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電池切れ解消の究極技術「ワイヤレス電力伝送(WPT)」とは?5分で分かる最新キーワード解説(2/4 ページ)

» 2018年09月19日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 以上の技術方式を踏まえ、WPTには4つの方向性があると考えると分かりやすい。

スマートフォンやセンサー、医療機器向けの近傍WPT

 1つは、電磁誘導型WPTによる数十センチ以下の近傍エリアでの電力伝送だ。数ミリから数センチ程度の距離での送受電は、スマートフォンや電動歯ブラシなどの小型デバイスの充電用途に活用されている。

 この方式については、ワイヤレス充電技術の標準化機関であるWPC(Wireless Power Consortium)が「Qi(チー)」規格を策定しており、この規格に準拠した製品例が多い(世界で数百種類あるといわれている)。

 またペースメーカー、除細動器、深部脳刺激装置などの埋め込み型医療デバイスへの給電でも安全性の検証が行われており、インプラント医療への応用も進みそうだ。電界結合型WPTもスマートフォンやPCなどに応用可能性があるが、実用化例は日本メーカーのみであり、今のところ製品化事例はあまり多くない。

電気自動車、バス、構内搬送車など電動移動体向けの近傍WPT

 もう1つの方向性は、電気自動車や構内搬送車などの電動移動体へのワイヤレス充電だ。電磁誘導型WPTと、同様の基本原理を利用しながらより伝送距離を長くできる磁界共振型WPTが用いられる。地面に設置した送電装置からの電力を、車両に搭載した充電装置で受け取る方式で、ケーブル接続の必要がなく、パーキングエリアに停車しておけば充電できる仕組みだ。

 日本では、2016年3月に世界に先駆けて法整備が行われ、電気自動車用の磁界共振型WPTシステム(利用周波数85kHz帯、最大送電電力7.7 キロワット、電力伝送距離最大30センチ程度)が制度化され、電波法上の高周波利用設備として型式指定を受けた機器であれば無線免許がなくとも販売、利用可能となった。

 さらに小型や中型EVバスに関しては、東芝が85kHz帯44キロワットワイヤレス急速充電装置を開発、実際に公道走行実験を行っている。同サイズのディーゼルバスと比較して、約60%のCO2削減効果があることが実証されたという。

 磁界共振型の場合は数十センチの伝送距離で送受電できることから、道路に多数のコイルを埋め込み、走行中の電気自動車への直接給電も視野に入っている。走っているだけで充電できる仕組みである。

 なお、スマートフォンやセンサー、医療機器向けの非接触(近傍)型のWPTについては、15〜100ワットクラスの大電力を伝送できる新しい国際標準規格策定を、日本企業が中心となって積極的に推進しているところだ。

 これが標準化され、法制度が対応すれば、例えば机に組み込んだ送電装置から受電装置を組み込んだPCへ常時給電したり、消費電力の大きな電動工具のバッテリー充電を収納場所に設置した送電設備から行ったりというように、ますます多用途での活用が広がると思われる。

オフィスや工場内などの比較的広いエリアの多数デバイス向けWPT

 もう1つの方向性は、主にオフィス内や工場内といった、少なくともメートルオーダー以上、数十メートル程度の距離への1対多の電力伝送である。これにはマイクロ波空間伝送型WPTが使われる。

 例えばオフィス内ではスマートフォンやタブレットなどの情報端末への常時充電が期待できる。電源ケーブルを端末に挿したり、充電パッドに置いたりする必要なく、普通に利用している状態で充電できてしまうというわけだ。また工場内では、多く設置されたセンサーへの直接給電が可能になると期待されている。つまり電池交換の必要がなく、電源ケーブル敷設の必要もないため、メンテナンスが非常にラクになる。

 近年の高周波数帯の電波活用技術の進歩により、マイクロ波を使う次世代WPTの早期実用化が目に見えるようになってきた。マイクロ波の特徴の1つは直進性が高いことで、MIMO技術に代表される高度なビームフォーミング技術を利用することにより、送信アンテナから受信アンテナに電波のビームを絞り込んだり、複数の電波伝搬パスを同時に利用して受電電力を向上させたりすることができる。

 この特徴を生かして、まるで無線LANが情報を伝えるように、デバイスに電力を伝えられるわけだ。他のWPTタイプは基本的に送電側装置と受電側装置が1対1で送受電するのだが、このタイプは1台の送電装置から複数のデバイスの受電装置に向けて送電できる。これも無線LANや5GのMIMO技術の特徴と同じである。

マイクロ波空間伝送型WPTのユースケースの例 図3 マイクロ波空間伝送型WPTのユースケースの例(出典:東芝)

遠隔地間の大電力伝送

 残りの1つは大電力をはるかな遠隔地に伝送する方向性だ。この典型例は、1970年代から研究されている「宇宙太陽光発電」である。これは宇宙空間の衛星に搭載した太陽光発電パネルで発電した電力をマイクロ波やレーザーに変換して地球上の大型アンテナで受電するという壮大な仕組み。

 衛星打ち上げコストをはじめ、さまざまな課題が山積していていまだ実証実験に至っていないものの、研究は続けられており、現在では地上の送受電設備の間での双方向長距離電力伝送を可能にして、発電設備の余剰電力を有効活用する研究にも発展している。災害時の遠隔地への送電にも応用可能と考えられる。

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