮想労働者)」としてのRPAが注目されている。
「RPAで大きな導入効果が見込めるのは、業務課題のうち、投資を断念している範囲と、現場がそもそも諦めている領域だ」と山内氏はRPAの意義を説明する。
しかし、同氏によれば実際にRPAを導入済みの企業は約14%にとどまり、約60%は導入意思を明確にしていない。その要因の1つは、RPAをどこに適用すれば投資に見合う効果が上げられるか、見極めが難しいことだ。
そこで、同社ではそれぞれの企業ニーズに沿って、最も価値が上がる業務を選定し、業務に一定の期間適用し、従来手順との比較やコスト効果を測定により、導入に意義があるか否かを検証できるよう支援するという「概念実証(POC)にとどまらず価値実証(POV)を意識する」ことを重視していると説明する。具体的にどのような事例があるのだろうか。
化粧品、雑貨小売業のA社は複数のインターネットモールに出店している企業だ。受注確認や入金確認、出荷伝票出力、追跡番号登録、発送、在庫量更新、売上計上といった業務において、基幹系を含む複数システムをまたがる作業を行っており、手作業の負荷が問題視されていた。
A社からは「人間の作業は顧客対応と出荷だけにすることが理想だ」という要望が上がり、合計100以上の合理化対象業務が示されたという。その中からPOVの対象業務を次の3つに絞り込んだ。
導入プロジェクトは5段階で行った。まずは、約1カ月かけて技術検証とロボット化難易度判定を行った後、ブレインパッドがたたき台となるロボットを作成。約1カ月半をかけ業務への適用検証を行い、本格導入を判断した。その後、半月かけてロボット動作環境、開発環境を構築し、さらに約半月をかけて、顧客側でブレインパッドの支援を受けつつロボット作成のトレーニングが行われ、本番業務への適用に至った。 全体で約4カ月を要した導入のポイントは、POVフェーズにおいて現在のボトルネックになっているテーマを選定し、最も効果が上がる部分での価値検証および技術検証を行ったことだ。
現在は運用支援のフェーズにあり、業務の棚卸をしつつ、導入企業側でロボット作成の仕方を覚えてもらい、自社でロボットを内製できる体制を作っているという。例えばブレインパッドが「ロボット作成相談室」を隔週で開催し、1日がかりで質疑応答を行ったり、実際にロボットを試作しての説明などを行ったりすることで、導入企業のスキルアップを図り、RPAの高度活用が可能になるまで支援する。ちなみに、紙を使った業務が多いため、現在は紙の情報をデジタルデータ化するOCRの利用をブレインパッド側で提案しているという。
カタログ通販業のB社では、カタログ品質の担保のために記載NG用語のチェックやコンテンツの校正作業の合理化、需要予測用のデータ入力および更新の作業を合理化したいと考えていた。NG用語のチェックでは約3000語の辞書を作成して照合、特定した後に訂正する必要があったという。コンテンツ校正においては、校了直前までカタログPDFの校正を行っていた。需要予測については専用のExcelマクロを活用していたが、それに反映するデータを担当者が毎日3時間ほどをかけて他の社内システムから収集して、転記していたという。
ブレインパッドではこれら作業のロボット化をPOVの実施テーマと定め、PDFなどの文書からのNGワードの検索と通知、精度の高いカタログPDFの内容チェック、また社内システムからのデータ抽出とExcelへのロードとマクロ実行についてのPOVを行った。この事例でもPOV可能な範囲を絞り込んだことで、早期の業務活用が図られたという。
また、この事例のもう1つのポイントは、AIによる画像判定をRPAの自動化プロセスに取り込んでいることだ。各種業務の基本となる商品マスターへのデータ登録において、商品の画像から「色」を機械学習し、自動的に社内の画像データから色を判定、種別を登録できる仕組みが用いられた。
その際、必要な機械学習に際しては、Microsoft AzureのCustom Vision APIを利用した。ロボットが、画像を自動収集し、AzureのAPIを利用して商品の色を分類。その後人間による結果確認、補正作業を通して商品登録へと処理を流していく。人間の確認の結果を機械学習にフィードバックするのもロボットの役目だ。
人材紹介会社のC社では、社内Webシステムへのログインの際、画像認証(変形文字などによる不正ログイン防止対策)をパスするための仕組みをRPAによって実現した。具体的には、ロボットが社内Webシステムにアクセスして変形した文字の画像を取得、それを外部ツールに渡して「その画像がどのような文字列を表すか」という正解を返してもらい、認証をクリアするという仕組みだ(図7)。
この事例では、3カ月に満たずして本格導入まで進んだ。画像認証技術検証から、システム接続の確認、難易度や工数の見極め、ロボット作成、検証スタートまで約1カ月、その後約1カ月半をかけて検証作業と企業のロボット化トレーニングが行われたという。
C社ではその他の業務でもRPAを活用している。例えば、外部ASPサービスの応募者データをダウンロードしてステータス情報を集計したり、社内コミュニケーションツールを操作したり、といった作業をロボットが請け負う。導入支援を行うブレインパッドは、同社のIT部門とともに週1回のサポートミーティングを開き、現場担当者とともに業務棚卸しの方法などを議論してきたという。その結果、C社では現在、約50のロボットが作成され、毎日稼働している。
前項のAzureのAPI利用の事例と並び、投資の必要なく、外部のサービスやプログラムとも連携できるところがRPAの強みの1つである。また、「社内Webシステムの画像認証突破」というニッチな部分にRPAを適用し、システム開発、部分改修の工数削減をした点にも注目したい。
メーカーのD社では既存の生産管理の業務パッケージを利用した業務運用の効率化に取り組んだ。RPA導入以前は、人手で取引先ごとのデータ加工、Accessを利用した自社システムへのデータロード、マクロのキックなどが行われており、合理化対象の業務は多岐にわたっていた。全ての業務をシステム開発によって効率化することはリスクが高く、RPAによるシステム連携が検討された。
POVテーマは生産実績蓄積、工程手順転写、棚番転写、フレーム加工指示、ブラスト加工指示などのための複数のExcelファイルやAccessへのデータ取り込み、加工作業に絞り込んだという。具体的には、ロボットによるパッケージへのデータ入力、マクロ実行、クリップボード経由でのデータ貼り付け、Excel間のデータ貼り付け、書式設定、印刷指示、さらにマクロ実行と、Accessへのデータ取り込みを検証することとした。
この事例の1つのポイントは、ロボットの「内製化」だ。すでにロボット開発リソースを持っているチームに対して、ブレインパッドが見本となる「教師ロボット」を作成して提供、その効果検証の過程を通して、導入企業がロボット作成のスキルを身につけていく方法がとられている。
この事例はまだプロセスの途中だが、業務パッケージの動作検証から始まり、約3カ月のスケジュールでロボットの本格活用を開始する予定だ。
重機メーカーのE社がRPAを適用するのは、機械の多言語マニュアル作成の業務。ベースとなる情報を各種資料から抽出して新規マニュアルの土台を作成する作業だ。具体的には、重機の部品や回路図、故障一覧などをキーワード検索で各マニュアルのダウンロードシステムから抽出し、Excel上にまとめるという業務である。これにはWebの巡回、PDFのテキスト変換および画像変換、Excelへの貼り付けという3つの作業が含まれる。この事例は現在進行中で、人の頭の中にある手順をどうロボットに反映するかについて、苦心しながら検討しているという。
以上の事例から浮かび上がるのは、RPA導入に際してのPOVの重要性だ。ツールやソリューションの導入検討に際して、実業務に一定期間適用してみて従来手順との比較やコスト効果を測定し、ビジネスにとって導入に意義があるを検証するのがPOVである。まずは導入して最も効果が上がる領域に限定し、ロボットを作成、運用してビジネス効果を体験するのが、RPA導入の入り口として推奨できるというのがブレインパッドの考え方だ。
これは業務の棚卸しと整理に半年以上の時間をかけるような従来のシステム開発とは違う。またユーザー企業がロボットを「内製」できるスキルを身につけ、必要に応じてRPA適用領域を拡大していけることもポイントだ。
山内氏は「これら事例は、他の企業にそのまま使えるわけではない」としながら、「ユーザー企業の求めに『対応』するのではなく『伴走』しながら課題解決の道を探る」方法でRPA導入支援をしていくという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。