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「1日10体」のロボット量産を実現する3つの仕組み――住友林業情報システムに聞く

» 2019年07月11日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が社内で軌道に乗りだし、胸をなで下ろしたのもつかの間。新たな課題として浮上してくるのが「どんなロボットが社内でいつ・何をしているのか」の把握だ。

別部署で開発済みと知らずにわざわざ同じロボットをつくるようなムダを避け、またロボットの“生みの親”が異動しても管理から漏れる“野良ロボット”が出ないよう、RPAの開発から運用、保守までの全社的なプロセスを効率的にまとめ上げる“マネジメントの仕組みづくり”は不可欠といえるだろう。

住友林業グループのIT部門としてシステム運用などを担う住友林業情報システム株式会社(千葉市美浜区)は、2015年からRPAを活用。現在「1日10体」という驚異的なペースでロボットを量産している。本稿では同社への取材をもとに、ここまで大規模な活用を可能にした独自の運用体制を支える3つの仕組みを紹介する。

■記事内目次

<目次>

1. 仕組みその1:画面遷移ごとにロボットを分割。開発成果は「部品化」で流用を容易に

2. 仕組みその2:変更の多い箇所をロボットの外で管理し、保守性を向上

3. 仕組みその3:RPAの推進と運用は、既存のITインフラを活用


仕組みその1:画面遷移ごとにロボットを分割。開発成果は「部品化」で流用を容易に

(左から)住友林業情報システム株式会社 ICTビジネスサービス部 シニアマネージャー成田裕一氏、同部 チーフ楠本正彦氏

独自の高度なロボット運用体系を確立し、社外からの視察も絶えない同社。取り組みを推進するのは、住友林業グループのデータ入力などを受託する「ICTビジネスサービス部」だ。

プログラミング未経験だった若手3人が、自身の業務の一部を置き換える形で始まったロボット化は現在、同部の4人が設計を行い、外部スタッフへ実装を依頼する分業制に移行。「1日10体」という驚異的なペースで導入が進んでいる。部外や社外を含む400以上の業務で稼働中のロボットは、合わせて3,000体近くに達する。

同部チーフの楠本正彦氏は「業務丸ごとではなく一部だけ、手作業1回が5分に満たないような工程も、要望があればロボット化しています」と話す。グループ従業員数が1万8,000人にのぼる大組織だけに、ロボット1体で「年間1万4,000時間相当」もの余力を生み出せるケースもあるが、決して“大物”だけを狙わず、わずかな効率化の積み重ねで着実に成果を広げていくことを重視しているという。

そうした姿勢の表れともいえるのが、ロボットの“数え方”だ。同社では、ロボットで置き換えたい一連の作業をひとまとまりにせず、作業中の「画面遷移」を区切りにして分割。細分化された各工程に、ロボットを1体ずつ充てる形で実装と管理を行っている。

意外なほど“小粒”なつくりのロボットたちを個々にみると、単純な構造にまで分解されているだけに汎用性が高い。しかもそれらの多くは、これまでの開発成果を分解・整理した「部品」の組み合わせでできている。

このため現在、ロボットの実装にかかる工数は「ゼロからカスタムメイドする方法との比較で、最大で5分の1にまで圧縮できている」(楠本氏)。しかも、そこへわずかな改造を施すだけで、共通の工程がある他の業務への流用もできる。

手元にそろえた部品で手早くロボットを組み上げ、それらをつなぎ合わせて大小問わず多様な業務に適応させる。試行錯誤を経てたどり着いたというこの仕組みが、高度で安定的な開発力のベースとなっている。

仕組みその2:変更の多い箇所をロボットの外で管理し、保守性を向上

同社におけるロボット活用の最初期から先頭に立ってきた成田裕一氏(ICTビジネスサービス部シニアマネージャー)は、その存在を知って5年目となるRPAについて「技術そのものはシンプルだが、とても奥が深い」と評する。

ITシステムの開発運用や、保守サポートの経験も持つ成田氏によると、同社が導入したRPAツール「BizRobo!」は、単体で不具合を起こすことがほとんどない一方、作成したロボットの試用中はたびたびエラーに見舞われるという。これは、同じ処理を行うロボットがたまたま同時に起動して競合するといった偶然や、接続先Webサイトの改修など外部の事情に影響を受けるためだ。

予測しきれないさまざまな要因から、ロボットは導入後も継続的なメンテナンスが必要となる。加えて、ロボットに任せたい作業内容そのものが変わることも珍しくない。

こうした事態に備えて同社のロボットは、あとで変更される可能性が高い箇所をロボットの「外」に置いている。具体的には、実行中に入力する数値などをロボットの内部に書き込まず、その都度別のファイルから読み込む設計としている。ロボットを直接カスタマイズするよりも簡単な、スプレッドシートの修正などで対応できる範囲を広げておく工夫だ。

「新しくつくるより、それを維持することのほうが大変なのはITシステムもRPAも同じ。だからこそRPAに取り組みだした当初から、保守にかかる負荷をできるだけ抑えようと努めてきた」と成田氏は振り返る。ロボットの「お守り」に終始せず、意欲的に新規開発を続ける同社の快進撃は、入念な準備のたまものだった。

仕組みその3:RPAの推進と運用は、既存のITインフラを活用

作業時間の短縮や夜間稼働によって時短勤務を容易にするなど「働き方改革」にも貢献してきた同社のロボットは、当初から目標としていた社外への提供も今春からスタート。「グループ内の業務効率化」から「事業化」へと新たなステージに入った。

少人数で支えてきたRPAの開発手法にも近く変更が加えられる。さらなるロボット化の加速に向けた、作成・運用環境の「全社開放」だ。

構想されているのは、BizRobo!を操作できる社員専用サイト「運用ポータル」の開設だ。ポータルを介することにより、ロボットを簡単に作成・実行できるようにするほか、確立された運用ルールに沿った一元的な統制が及ぶようにする。

社員専用の「運用ポータル」。ロボットの担当業務やステータスなどが一覧で確認できる

BizRobo!が強みとする集中的なロボット管理と、現場主体の自由なチャレンジを両立させようという意欲的なプロジェクトだ。

ここで注目すべきなのは、運用ポータルのユーザーインターフェースや、ロボットの稼働管理の仕組みを、定評あるツールの「合わせ技」でつくり上げる点だ。しかも、利用を予定する業務アプリ作成サービス「kintone」や、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)ツール「intra-mart」は、いずれも以前から社内で活用しているツールという。

intra-mart 「IM-LogicDesigner」にて作成されたロボットパーツの組立図

既存のITインフラを生かした同社のアプローチは、これが初めてではない。例えば、きめ細かく部品化されたロボットの管理には、BizRobo!標準の管理機能をあえて用いず、社内の商品管理業務で定着しているデータベースソフト「eBASE」が充てられている。

これらはいずれも、ロボット化という新しい取り組みを、少しでも早く社内に定着させるための現実的な選択といえるだろう。

「RPAは企業経営の基盤となるテクノロジーで、それだけに安定して動かすことが何よりも重要」と話す成田氏は、同時に「安定稼働は、単に費用をかけるだけでは実現しない。設計から開発、保守までを見通して、一貫したルールをつくることが欠かせない」と説く。

先駆者が見いだした手法に学んで仕組みを整え、ポイントを押さえた開発・運用が進められれば、「1日10体」の域に達することができるRPAユーザーは決して少なくなさそうだ。

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