コンセント不要で充電や給電が可能なマイクロ波空間伝送技術を利用した「ワイヤレス電力伝送(WPT)」を徹底解説する。
スマートフォンなどが日常生活に欠かせないものになる中で、電源の確保は重要だ。しかし、予備バッテリーを持ち歩くのも面倒だ。そこで期待されるのが「ワイヤレス電力伝送(WPT)」技術。中でも「マイクロ波空間伝送」技術を利用した、スマートフォンやウェアラブルデバイスへのケーブルなしの常時給電が注目されている。電気自動車、工場内のセンサーや工具、産業用ロボットなどの充電や給電にも応用できる。電気はコンセントからコードでとるものという常識を覆すWPT技術のあらましを見てみよう。
スマートフォンを充電パッドに上に置いておくと、いつの間にか充電完了。そんな「置くだけ充電」を便利に使っている人も多いだろう。これもワイヤレス電力伝送技術(WPT:Wireless Power Transfer/Transmission)の1つだ。
しかし近傍での電力伝送にとどまらず、例えば電気自動車、PC、工場内センサーやロボット、生産機器、搬送用車両、果てはドローンにまで、電力を送ることができる技術が開発されている。
特に注目されているのがマイクロ波を用いる方式だ。これは電波で端末に常時充電できる仕組みで、スマートフォンを充電パッドに置く必要もなく、電池切れ不安の根本解消につながることが期待されている。もちろんそればかりではない。WPTの広範な実用化により、産業と社会に大きな進化がやがてやってくることになるはずだ。
以下では、従来のWPT技術に関するあらましを整理した上で、注目されるマイクロ波空間伝送型WPTの技術とユースケース、そして今後の見通しについて解説する。
まずはWPTの主な技術方式を見てみよう。図1に主要な4つの原理、技術に基づいたWPTのタイプを示す。
「電磁誘導型」では、送電側と受電側の装置にコイルを設け、送電側のコイルに交流電流を流すと、交流磁界が発生して、受電側のコイルに電流が生まれる電磁誘導現象(磁界結合)を利用している。
「磁界共振型」では、電磁誘導と同じ原理を利用するが、送電側と受電側装置の共振周波数を同じにして共振(共鳴ともいう)現象を生み出すことで伝送距離を延ばし、位置ずれの許容範囲を広くしている。
「電界結合型」は、送電側装置に電圧をかけて電界を生み、受電側装置に容量結合(コンデンサーと同じ原理)によって電圧を生み出す方法をとる。コイルが必要ないのでデバイス構成が簡略化できるのが特徴となっており、日本では村田製作所などから商用モジュールが提供されている。
「マイクロ波空間伝送型」は、送電側の装置から複数のアンテナで電波を放射し、その電波を受電側の装置のアンテナで捉えて電力に変換する方式だ。これについて詳しくは後述する。
WPTの送電装置と受電装置の構成は、基本的にどのタイプでも図2のようなイメージになる。
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