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大衆化とは違う “AIの民主化”の本質すご腕アナリスト市場予測(1/3 ページ)

第4次産業革命のキーテクノロジーの1つとされるAI(人工知能)。実装に必要な技術の多くがオープンソースで公開されており、多様なサービスに組み込まれるようになった。意識せずにAIを活用する“AIの民主化”が広がる状況だ。本稿ではAIの民主化の現状を概観し、AI活用の課題や企業が活用するための勘所について考えていく。

» 2019年05月28日 08時00分 公開
[阿部貴裕デロイト トーマツ コンサルティング]

アナリストプロフィール

阿部 貴裕(Takahiro Abe):デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネージャー

ITベンチャー企業、国内コンサルティング会社を経て、デロイト トーマツ コンサルティングに入社。Windows MobileによるFX取引システムから会計系システムの構築まで多種多様なシステムを手掛ける。近年は先端技術領域を積極的に取り入れたソリューションを展開している。


加速する“AIの民主化”とは?

レポートにおける主要テーマの1つとなっている「AI」

 デロイト トーマツ コンサルティングでは、TMT(テクノロジー・メディア・通信)業界におけるグローバルトレンドを予測した「TMT Predictions」を毎年発刊しており、グローバルの内容に日本の視点を加味した日本版を4月に発表している。主なトピックは、その年に臨界点を超えて大きく飛躍すると予測されるキーワードが中心で、2019年版として発表した「TMT Predictions 2019」では、5Gと並んで“AI”が取り上げられている。既存業務の効率化や新たな付加価値を創出するための手段として多くの企業が関心を持つAIだが、これまでアーリーアダプタ―だけが恩恵を受けてきたものの、多くの企業でも利用可能になる“AIの民主化”が進みつつあると予測している。

 このレポートでは、2019年にAIを活用している企業のうち70%がクラウドベースソフトを通じてAIを実装することができるようになり、65%がクラウドベース開発サービスを通じてAIアプリケーションを開発することになると予測している。また、AIが組み込まれたソフトウェアサービス、図1で示した「クラウドエンタープライズソフトウェア+AI」の普及率は、2020年までに87%まで上昇すると推計しており、クラウドベースAI開発サービスについても83%まで増加すると予測。この数字は、何か特定のサービスを利用しているというよりも、社会現象としてAIの利用が当たり前の世の中になっていることを示しているともいえるだろう。

クラウドベースのAI利用率 クラウドベースのAI利用率

 AIの利用拡大に大きく寄与するのが、まずはAIを搭載したクラウドエンタープライズソフトウェアだ。これらを業務で利用するメリットは大きい。自社でAIアプリケーションの開発をせずともAIがもたらす恩恵を受けることが可能なだけでなく、AIに関する専門知識がなくても手軽に利用できるようになる。クラウドソフトウェアの枠を超えてより高度な要件、固有な要件を実現させるうえで、組織独自の学習データやモデリングなどを実現させる必要があり、ここでクラウドベースのAI開発サービスがその実現を強力に後押しする。

「AIの民主化」が示す世界

 多くのメディアでも取り上げられている“AIの民主化”というキーワードだが、どのレベルの技術がどんな状態なのかという厳密な定義は難しい。「AIの民主化は「誰もが公平に利用でき、かつその利用者自身がその適正・公平な運用および成長に参画できる環境が実現している状態がAIの民主化」と呼ばれる状態にあると解釈している。

 “AI”と一言でいってもさまざまな技術が存在しているが、ここでは現時点で主流となっている機械学習(Machine Learning)や深層学習(Deep Learning)といった認知系の技術を例にとって考えよう。実はこの認知系の技術は、2018年くらいから爆発的に広まったRPA(Robotic Process Automation)のオブジェクト認識だったり、スマートスピーカーとのやりとりで音声認識だったりに含まれている。現時点でこれらのハードやソフトはExcelやコピー機のように誰もが身近に利用できる状態になっている。

 AI自体は、コンピュータによる「推論」や「探索」が可能となったことで第1次人工知能ブームとなった1950年代から既に研究が進められてきたものだ。では、その民主化としての原点はどこにあるのだろうか。Deep Learningのライブラリとして知られるTensorFlowなどの環境が広く公開されたことが大きな契機になっていると捉えることもできる。それまでは、モデル自体を作るには別途その専門知識が必要になり、その知識やその知識をベースに作られる環境は一部の研究者のみが利用可能になっていた。TensorFlowなどモデルが公開されることによって、アイデアとデータさえあれば誰でも公平に深層学習を利用したサービスの実現ができるようになった。これが大衆化ではなく民主化への大きな起点だと考える方ことができる。ユーザーは受け身で利用するだけなく、積極的に参画もできる、ということが可能になる、という考え方の転換点になる。こうした環境は、2017年にIBM WatsonのAPIが無償で試用可能になるなど、AIの民主化が進むなかで作られてきたものだ。これにより利用および参画のハードルがさらに下がった。まさに民主化に向けてAIが歩み始めた大きな出来事だったといえる。

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