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ロボットを増やすだけではダメ、第一生命も実践したRPAの導入アプローチ

RPAの導入や運用を成功させるためには幾つかコツがあります。今回は、RPA製品のライセンス体系が複雑でよく分からない、効果的に拡張するには誰が導入を主導すればよいか、最適な運用方法は何か、といったよくある疑問に答えます。

» 2019年01月15日 10時00分 公開
[志村裕司Blue Prism]

 前回までの記事をお読みになった方から、「こんなにBlue Prismが高機能なら価格もお高いんでしょう?」というご質問をいただきました。しかし意外にも、サーバ型の製品の中で最安値の部類に入ると思います。

 製品ごとにライセンス体系は大きく異なるため、必ず詳細に確認すべき事項です。単に1ラインセンス当たりの価格で比較できるものではなく、ライセンス課金の対象や必要なライセンス数もチェックが必要です。

どう比較する? RPAツールのライセンス費用の考え方

 Blue Prismは価格が高いと思われていますが、全くそんなことはありません。ライセンス課金の対象は、シンプルに本番稼働環境で同時実行したいロボット数だけです。例えば5台を同時に実行したければ、5ライセンスを購入いただく仕組みです。

 製品によっては、テスト環境や冗長構成用の環境にも課金が発生したり、開発者の人数分ライセンスが必要だったりします。従来、PC1台の作業を対象としたデスクトップの自動化を提供してきた製品の場合は、サーバ機能をオプションで追加するときに高額の課金が発生する場合もあります。

図 図1 Blue Prismと他ツールのライセンス課金体系の比較

 Blue Prismは、パートナー販売のため価格を決めることはできませんが、希望小売価格は1ライセンス当たり年額120万円で、1年契約から可能です。必要なライセンス数に関しても、スケジュール機能を利用すれば1つのロボットで時間帯を分けて複数のプロセスを実行できるため、一般的にデスクトップ型のツールと比較して少ない数で済みます。

 ライセンス費用に加えて、第2回で解説した運用全体にかかるTCOや、第3回で解説したセキュリティ要件なども考慮して、ぜひ自社に合ったツールを選定いただければと思います。

RPAは魔法のつえ?

 最近はだいぶ減ってきましたが、RPAで簡単に業務効率化を達成できると思い込んでいる方がまだまだ多い印象です。しかし実際には、これまで多くのRPAプロジェクトが失敗していると聞きます。開発や運用の工数が思った以上に増大してしまった、ツールに機能的な制約があって自動化の対象を拡張できない、セキュリティやコンプライアンスのリスクに対応できない、野良ロボットだらけでガバナンスが効かない、など対応すべき課題が多すぎて、RPAの展開を諦めてしまう企業も多いようです。これは実にもったいない話です。

 RPAも他の企業システムと同様、導入と運用にはコツがあり、適切に人員や時間を投資しなければなりません。大きな成果を上げるためには、チェンジマネジメント(組織変革)も必要です。一体どのようなポイントを押さえればよいのでしょうか。

ロボット運用の成功の鍵を握る「ROM」

 Blue Prismには「ROM」(Robotic Operating Model)というロボット運用に関する独自の方法論があります。これをもとに、自社の戦略や文化にあった形のROMを作り上げることで、よりスムーズな導入と展開が可能です。最適な運用モデルは企業ごとに異なりますが、以下で基本的なポイントを説明します。

図2 図2 ROMの概要

 ROMでは、IT部門と業務部門の両輪でプロジェクトを進めることを推奨しています。IT部門は主にサーバなどのインフラ管理を役割とし、業務部門が組織横断のCoE(RPA推進組織)を主導します。組織横断の取り組みになるため、経営層の承認と支援も必要です。

 まずRPAで何を実現したいのかというビジョンを持つことが重要です。日本は解雇規制があるため、人件費の削減というのはRPAの目的になりにくいと思います。RPAによってできた余力を、具体的にどのような付加価値業務に再投資するのか――自社の中期経営計画などの戦略に沿って、RPAで得られるビジネス上のメリットをできるだけ明確に定義します。これがRPAプロジェクトの大義名分となり、関係するメンバーのモチベーション維持やチェンジマネジメントでも生かされます。

 最近は、取りあえずPoC(概念実証)をやってみたものの、ビジョンがないために具体的な効果を測れず、プロジェクトが終わってしまうケースも多く見られます。スモールスタートで試してみるという考え方はよいと思いますが、最初にしっかり時間をかけてRPAに取り組む目的を明文化することで、このような失敗は避けられるのではないかと思います。

 RPAを推進するための組織体制も非常に重要です。業務を1つ自動化しただけでは大きな効果は出ないため、効率よくRPAを拡張させるための体制を構築します。例えば、PoCを終えて本格展開のフェーズに入ると、組織横断のCoEが必要になります。はじめは数名程度でも、RPAの導入規模に応じてCoEに必要な役割や人数は増え、柔軟な対応が求められます。

 Blue Prismをご活用いただいている第一生命保険では、早くから中央集権的なCoEを構築し、各部門から出されるRPA化の案件に対して、CoEがその実施可否を判定するという運用を行っていました。しかし導入規模が大きくなるにつれて、多くのRPA化の要望に応えることが難しくなり、要望を断られた部門からCoEに不満の声が上がってくるようになりました。

 そこで、チェンジマネジメントの一環で各部門に「RPAアンバサダー」という現場の推進役を配置し、ロボット開発者のリソースを各部門に割り当てることで、部門内で自動化案件の優先順位を決められる体制を作りました。中央集権的にロボットの管理は行いますが、何の業務をロボット化するかは現場で決めてよいというルールです。これは運用の中で臨機応変に組織を改善したよい事例といえるでしょう。

 第一生命保険は、この1年間で約260業務、5万時間分の作業を自動化しました。CoEの基盤をしっかり構築できたことにより、今後3〜4年でさらに規模を拡大し、3000業務をRPAで自動化するというアグレッシブな計画を立てています。

RPAを内製化する最適な方法

 RPAの最初のプロジェクトは、RPAの導入経験があり、ツールのノウハウを熟知したコンサルティングファームやシステムインテグレーターに企画や開発を外注するのがよいと思います。しかしそのあと数十、数百の業務を自動化することを考えると、全てを外注で実装していたらROIの観点で最適化ができません。

 最終的に内製化するのが理想ですが、ここで「内製」という言葉の定義について少し考えてみたいと思います。日本の大企業にはたいてい、情報システムを担当する子会社があります。内製といえば通常はその企業内のメンバーだけで開発することを指しますが、情報システム子会社のメンバーも含めて内製と考える企業が多いのではないでしょうか。

 実際、私がお話させていただいている多くの日本企業は、情報システム子会社のメンバーをCoEに含めています。情報システム子会社はもともと親会社のシステム企画や開発、運用が本業であり、IT人材もそろっているため、RPAプロジェクトの担い手としてはまさに適任です。日本ではこの形が主流になるかもしれません。

 一方、業務の現場の人に、ロボット開発の仕事まで任せるのはあまりオススメできません。トレーニングを実施すれば開発すること自体は可能なのですが、その人の本業はロボット開発ではありません。どうしてもRPAの優先度は下がってしまい、自動化が思ったように進まなくなります。

 また、止まらないロボットの作り方など、開発にはお作法がありますので、それを現場の人に完全にマスターしてもらうのも少し酷な話です。スキルが足りない人に開発を任せると、結果的に品質の悪いロボットが量産されるリスクもあります。

 前述の第一生命保険は、開発者育成のためのトレーニングコースを社内で完備し、効率的にロボット開発者を増やす仕組みを構築しています。企業全体のリソース配置を考えた場合、RPAの効果を最大化するためにはやはり専任の開発者を置くのがよいでしょう。

ブラックボックス化させない、RPAの副次的なメリット

 RPA導入のプロジェクトを進めていると、現場から意外なメリットの話を聞くことがあります。RPAでより大きな効果を出すため、現状の業務をそのまま自動化するよりも、業務手順や判断のルールをあらためて見直し、ロボットが処理しやすい形にしてから自動化するという手順がよくとられますが、これはいわば「ミニBPR」と呼べます。

 この作業によって属人的に行われていた業務が可視化され、ブラックボックス化を防げるため、人に依存しない組織を作り上げることが可能になります。また、現場の業務改革意識が促進され、従業員が積極的にロボット化できそうな業務を見つけてリクエストを上げるようになります。これらはRPAの副次的なメリットとして最近よく聞く話です。

 このサイクルを仕組み化するためにも、自動化対象の業務プロセスのドキュメント化は必要です。これはROMでいうところの「プロセスアナリスト」と呼ばれるメンバーの役割に含まれます。

 海外を含めてBlue Prismの展開が成功している企業を見ると、業務部門へのヒアリングから要件定義、設計、ドキュメント化に全体工数の約60%もの時間をかけています。ここが緩いまま開発やテストのフェーズまで進んで追加要件や修正が入ると、手戻りの工数が大きく発生してしまうため、最も力を入れるべきフェーズといえます。RPA導入の際は、面倒だと思わずにミニBPRからはじめることをオススメします。

自動化プロセスの選定対象

 最後に、どのような業務を自動化すればより大きな効果を得られるでしょうか。デスクトップ型のツールは自動化の対象が非常に狭く、個人作業の補助にしかならないため、人と人をつなげたプロセスの自動化まではできません。一方、部門をまたいだ大きな単位の業務プロセスは、自動化できれば効果は最も大きいのですが、それは難易度が高いため、強力なトップダウンや外部コンサルタントの力が必要になってきます。

 本連載で述べてきたように、RPAで部門内のプロセスを自動化し、ロボットの数を増やしていけば十分大きな効果が狙えます。部門またぎの本格的なBPRまではいかなくとも、部門内でミニBPRを推進して、現実的な運用方法と組み合わせて実利を追うのは悪くない考えだと思います。

 いかがでしたでしょうか。今回はROMの詳細までは説明できませんでしたが、こういったフレームワークを活用し、全体像を描いた上でRPAに取り組むことが成功への近道となります。RPAの導入を短絡的に考えず、ぜひじっくり計画を練ってみてください。

 さて次回はいよいよ最終回。RPAの未来を予測したいと思います。最近では、RPAとAI-OCRの連携なども話題ですが、今後ますますRPAの適用範囲は広がっていきます。一体どのようなことが可能になるのでしょうか。どうぞお楽しみに。

著者紹介:志村裕司

Blue Prism ソリューションコンサルティング部長

野村総合研究所、セールスフォース・ドットコム、Box JapanといったIT企業で活躍後、Blue Prismに入社し、日本ビジネスの立ち上げメンバーとして尽力。プリセールス活動を中心に、導入プロジェクトへの参画やイベントでの講演も数多く務める。

企業紹介:Blue Prism

RPA(Robotic Process Automation)ソリューション、「Blue Prism」を提供する企業。2001年に創業以来、RPAのパイオニアとして、約15年にわたり世界中の企業における新たな働き方の実現を支援してきた。「エンタープライズRPA」というコンセプトのもと、拡張性、耐障害性、セキュリティ、コンプライアンスといった機能を提供し、クラウドやAI(人工知能)との連携もサポート。Coca-Cola、Pfizer、IBM、Nokia、Siemens、Zurichといった有名企業で多くの実績を持つ。

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