大手を中心に進むRPA導入だが、コストや人手不足に悩む中堅中小企業でも活用するチャンスはある。ブレインパッドが、最適なRPA導入アプローチについて語った。
IT投資が売上拡大、利益向上の鍵であることは分かっていても、IT人材の不足、資金難などへの不安から一歩を踏み出せない中小・中堅企業は多いだろう。そのジレンマ解消の決め手になりそうなのがRPA導入だ。2010年からRPAを自社でも使い、顧客企業にも提供してきたブレインパッドは、同社主催の「中堅企業RPA活用事例に学ぶ、導入ノウハウセミナー」(5月18日)で多くの中小・中堅企業に最適なRPA導入アプローチについて語った。
ブレインパッドはデータ活用に関する各種ソリューションを提供する企業。2010年からRPAに取り組み、自社活用する一方で同社独自の付加価値を加えたRPA「ブレインロボ」(RPAテクノロジーズ「BizRobo!」のOEM)を多くの中小・中堅企業に向けて提供し、導入支援サービスを行ってきた。同社営業マーケティング部の若尾和広部長は、経験に基づき「中小・中堅企業のRPA導入は、小さなテーマから始めて段階的に適用範囲を拡大するアプローチが得策」と説く。
若尾氏によると、RPA導入支援にあたった企業からは「どんなことができるのか」「コストパフォーマンスは?」「自分たちで運用できるか」という疑問が提起され、さらに業務現場からは「難しそう」「自分で使えるのか」という不安の声も多く聞かれるという。同社がRPA導入支援を行った会社からは、図1のような課題が見られた。
中小・中堅企業では、SaaSを利用して主要業務を行うケースも多く、オンプレミスシステムを運用した経験がないケースも多い。また、多くの場合、情報システム部門がないか、あっても極端に人が少ないという。デジタル化が進まない現場では従業員もIT利用に自信を持っていない。
また中小・中堅企業に限らず、業務が属人化していることも大きな問題だ。業務を棚卸しすべきと分かっていても、属人化した仕事手順を可視化するには多くの労力と時間が必要になる。業務担当者は自分の仕事を改善したくとも、いざその機会が訪れると、「自分の仕事が奪われるのではないか」と危惧して、新しいことに挑戦しないケースが非常に多いという。
こうした課題は「通常のシステム開発ではおそらく解決できない。RPAだから課題を突破できたという実感がある」と若尾氏は話す。
中堅・中小企業はどのようにRPA導入を進めていけばよいのか。同社は「誰が導入を主導するのか」という導入パターンと、「どの規模で導入をはじめるのか」という導入アプローチの2つの視点で話した。
まず、「誰が主導するのか」という視点で見ると、下図のような3つの類型があるという。
同社は、いずれのパターンにもメリットとデメリットがあるとして、それぞれの注意点を挙げた。
また、導入の際には「全面見直しタイプ」「段階的に拡大するタイプ」の2つのアプローチ(図3)があり、どちらかを選ぶ必要がある。
「全面見直しタイプ」のアプローチは、業務の可視化やROI算出などの事前調査を十分に行って、RPA導入に取り組む方法だ。業務を全面的に見直し、単純反復作業はRPAに置き換えることで、効果の高い業務効率化が実現できるという。大手企業の事例では、コンサルティング会社を引き入れ、BPR(Business Proscess Re-engineering)を推進しながら業務にRPAを適用するケースも多い。
一方、業務分析から始める場合は、導入にある程度の期間がかかることを覚悟しなければならない。また、現場の反発や、トップの理解が得られないという問題も浮上する。同社が手掛けた事例では、当初は「全面見直しタイプ」ではじめたものの、業務の一部から評価検討を実施する方針に切り替えたケースも少なくないという。
「段階的に拡大するタイプ」のアプローチでは、前者よりも費用も時間も少なくて済む。業務分析などは行わず、現場の業務の課題をヒアリングし、定型業務を明らかにする。その定型業務をテスト運用し、徐々に適用範囲を拡大する。例えば、入力作業をRPAで自動化したら、次は入力結果のチェックに適用し、さらに類似作業へと展開するという具合だ。
特に中堅・中小企業では1人が多くの業務を兼務することも多いので、細かく結果を出しながら「段階的に拡大するタイプ」が推奨される。
若尾氏は支援サービスの経験を基に、導入時のポイントを次のように語った。順番に説明したい。
まず重要なのは、パイロット業務の選定だ。若尾氏は、「反復作業になっている業務」「一部判断が必要でも、それをルーツに置き換えられる業務」を選ぶことを推奨する。また、現場の担当者が改善したい業務を選ぶこともポイントだと話した。そうしたニーズをくみ取ることで、現場がRPA導入を自分ごととして捉え、業務改善する機運が生まれる。
ただし、パイロット業務に成功した後は、局所最適にならないよう、適用範囲を拡大していかなければならない。RPA導入には一定の固定費やライセンス費がかかるので、1業務のためにRPAを導入しただけでは、費用対効果が薄まってしまう可能性があるからだ。若尾氏によれば、「対象業務の拡大は必ずROIの観点から行う」ことを強調した。それが可能なベンダーやツールを選択することも大切だ。
「完全性を求めない」ということも重要だ。ロボットはシナリオがあればミスをしないが、シナリオに穴があれば必ずミスをし、ミスを拡大し続ける。慣れない新入社員を一人前に育てるように、ロボットもトライ&エラーを繰り返して成長させる必要がある。軌道修正やノウハウ蓄積を続けることにより、RPAの内製化に成功すると若尾氏は話した。
またロボットの運用体制の確立もポイントとなる。関係者全員がRPA導入・運用を自分ごととして考え、生産性を上げるために何ができるかを考える組織文化を醸成することが大事だ。現場も、IT部門も一緒に考えることで、内部ノウハウの蓄積と評価スキル向上ができ、投資効果を高めるロボット作成・運用ができるようになる。その過程で管理担当者やロボット管理チームなどを立ち上げるのが理想だ。また、導入検討時から自社での自立運用をイメージし、徐々に社内でルールを作ることも必要になる。
講演を通して、若尾氏は、RPAを導入しただけで満足するのではなく、RPAを使ってビジネスの効率化や業務改善を進められる組織の確立が成功への道だと強調した。
同社の支援サービスでは、前述した「段階的に拡大するタイプのアプローチ」を採用する。その流れをより具体的に説明しよう。図3に見るように全体のプロセスを「導入フェーズ」「定着化フェーズ」「高度利用」という段階で考えるとよい。最初にトライアルを行い、類似した業務にロボットを適用して効果検証を行うPOV(価値実証)を経て、本番稼働に移行する。1つまたはいくつかの本番業務で効果が得られれば、その次はRPAを全社に、あるいはグループ会社や取引先へと利用を拡大し、よりROIを高める。また紙ベースの業務の自動化や、AI、IoTなどの技術を取り入れた業務効率化=高度活用に拡張する流れもある。ちなみに、同社が支援するのは、トライアル、POV、本番稼働のフェーズだ。
最後に若尾氏はRPAの今後のトレンドを話した。RPAの発展段階は3段階で表現されることが多い。同氏も、現段階の定型業務を自動化する「Class 1」のRPAから、やがて一部の非定型業務を自動化できる「Class 2」のRPAが増え、やがてAIによって自律的に業務を遂行できる「Class 3」に発展するという一般的な予想を示した。
同氏は「現時点でAIは、人が言ったことを理解して、動作する仕組みだ。また、認知するだけ、記憶するだけ、学習するだけという単機能のものが非常に多い」とした上で、今は、特化した各機能をうまく利用し、業務に適用することがポイントになると話す。
AI機能の活用を前提にすると、RPAの対象領域は、ホワイトカラーのバックオフィス業務だけでなく、製造業の生産設備、EC・配車システムなどの物流業、顧客対応システムなどの流通業のコアな業務領域にも広がる。あらゆる業界でRPAは使える可能性があると若尾氏は締め括った。
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