2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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業務改善の救世主としてRPAに期待する理由の一つが、「コストや仕様変更が多くシステム化には適さないが、できることなら自動化したい」と考えていた業務に対応できる点だ。
50年以上にわたって廃棄物処理技術を培い、ごみ焼却施設の建設や運転受託で国内トップクラスの実績を持つ荏原環境プラント株式会社も、その一社だった。最近のごみ焼却施設では廃熱を利用した発電が当たり前になっており、同社は新電力事業者としての顔も持つ。売電実績データを電力会社から受け取るのだが、電力会社ごとに異なるWebシステムにアクセスする必要があり、法令等の影響を受けてデータ項目が変更されることもしばしば。そこで注目したのがRPAだった。
同社では柔軟性が求められる新電力事業において、RPAを活用することで人員を補充せずに事業拡大を実現している。
<目次>
1. 柔軟性が求められる新規事業にはRPAが向いている
2. RPA×超高速開発ツールの併用で業務の効率化を実現
3. 限られた時間での正確な処理に価値がある
4. 全社でRPAが盛り上がる風土づくりを推進中
−まず、荏原環境プラントの事業について教えてください。
輪田勇次氏(管理本部 管理部 IT管理課): 私たちは、ごみ焼却施設の計画支援から建設、運営管理に至るまでを一貫して提供しています。
最近のトレンドとしては、数十万人が住むような自治体が新規建設する中規模以上の施設であれば、焼却時に発生する廃熱を有効利用して発電し、売電により利益を得ることが当たり前になっています。私たちは設備を建設するだけでなく、小売電気事業者、いわゆる新電力事業者として施設で生まれた電力を一旦買い取り、送配電を担う電力会社を通じて地元に供給し、「電力の地産地消」をお手伝いするサービスも行っています。
小林江里氏(運営事業本部 事業管理部 新電力事業課): この新電力事業は2010年から始め、ずっとExcelで業務を行ってきました。しかし事業規模が年々拡大してきたこともあり、電力会社のメーターから得られるデータの取り込みや、売上や原価などの計算、基幹システムへの会計データ入力などを効率化するために、新電力事業用のシステム構築が必要になっていました。
輪田氏: システム開発においては、開発が難しく時間もかかるプログラミング中心の技術ではなく、ビジネスに合わせて素早くメンテナンスできる「超高速開発」のプラットフォームに着目しました。そこで株式会社シーエーシーが提供する「AZAREA(アザレア)」を採用することとし、開発も同社に依頼しました。Excelで記述した業務ルールを取り込める機能が魅力的でしたね。
RPAには、日本でブームが起きる前の2015年から注目しており、新電力システムと組み合わせて業務を効率化したいと考えていました。
−新しいシステムだけで完結するのではなく、RPAとの連携を前提としたアーキテクチャにしたのはなぜですか。
輪田氏: メーターのデータを取得するには、電力各社の専用Webサイトにアクセスし、ファイルをダウンロードして取り込む必要があります。サイトの構造が会社によって異なりますし、データのフォーマットにも違いがあります。また、新電力でやりとりするデータには手書きがなくデジタルデータで完結するのですが、システム化するほどではない細かな入出力が多い業務です。システム開発よりも低コストで柔軟に対応できるRPAは、新電力の業務に向いているツールだと考えました。
小林氏: 柔軟性が必要なのは、新電力のルールが固まりきっていないという事情もあります。関連する法令などの変更にともない、電力会社のデータ項目が増減することも珍しくないのです。
輪田氏: メンテナンスしやすい超高速開発ツールにこだわった理由も、こうした変化に対応できるようにするためです。実際、開発期間中にも法令変更にともなう対応が必要となりました。
−実際にロボット作成を担当したのは、松岡さんだと聞いています。貴社におけるロボット開発の方針について教えてください。
松岡豊裕氏(管理本部 管理部 IT管理課): もともとITとは関係の薄い部署から移ってきて、全社でRPAを推進する役割を任されました。社外の研究会にも参加するなどして学び、新電力システムリリース時のロボットは私が1人で開発しました。
他社の事例をたくさん聞いてみて、私たちの場合には業務をよく知る担当者の手で作ってもらうことを基本方針としました。楽しく作れる雰囲気づくりやインフラの部分は、IT管理課でしっかりサポートしていきます。
RPAはクラウド型の製品を使用しているため稼働状況を可視化できますし、ロボットの登録はIT部門を必ず通るので野良ロボ問題も発生しません。
−どのような点で苦労しましたか。
松岡氏: RPAは新電力システムで作成した会計の仕訳データを基幹システムに登録するのにも使用しているのですが、弊社で採用したブラウザベースのRPAの場合、内部構造が複雑な基幹システムとの相性が悪く、クリックすらできないこともあり、以前は仕方なく座標指定で操作していました。
ただ、座標指定ではエラーが起こりやすいことも事実です。エラーを回避するために、今ではAZAREAで作り替えたシステムをロボットに操作させています。その相性がとてもよいため、まったく問題が起こらないまま運用することができています。RPAツールが解析しやすい、わかりやすいコードで書かれているのが理由です。
上中有紗氏(運営事業本部 事業管理部 新電力事業課): 実際に使ってみて、確かにAZAREA とRPAの相性のよさを感じます。AZAREAで開発したシステムを操作するロボットは複雑に作り込む必要がなく、「簡単な仕事を、簡単に任せられる」のでRPAを気軽に利用できるようになりました。
松岡氏: RPAは活用機会が増えるほど、成果を出してくれるソリューションです。AZAREAで新電力業界の制度変更に対応しつつ、RPAユーザー社員にとって操作しやすい状況をキープすることが、私の重要なミッションになっています
−上中さんと小林さんはユーザーの立場で、RPAの効果をどのように評価していますか。
上中氏: ロボットが処理している間に、他の仕事ができるのはいいですね。
小林氏: 時間に追われているとき、RPAで効率よく処理できるのは助かります。実績データを電力会社から取得できるまでは、ある程度日数がかかるのですが、月次処理の締め日が迫っているときには威力を発揮します。
また、Webの情報やリストを転記するような場合には、1行間違えて入力するようなミスが発生しやすくなります。そういう仕事がスムーズにできるのはロボットの強みだと思います。
松岡氏: 残業が発生するとミスも増えますし、特に重要な情報を転記して送信することが多い人事部門など、社内全体にRPAの活用を促しているところです。
もちろん時間の削減効果はありますが、今のところ時間だけを見れば限定的です。それよりも、限られた時間のなかで正確性を担保した処理ができることのほうが価値があると考えています。
−社内全体でのRPAへの関心や、取り組み状況はいかがでしょうか。
松岡氏: RPAの導入は新電力からスタートしましたが、営業、総務、人事など各部門が興味を示し、毎日のように問い合わせがきている状況です。製品開発部門では、情報収集などを行うロボットが稼働しています。
まだまだRPAの導入はこれからですが、数十名がロボットの勉強会に参加しましたし、集中トレーニングなども開催しており、今後は加速していくでしょう。
また、関心を持ってもらえるように社内でRPAコミュニティサイトも立ち上げました。そこで情報発信やノウハウを共有することで、ロボット作りが盛り上がるように期待してのことです。
−他に推進するために行っている施策はありますか。
松岡氏: 勝手にロボットを作り始めるのではなく、必ずIT管理課に相談してから着手してもらうフローにしています。現場で作るロボットが最適とは必ずしも言えないからです。Excelマクロにすべきといったツールの選択や、IT管理課や外部ベンダーがロボットを作成したほうがよいといった判断や助言を行います。できるだけ相談しやすいように、週に1回の相談会を開催するなど、効率化に取り組みやすい文化を作るよう心がけていますね。
また今後は、ロボットとの協働を正しく評価できる仕組み作りが必要になってきます。ユーザーの工夫により得られたRPAのメリットを、現場である社員の皆さんに還元してこそのRPAだと思うからです。ロボット作りもさることながら、組織や制度も確立するべきだという働きかけを経営層にも発信し、RPAによって社員がハッピーになれるようにしていきたいですね。
今回、ご取材させていただいた荏原環境プラント様が活用なさっていたシーエーシー社のAZAREAとRPAの組み合わせには大きなメリットがあった。
RPAのユーザーの中には「現在動いているシステムはRPAに向かない」とシステム開発会社に言われ、RPA導入を断念した方もいらっしゃるはずだ。アーキテクチャが古かったり、画面が複雑すぎたりといった、システム側の理由でRPAをあきらめざるを得ないケースは、確かにある。しかし、AZAREAを活用することで、この課題をクリアすることができる。AZAREAを利用してRPAに適したシステムを作り直すのだ。
作り直したシステムの画面は、人が使いやすい画面である必要はない。ロボットが入力しやすいロボットフレンドリーな画面であればよく、入力チェックや凝ったレイアウトは省くことができる。AZAREAでは、画面とソースコードが自動生成されるだけでなく、設計そのものも少なくて済むため、25画面(マスターメンテナンス画面18、トランザクション画面7)の開発工数を、スクラッチ開発想定の見積より4分の1に圧縮したすることができた例もあるとのこと。
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