ここのところ、日本における「サマータイム」導入が議論されている。ご存じのように、2020年に開催される東京五輪での各種競技において夏の暑さの影響が懸念されているからだ。確かに2018年の夏の暑さは、まさに酷暑という表現がふさわしい。
提案する政府関係者は「たかが2時間繰り上げるだけ」と思っているようだが、特にIT関係者はサマータイム導入に危機感を持っている。何せさまざまなシステムをサマータイムに対応させる必要がある。システム改修に時間がかかる上、不具合が起こる可能性もゼロではない。
世論調査ではサマータイムに賛成している人が半数を超えたという報道もあるが、「サマータイム実施は絶対ムリ! それどころかサイバーテロの危険性もある」と断言する専門家の発言が注目を集めている。
立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授は2018年8月10日、プレゼン共有サイト「Slideshare」で「2020年にあわせたサマータイム実施は不可能である」と題したスライドを公開した。その理由が克明に記されている。
大きな理由は、多くの情報システムが「時間」を基準に動作しているからだ。政府や自治体の情報システムはもちろんのこと、医療、交通運輸、金融、エネルギー、通信放送、防衛といった重要インフラ、企業内の業務、財務、人事給与といったシステム、テレビやエアコンなどの家電なども時間に沿って動作する。
上原氏は、これらのシステムの時間設定を「手動で変えられるならまだマシだ」と言う。むしろ、問題となるのは自動変更されるものだ。それらが正しく設定され、変更されるかどうかを確認するのが難しいのだ。しかも24時間動作システムについては、より誤作動の可能性が高くなると指摘する。大きく見積もっても対応には最低4〜5年は必要だ。
予算的にも重要インフラだけで3000億円を超える金額が必要になると試算する。それどころか、対応に伴うIT企業の負担や疲弊を考えれば、経済被害は兆単位になる可能性もある。だからこそ「2020年には不可能!」ということなのだ。
世論はサマータイム実施のリスクを正確に理解しておらず、このまま実施すれば「こんなはずではなかった」という状況になるとも指摘する上原氏。「海外の他の国もやってる」という意見に対しては、情報機器がこれほど普及する前からサマータイムが始まっていたから、そもそも機器やシステムがサマータイムに対応した設計になっていて、日本のようにゼロからシステム改修するような状況にはなっていないと解説する。
上原氏の専門はセキュリティだ。その観点からしてもサマータイムが「サイバーテロのお膳だてをしてしまう」と大きな警鐘を鳴らす。
サマータイム対応のためにPCをはじめとする多数の機器やアプリで「修正プログラム」が配布されるだろう。バグが発生するだけでなく、それに便乗する形でマルウェア(例えば、偽の修正プログラム)が配布されるリスクが高まることが容易に想像できる。悪意のある攻撃者にとって「絶好の機会」に他ならないと、上原氏は声を大にして警告するのだ。
このスライドは「バージョン0.1」(本稿執筆時点)とのことで、今後は電波時計やGPSに何が起きるか、テレビやHDDレコーダーの破綻例などを書き加えていくという。IT関係者に限らず、サマータイム導入についてはもう一考する必要があるのではないだろうか。
上司X: サマータイム導入にはいろいろなリスクがあって、サイバー犯罪が増大する可能性すらあるって話だよ。
ブラックピット: 「ただ2時間繰り上げればいいだけじゃん」って思っている人が相当いそうですね。
上司X: まさか世論の半数が賛成だとは俺も思ってもみなかったよ。
ブラックピット: どうなんです、個人的には?
上司X: 俺はサマータイム導入反対だ。上原氏が指摘する通り、リスクが大き過ぎると思う。2000年問題のときは対応のための時間が十分あったかもしれないけど、2年でいろいろ対応するのは大変だよ。改元のための改修もあるだろうし。キミは?
ブラックピット: 反対です。生活のリズムが崩れますからね。2時間の早起きを慣らすのは結構ツラいものがありますよ。
上司X: 過去に役所や企業レベルで実験的にサマータイムを実行した話もあるけど、サマータイム経験がある人の3割以上が体調不良になったり仕事効率が悪くなったりしたと答えた統計もあるそうだ。
ブラックピット: サマータイムが導入されても「残業」は減らないでしょうし、むしろ寝不足になるだけのような気がします。朝は暑さを回避できるかもしれませんが、寝る時間まで暑さを引きずることにもなりませんかね?
上司X: 五輪のために俺たちが割を食うのはちょっと納得が行かない気もするな。特に地方の人だと、「東京のために何で?」と思うかもしれない。感情論じゃなくてさ、上原氏のような論理的な情報が広まって、もっと議論を進めてから導入の有無を決めるべきじゃないかと俺は思うね。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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