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「月間1万5000時間」を削減した人材企業、たった2人で何をした?

大手企業に勤める一児の母の加藤さん。「増え続ける申込書問題」を解決するために電子契約システムを構築することに。だが、かかった時間はたった1カ月、関わったのは2人だけ。なぜこんな短期間で実現できたのか?

» 2018年07月18日 10時00分 公開
[野本幹彦キーマンズネット]
ディップ 加藤亜美氏 ディップ 加藤亜美氏

 「バイトル」や「はたらこねっと」「ナースではたらこ」など、求人広告と人材紹介サービスを中核事業とするディップは、2013年に東証一部に上場以降、売上高が約3倍、社員数が約2倍、国内拠点も33カ所にまで広がり、右肩上がりで成長した。だが、売り上げが拡大する一方で「増え続ける申込書の処理に追われ、書類に埋もれ始めた」とディップの経営管理本部経営統括部の加藤亜美氏は企業成長に伴う管理部門の苦しみについて話す。

紙のムダを省いて業務負荷の軽減を目指す

 この「増え続ける申込書問題」を解決するために、まず、営業、クライアント、管理スタッフの現状把握から始めた。

 ディップの営業は、主業務である営業活動だけでなく、原稿作成や動画撮影といった広告制作にも関わる。それに加えて、クライアントから申込書の回収まで行わなければならない。対して、クライアントは人手不足によりただでさえ業務で忙しい中、ディップへの広告出稿から面接対応もあり、申込書どころではない。管理スタッフも、受注/売上集計業務やクライアントのフォロー、申込書管理などで手いっぱいだ。営業、クライアント、管理スタッフの状況を把握した結果、主業務で忙しく、申込書の対応にまで手が回らないのが現状だった。

 営業が送った申込書を顧客がFAXで返送する。それを管理スタッフが保管するというフローに多くの無駄があることに気が付き、申込書回収業務の負荷を軽減するために紙面契約から電子契約へ切り替えることを決断した。

営業、クライアント、管理スタッフそれぞれにムダがあることに気付く 営業、クライアント、管理スタッフそれぞれにムダがあることに気付く

簡単に操作できることに徹底的にこだわった

 ディップは電子契約システムの導入に当たり「最短導入」「導入負荷の軽減」「費用対効果の最大化」の3つを絶対条件とした。そして幾つかの製品を比較したが、セキュリティ、システムの柔軟性やコストといった要件はクリアできても、絶対条件の一つである「最短導入」が可能な製品はなかったという。製品選定を行う中で最後に出会ったのが、サイボウズが提供する業務アプリ開発プラットフォーム「kintone」だった。

 「サイボウズの営業担当者にわれわれの要件を話すと、30分で内容を理解し『分りました』とすぐに返事が返ってきました。最初は、そんなに簡単に答えて本当に大丈夫なのかと不安になりましたが、次に会ったときに持ってきたプランがわれわれにピッタリの提案だったのです」と加藤氏は当時を振り返る。

 サイボウズの営業担当者がディップの要望をすぐに理解したおかげで、2カ月かかった製品選定に対して、システム構築はわずか1カ月で終えられたという。

 システム構築後、営業部でフィジビリティスタディー(実現可能性調査)による導入検証を行ったところ、現場でも簡単に使え、営業の負荷を軽減できることが分かった。導入検証後は、まずは首都圏から導入を始め、その後、中部、西日本へと段階的にリリースする予定だった。だが、営業部での検証結果が口コミで全国の支店に広がったことで、全国リリースを1カ月以上前倒しすることができたという。

使いやすさにこだわった結果、導入検証も順調に進みリリースの前倒しに成功 使いやすさにこだわった結果、導入検証も順調に進みリリースの前倒しに成功

 2017年7月のリリース当初は、まず2018年2月までに65%の利用率を目標とした。だが、実際はリリース翌月の2017年8月には66.2%に達し、当初の想定を上回る利用率となった。その後、利用率は順調に伸び、リリース10カ月後の2018年4月には80%を超える利用率になっていた。現在は「利用率90%を目指している」と加藤氏は説明する。

 なぜ、現場でこうも早くに新システムが受け入れられたのだろうか。今回導入したシステムの特長について、「押すボタンが1カ所変わっただけだ」と加藤氏は説明を続ける。

 従来は、紙の申込書を出力するために「発行」というボタンがあったが、新システムでは「Web申し込み」というボタンが追加された。このボタンを押すと、まずは申込URLを記載したメールがクライアントへ自動送信される。クライアントは送られてきたメールを基に、Web画面上で申し込み手続きを行うことで契約が完了する仕組みだ。クライアントの手続き状況も管理画面上でステータスを一括管理できる。この申し込み管理画面も既存のシステムに大きな変更を加えることなく、ただ「Web申し込み」のステータスを追加しただけだ。このように、システム変更を最小限に抑えたことで使い慣れた従来のシステムの操作性を維持しながらも、営業、クライアント、管理スタッフそれぞれの負担の削減に成功した。

既存のシステムにたった1つのボタンを加えただけ 既存のシステムにたった1つのボタンを加えただけ

 「クライアントは、メールに記載されたURLをクリックして申込内容を確認します。内容に相違がなければメールアドレスを入力し送信ボタンを押すことで、Webでの申し込みが完了する仕組みです。求人広告事業では、幅広い業種のクライアントと取引きがあるため、誰でも簡単に操作できる環境を提供することにこだわりました」と加藤氏は説明する。シンプルな操作性を実現するために、PCが苦手な社員に操作させて、テストを繰り返したという。

PC操作が苦手な社員でも簡単に使えるシステムに PC操作が苦手な社員でも簡単に使えるシステムに

たった2人で構築したシステムで、営業、顧客、スタッフの負荷を大幅に軽減

 導入後の社員への説明は、朝礼/夕礼後に15分間の機能説明を行っただけだったという。リリース後1週間は、営業部門の近くにサポートデスクを置き、いつでも質問可能な状況を用意したが、その間システム操作に関する質問は一切なかったという。

 「誰も質問に来ずに寂しかったので仲の良い営業に『何で質問してこないの?』と聞いてみましたが、簡単すぎて質問できないと答えられた」と加藤氏は笑いながら語った。

 この状況を見て、そもそも操作の説明が必要ないと判断したディップは、全国リリースの際は、説明会を実施せず、サポートデスクも設置しないと決めた。その代わりに、2週間を通して毎日QA表を配信し、質問や要望を一覧化し「Web申し込み速報」としてメールで配信した。

 クライアントも負荷を軽減され、本業に専念できるようになった。営業部においても、契約書の送付および回収に掛かっていた月間約1万5000時間の削減を実現した。それにより営業活動にも専念でき受注率が向上したことを明かした。また、管理スタッフ部門も、申込書回収の管理工数が月間800時間削減でき、年間175万円の申込書の保管コストを削減できたという。

たった2人で始まったプロジェクトだが、結果的に大きな効果を創出 たった2人で始まったプロジェクトだが、結果的に大きな効果を創出

「これらが実現できたのは、柔軟性のあるkintoneだったからだと思います。現場の営業とコミュニケーションを取りながらユーザビリティを追求したことで成功につながりました」と説明する。

 また、今回初めてシステム導入を経験した加藤氏は、最初は右も左も分からずに不安だったが、考えていたシステムが形になるにつれて、だんだん楽しくなりワクワクしながらプロジェクトを進められたことを明かす。

 プロジェクトに関わったのはたった2人であったが、1人の子を持つ母親でもある加藤氏が仕事と家庭を両立させながら楽しく作業を進められたのはkintoneのおかげと話す。加藤氏は、今後はkintoneを使って電子請求システムなども導入し、社内の業務を改善したいと意気込んだ。

本稿は2018年6月14日に開催されたイベント「kintone hive tokyo」(主催:サイボウズ)における講演「システム初心者でも実現できた! 申込書の電子契約システムの導入」の講演内容を基に構成した。


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