世に先んじてRPAとOCRの連携に取り組み、業務効率化の効果を出したパナソニック ソリューションテクノロジー。その舞台裏には何があったのか。
RPA(Robotic Process Automation)の取り組みが多くの企業で進み、今後の展望としてOCR(光学文字認識)との連携をしたいというケースも増えてきた。そうした中、いち早くプロジェクトの当初からRPAとOCRの連携に取り組み、成果を出した企業がある。パナソニックグループ内でICT事業を担う中核グループ企業として、幅広いICTソリューションを展開するパナソニック ソリューションテクノロジーだ。
同社は、なぜRPAの効果を出せたのか。その背景には、情報システム部門を巻き込んだ、セキュリティやガバナンスへの熱心な取り組みや、社内向けのRPA説明会をはじめとする地道な活動などがあった。さらに、OCRを連携させることでRPAの業務自動化の効果をさらに引き出している。RPA+OCRを社内に展開するための土台を着実に作り上げているパナソニック ソリューションテクノロジーの取り組みに学ぶ。
パナソニック ソリューションテクノロジーは2017年末、かねてより検討していたRPAの具体的な導入プロジェクトを開始した。社内でのRPA活用の検討を始めるきっかけとなったのは、社外向けRPAソリューションの検討を行っていた事業部門から、間接部門に対する「試験的にRPAを導入してみないか」との打診だったと同社 調達課 課長 中野浩子氏は振り返る。
「事業部門では当時、『ROBOWARE』というツールを使ってRPAソリューションの評価・検討を行っていました。そこで、社内でもこれを業務効率化に役立てられないかという相談が寄せられました。私が当時所属していたセールスサポート部では、取引先企業から送られてくる注文書の処理業務を行っていたのですが、これをOCRとRPAの組み合わせで自動処理することで、業務を大幅に効率化できるのではないかと考えました」(中野氏)
従来、これらの注文書は、特定のメールアドレス宛てにメールに添付されたPDFファイルの形で届き、担当者が内容を1通1通チェックして営業担当に転送していた。受け取った営業担当者は受注システムに注文書の内容を登録し、さらに内容を確認・精査した上で最終的に受注伝票を完成させる。この一連の業務にOCRとRPAを導入することで作業を自動化・省力化し、工数を大幅に削減できるのではないかと見込んだのだ。
同社は数多くの企業との取引があるが、ある特定のグループ企業との取引が全体の2、3割を占めている。しかもその会社から送られてくる注文書のフォーマットは全て統一されており、OCRによる自動読み取り処理と極めて親和性が高かった。さらにOCRに関しては、同社はもともと自社製のOCR製品を開発・販売しており、豊富なノウハウを有している。
そこで、RPAがメールに添付された注文書のPDFファイルをダウンロードしてOCRを起動し、CSVデータに出力されたOCRの読み取り結果を、さらにRPAが受注システムに自動入力するという仕組みを構築した。簡易プロトタイプでのテストでは、確かな手応えも感じられたため、本格的な導入検討に至ったという。
社内への本格導入を検討する過程で、採用するRPA製品はそれまで評価していたROBOWAREから「UiPath」に変更した。背景には、RPAと自社システムとの相性の問題があったと、事業部門で導入作業を担当した同社 オフィスソリューション一部 事業推進課 二係 小倉侑也氏は説明する。
「RPAと連携する弊社の基幹システムの作りが少し特殊で、画像認識技術を使って操作の対象を把握するRPA製品との相性が悪く、システムの画面の構造を正しく認識できないといった問題が発生しました。その点UiPathなら、HTMLの構造も解析して画面の中の操作対象を正確に認識できるため、弊社の基幹システムと組み合わせても安定して動作しました」(小倉氏)
またUiPathは、ユーザー動作のレコーディングや、GUIツール上でのドラッグ&ドロップ操作だけで簡単にロボットを開発できる点が魅力的だったと小倉氏。ゆくゆくは、事業部門ではなく運用部門でロボットの開発やメンテナンスを直接行えるようにしたいと考えていたため、ノンコーディングで開発ができる点が同社のニーズと合致していた。
しかし、実際にロボットの設計・開発を行うに当たっては、「基幹システムを直接RPAで操作してはいけない」というパナソニックグループのルールが壁になったという。
そこで中野氏らRPAの運用部門の担当者と、小倉氏ら事業部門の担当者に加え、情報システム部門の責任者もプロジェクトに参画して、RPAを基幹システムと連携する際のガバナンスとセキュリティの確保に注力した。
「万が一、RPAが誤動作して基幹システムに過大な負荷を与えたり不正な情報を入力したりしてしまうと、グループ全体の業務に大きな影響を与えてしまいます。これを防ぐために情報システム部門がセキュリティやガバナンス面のチェックを厳格に行うということで、RPAとの連携を認めてもらえました。今回RPAの連携対象となった受注システムは、弊社内に閉じたシステムだったことも幸いしました」(中野氏)
具体的には、情報システム部門の担当者を交えて要件定義やテスト項目などのレビューを慎重に行うことで、基幹システムを安定的に稼働できるようにした。また、もしロボットに異常が生じたり停止してしまったりした場合は、人手によるリカバリープロセスを走らせられるよう、人が待機していない夜間にはRPAは稼働させないというルールも設けた。
さらにセキュリティ対策に関しては、ロボットの不正利用や改ざんの防止に注力したという。
「RPAが操作をするのは、お金を扱う基幹システムなので、ロボットのシナリオが改ざんされて、金額が不正に操作されるようなことがあっては大きな問題に発展します。こうしたリスクを考慮して、シナリオの変更は運用部門では行わず、必ず事業部門に申請をした上で、事業部門側で作業を行う運用としました」(中野氏)
開発も順調に進み、本番導入の直前には、RPA活用によって業務の運用に変更が生じる営業部門向けに、説明会を実施した。そこで思わぬ“ダメ出し”を突き付けられたという。
「営業部門の中には、想定したよりも自動化できる業務の範囲が少ないという印象を受ける者もいたようです。『この仕様だと使えない』という声も幾つか上がり、これらの要望を反映するためにシステムにさらに手を加える必要が生じました。今から思えば事前に各営業部門にヒアリングをしておけばよかったのかもしれません」(中野氏)
社内説明会でのフィードバックを受けて、事業部門から営業部門へ積極的にヒアリングを行い、3カ月間かけて改修作業をした後、ようやく本番稼働を迎えることができた。結果的には、指摘を受けたおかげで使い勝手の良い仕組みを実現できたと振り返る。
稼働開始直後から早々に効果も表れた。従来、注文書のメールをチェックして各営業担当者に転送する作業を担っていた従業員は、全労働時間のうちの約3割を作業に充てていた状況から、OCR+RPAの導入によってこの作業が一切不要になった。空いた工数を、人手が不足している他の業務に回すことで、部署全体の残業時間が減って働き方改革の効果が表れているという。
また、保守営業部門においても業務効率化の効果が明確に表れていると、同社 セールスサポート部 セールスサポート一課 三係 係長 卯野新司氏は話す。
「保守サービスの注文書は3月末(年度末)に集中して届くため、例年その時期の保守サービスの営業部隊は注文書の処理に追われて残業が続いていました。しかしOCRとRPAで業務自動化を実現したことで、残業時間が大幅に削減できています。体感ですが、1人当たり2〜3時間くらいは早く帰れているのではないでしょうか。全員の作業時間短縮の効果を合算すると、1カ月当たり39時間の時間短縮の効果を得られています」(卯野氏)
現時点では、ロボットの開発・改修作業のほとんどを事業部門が担当している。しかし、今後ロボットが増えることを想定すれば、全ての作業を事業部門でまかなうことは現実的ではない。現在は、開発や改修作業をRPAを利用するそれぞれの部門に移管すべく、取り組みを進めているところだ。
「事業部門は社外の顧客向けソリューションの仕事も担っていますので、社内向けの開発やサポートに多くの時間を割くことができません。RPAを利用するそれぞれの部門にロボットを開発できる資格を持った担当者を置きたいと考えています。やはり業務のことを最もよく知る業務現場の方が、自らロボットを開発した方が業務ニーズに即した仕組みを実現できますから」(小倉氏)
具体的には、各部署でロボット開発の適任者を選び、UiPathの研修とeラーニングを受講してもらう。開発のスキルを身に付けた担当者に、所属する部署でのロボットの開発やメンテナンス作業を任せる方針だ。もちろん、事業部門は都度サポートを行う。既に調達部門では業務現場の担当者による開発体制がスタートしており、今後は全社で30人ほどの有資格者を育成したいとしている。
これと並行して、受注作業以外の業務でもOCRとRPAの仕組みが役立てられないか検討を進めており、既に幾つかの候補が挙がっているという。
「例えば見積もり依頼の業務などは、帳票のフォーマットが統一されているため、OCRとRPAの仕組みに乗せやすいのではないかと考えています。また現在はロボットの台数が少ないためデスクトップ型のツールで運用していますが、将来的にロボットの数が増えてきた場合は、サーバ型の仕組みに切り替えて集中管理体制に移行することも視野に入れています」(卯野氏)
こうして社内における適用範囲を広げていくとともに、今回の導入プロジェクトで得たノウハウを今後は社外の顧客向けソリューションにも生かしていきたいと卯野氏は抱負を述べる。
「OCRはどれだけ技術が進化しても『認識率100%』にはなりませんから、認識できなかった分をどう扱うかによって使い勝手や効率が大きく変わってきます。自社での導入で培ったノウハウなども生かして、製品や技術以外の面でもお客さまの業務をバックアップできればと考えています」(卯野氏)
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