2020年4月からは中小規模の企業であっても「働き方改革」の実施が必須になる見込みだ。予算が限られる中で対策するからには、助成金制度の活用も検討しておきたい。利用方法を解説する。
2018年6月29日、「働き方改革関連法」が参議院本会議にて可決成立しました。この法律の重要なポイントの一つに「長時間労働の是正」が挙げられます。長時間労働は原則として「月45時間、年360時間」が上限値とされました。繁忙期など、やむを得えず残業を行う場合には、6カ月までは45時間を超える残業が認められますが、年間では720時間が上限値です。
働き手にとっては長時間労働が是正されるのは喜ばしいことですが、雇用主側からすれば、この規制を順守しなければ罰則の対象になりますから、十分に配慮する必要があります。特に中小企業の場合は、2020年4月1日から時間外労働の上限規制が開始されるため、早急な対策が必要なのです。
働き方改革、中でも長時間労働を見直すためにはテレワークのように、限られた時間の中で業務を効率的に行う仕組みが必要になります。そのために「使える」と期待されているのが、クラウドサービスです。
特に、皆さんご存じのように、Office 365のようなSaaS型のオフィスツールはグループウェアとしての機能も併せ持っており、遠隔での共同作業なども得意とすることからテレワークにも活用できる点が注目されています。しかし、便利な機能を利用しようと思うと、上位プランが必要になることもあるため、IT予算に余裕がなければ活用しにくい点が中小企業にとっては大きな課題でした。
こうした働き方改革のためにサービスを新規で利用したり、プランをアップグレードしたりする際に、公的な助成金を活用できることをご存じでしょうか。うまく活用することで、IT予算が少ない中小企業でも便利な業務環境を手に入れられます。
助成金そのものはOffice 365に限定したものではありませんが、本稿では以降、Office 365を活用するケースを想定して解説を進めます。
「ツール導入で働き方改革」といってもイメージが付かないかもしれません。公開されている事例から、具体的な効果がどんなものかを見てみましょう。
在宅勤務などのテレワーク制度を実施する場合、課題となるのが、社内で当たり前のように行われていたコミュニケーションや伝達が欠落しがちになる点です。「ちょっとした質問」に必要な気軽な会話の場がなくなることで、相談の機会が減り、テレワーク中の社員が一人で問題を抱え込んでしまう懸念があるのです。「電話やメールで済むのでは?」と思いがちですが、日々の細かな業務内容を分かり合うには、「その場での会話」「同じものを見て議論する」といった、スピーディで気軽な情報交換が重要です。そこで、もしOffice 365を利用するならば、ぜひとも試しておきたい機能があります。
「Microsoft Teams」のチャット機能を利用すれば、メールよりスピーディにコミュニケーションをとれるようになります。またチームでの情報共有やドキュメントの同時編集を行いながらオンライン会議を行う道具としても活用できます。
テレワークの欠点ともいえる、「その場での会話」「同じものを見て議論する」といったコミュニケーションの代替策として利用できるわけです。
さらにOffice 365のサービスの1つ「My Analytics」を利用すればユーザーの就労時間や業務時間外に行ったメール送受信の履歴、会議への参加、残業などを自動で分析できるようになります。これを使えば勤怠入力や日報のような手間を掛けずに、一日の業務を可視化できるようになります。ユーザー一人一人に業務効率化のヒントを与えるサービスと言ってもよいでしょう(図2)。
なお、セキュリティ機能を備えた製品版のMicrosoft Teamsを利用するにはOffice 365の「セットプラン契約」が必要ですし、My Analyticsを使うには「Office 365 Enterprise E5」プランの契約が必要です(*)。
「あぁ、やっぱり上位プランか。うちは無理だな」と思うのは少し性急です。「うちは無理だな」と思う人のための、働き方改革の公的支援制度があるからです。
* 2018年7月中旬から提供されている簡易版「Microsoft Teams フリーバージョン」はOffice365契約がなくても利用可能ですが、テレワーク業務で利用するならばセキュリティ面の対策が施された製品版の利用がおすすめです。
いろいろと便利な使い方が期待できる「Office 365」ですが、幾つかの機能はセットプランや上位プランでのみ提供されています。
ITツールにそう大きな予算を割けない中小企業にとって、Office 365のようなクラウド型のツールで業務環境を改善するのは、効率のよい働き方改革の方策だといえますが、あれもこれもと機能を欲張ると、費用負担が大きくなってしまいます。その結果、コスト負担を削減するために効率を犠牲にするのは非常にもったいないことです。
幸い、現在は資金に余裕が多くない中小企業でも、働き方改革を推進して業務効率を高められる環境を提供する目的で「助成金」と「補助金」という2つの制度が用意されています。 どちらも省庁や自治体などが主体となり、事業推進のために支給する返済不要の支援金です。ただし、補助金制度は多くの場合、定員枠があり、審査を通らなければ支給には至らないことが多く、手続きに慣れていない方には少しハードルが高いかもしれません。
一方で「助成金」の場合は、提示された条件をクリアしていれば原則として誰にでも支給されるものです。初めてこのような制度を利用する企業にとって取り組みやすいのは助成金の申請でしょう。
厚生労働省管轄の中小企業を対象とした助成金に「時間外労働等改善助成金」があります。この、時間外労働等改善助成金には幾つかの種類があります。
今回はこの中でも「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」について紹介します。
この助成金制度では助成対象の「中小企業」を、図3に示す条件に該当する企業のこと、と定義しています。
それぞれの業種で、「条件(A)本金または出資額」あるいは「(B)常時雇用する労働者(人数)」のいずれかに該当する事業主であれることが前提です。
これと併せて、さらに次の2つの条件にマッチしていれば、助成対象企業です。
いかがでしょうか。助成制度のルールというと、難しく、細かなルールが多いように思いがちですが、こうして整理してみると、細かな規定はあるものの、案外と間口を大きく設定してあることが分かるでしょう。
「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」は、時間外労働(いわゆる残業)を制限したり、労働者の生活と健康に配慮したりして、仕事と生活の調和を図る取り組みとして、厚生労働省が実施する助成金制度です。この中でも、テレワークコースは特に在宅やサテライトオフィスで就業するテレワーク制度を導入するために用意されています。
テレワークを導入することで、通勤の負担を減らたり、通勤時間相当の時間を自己啓発などに割り当ててモチベーションの向上につなげたり、あるいは、育児や介護などでオフィスに通勤をすることが難しくなった人材にも継続して働き続けられる環境を提供できたりするようになります。
では、どうすれば助成金を受けられるのでしょうか?
支給対象の事業主の条件として提示されているのは以下6つです。このうち、いずれか1つを実施する必要があります。
テレワーク制度を実施する際に必要不可欠なのが、どこでも仕事ができる環境が整備されること。そのためこの助成金では、近年Office 365のような「クラウドサービスの導入」が取り組み条件に加えられているのです。
こちらは、Office 365をこれから導入する企業はもちろん対象となりますが、既に導入している企業でも、新規に契約ID数を増やす場合や、既存のプランから上位プランへ契約を変更する場合も対象になっています。
つまり、既にOffice 365を利用していても、テレワークを実施しようとする企業であればこの助成金を申請することが可能なのです。
申請後は、実際にテレワークを実施します。厚生労働省が「目標を達成した」と判断した場合には、テレワーク評価対象者一人分に対して最大で20万円の助成額が交付される。5人を評価対象者としていた場合は100万円が支給されます(1企業当たりの支給上限値あり)。
また、万が一「目標が未達成」と判定されてしまった場合でも、一人当たりの最大支給額の半額に相当する10万円が交付されます。つまり5人であれば50万円が交付されることになります。
先ほどお伝えした通り、既にOffice 356を導入している企業でも、新たにテレワークを実施したり、テレワーク実施のために上位ライセンスを調達したりといったことが検討しやすくなります。
ここに挙げた条件をクリアできていれば、「達成率」に応じた助成金の交付を受けることができます。
働き方改革の推進や、社外からアクセスできるような何らかのクラウドサービスの活用を検討している企業であれば、この助成金の申請を行ってみる価値があるでしょう。
次回は、実際に申請を行う際に必要な手続きや申請から交付までの具体的なフローについて解説を行いますので、ぜひ参考にしてください。
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