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老舗RPAベンダーの野望 「第三の労働力」のインテリジェント化とは?

2001年に創業した英Blue Prismは、主要なRPAベンダーの中では最古参の部類に入る。インテリジェント機能を強化した最新バージョンは業務自動化に何をもたらすのか。

» 2018年12月06日 08時00分 公開
[齋藤公二インサイト]

 RPA(ソフトウェアロボットによる業務プロセスの自動化)への注目が高まるにつれ、続々と外資系ベンダーが日本市場に上陸している。英Blue Prismもその1社だ。

 複雑な業務プロセスを自動化し、サーバサイドでの高い管理性を持つことを特長とし、住友商事、昭和リース、第一生命、DeNA、福岡フィナンシャルグループなどが導入する。同社共同創業者でCEOのアレスター・バスケード氏と日本法人社長のポール・ワッツ氏にBlue Prismの強みや今後のビジネス戦略を聞いた。

「老舗」RPAベンダーの未来

 「17年かかって『一夜にして大成功(Overnight Success)』を収めた企業だと言う人もいる。だが、われわれはロンドンの証券市場に上場している唯一のRPAベンダーだ。52カ国42業種で500社超の顧客に対してサービスを提供し、売上は140%で伸びている」と語るのはバスケード氏だ。

 2001年に創業したBlue Prismは、主要なRPAベンダーの中では最古参の部類に入る。最新バージョンとなる6.4以降は、インテリジェント機能を強化してMicrosoftやGoogle、IBMなどが提供するAI関連機能を既存の業務プロセスに組み込めるようにする。「Blue Prism Digital Exchange」というプラットフォームも展開し、パートナーが共通部品やツール、アプリケーションなどの「オブジェクト」を公開し、共有することに力を入れる。

 「Blue Prismは、デジタルワークフォースのためのオペレーティングシステムだ。面白くなるのは、このOSの上でパートナーがさまざまなオブジェクトを提供し始めるこれからだ」と今後の展望に自信を見せる。

英協同組合銀行のRPA導入事例

 同氏が振り返るBlue Prismのビジネス戦略には大きく分けて3つの波があった。1つは創業期からの「ビジネス主導型」の波。ビジネス起点で業務プロセスを変えることで現場でのコスト削減を実現した。2つ目は2008年ごろからの「エンタープライズへの適用」の波。セキュリティやガバナンスを確保し、企業がRPAをコントロールできるようになったフェーズだ。

 Blue Prismの導入ユーザーもこうした波を乗り切ってきた。初期ユーザーの1社である英The Co-operative Bank(協同組合銀行)は典型例だ。

 まずコールセンター業務の効率化とコスト削減を目的にBlue Prismを採用した。例えばコールセンターに寄せられるクレジットカードの紛失などの問い合わせでは、カードとカードの所有者を特定するために信用情報システムにログインしてから約5分が必要だった。通話を終えてからも25分かけて盗難や紛失などの後処理を行っていた。

 「従業員、アウトソースに次ぐ『第三の労働力』として期待された。Blue Prismのデジタルワークフォースを活用して、ログイン処理などを自動化したことでユーザーの特定作業や後処理のプロセスにかかっていた30分間は大幅に削減され、生産性は6倍に高まった」(バスケード氏)

 その後、The Co-operative Bankはコールセンター業務の自動化をエンタープライズ規模に拡大し、さらに新しいフェーズへと進もうとしている。

第3の波に必要な6つのインテリジェントスキル

 「第3の波はインテリジェントなデジタルワークフォースだ。われわれは、それに必要な技術を6つのインテリジェントスキルとして特定した。知識と知見、視覚認識、学習、プランニングと優先順位付け、問題解決、コラボレーションだ。足りないものは自社で開発するか、買収やパートナーとの協業でまかない、順次ユーザーに提供する予定だ」(バスケード氏)

第3の波に必要な6つのインテリジェントスキル 第3の波に必要な6つのインテリジェントスキル

 The Co-operative Bankは、なぜユーザーの特定に5分もかかったのかを検討し、別の解決策を模索した。クレジットカードの紛失時の問い合わせ処理をユーザー自身が完結できるサービスを提供したのだ。

 「ユーザーが自分で報告できるようして、社内で行っていた処理も完全に自動化した。英中央銀行のCHAPSシステムとの取引を自動化する『STP(Straight Through Processing)』という仕組みを構築した。顧客接点となるチャットボットとのプロセス連携も行おうとしている。インテリジェントな自動化スキルはさらに発展する。エンタープライズRPAがレベル1だとすると、インテリジェントなスキルはレベル2で、今後はレベル3のコグニティブな自動化へと進化する」(バスケード氏)

 コグニティブな自動化では機械学習ワークフローを統合し、確率的な処理や自己学習の自動化などができるようになるという。

「インテリジェント」を実現するエコシステム

 インテリジェントなデジタルワークフォースの活用を支えるのがエコシステムだ。Blue Prismは、テクノロジーアライアンスプログラムでパートナーとの協業を進めるとともに、バスケード氏が「RPAにおけるAppStoreのような存在」と例えるBlue Prism Digital Exchangeを提供する。パートナーが開発するツールやアプリケーションが共有されるのだ。

 AIについてもMicrosoftやGoogle、IBMなどとパートナーシップを結び、Microsoft Cognitiveのテキスト分析や画像認識、音声認識、Google Cloudの自然言語翻訳、画像機械学習、IBM Watsonの言語翻訳や画像認識、自然言語処理といった機能を、Blue PrismのGUIベースのデザインツールProcess Studioで活用できるようにする。

 「バージョン6.4からMicrosoftやGoogleなどの外部コネクタをProcess Studioにダウンロードし、ドラッグ&ドロップでAI機能を既存プロセスに簡単に組み込めるようになる。開発期間はより短くなり、さらにインテリジェンスを強化可能だ。既存のBlue Prismのオブジェクトと組み合わせることもできる。The Co-operative Bankのように、銀行間処理を自動化したり、ユーザーの信用情報を自動で確認したりといったことが自動化できる。私はRPAにおけるこうした展開に対してとてもワクワクしている」(バスケード氏)

部門レベルでの効率化やコスト削減よりも大事なこと

 国内では2017年に日本法人を設立し、30社のパートナーと製品展開を図る。マイクロソフトやアクセンチュア、富士通などと技術連携する他、「BizRobo!」などを展開するRPAテクノロジーズもマスターリセラーの1社だ。

 ワッツ氏は、「日本では働き方改革の取り組みが活発で、RPAもそこに結び付けられて議論されている。部門レベルでの効率化やコスト削減は大事だが、戦略的な視点を抜きにはできない。エンタープライズレベルでのインリジェントオートメーションを実現することが重要だ」と話す。

 インテリジェントとは、状況を理解し、意味を導き出し、変化を予測できるロボットのことだ。テクノロジーを最適に組み合わせて「人」「マシン」「プロセス」の一体化が求められる。

 「私と日本チームの夢は、本当の意味での働き方改革を実現すること。業務レベルだけでなく、いかにして経済全体によいインパクトを与えていくか。われわれは、真の意味でのインテリジェントオートメーションを提供し、日本の働き方改革に貢献できると自負している」(ワッツ氏)

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