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「KAIZEN」し続ける体質づくりを目指して――リコーの社内デジタル革命(前編)

» 2019年09月10日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

高い技術力を誇り、ものづくりで世界を驚かせてきたニッポン。だが、昨今では製造業のシェアや生産性、技術開発力の低下が指摘されている。ホワイトカラー中心の企業では、幸いなことにデジタルレイバーが救世主として現れ、生産性向上に光が見えてきた。しかし、すでに機械化やプロセス改善を突き詰めてきた印象のある製造業に、新たな打ち手はあるのだろうか。

そんな懸念を払拭する、注目すべき取り組みを進める企業がある。オフィス向け複合機をはじめ、光学やプリンティング技術を核とした事業をグローバルで展開する株式会社リコーだ。リコーグループでは、本社の間接部門にとどまらず、物流や販売、さらには開発や設計など、あらゆる領域でロボットが稼働。半年で100以上のロボットを完成させ、グローバル展開も進めている。

前編では、リコーグループにおける取り組みの考え方や、アプローチを中心に紹介する。

■記事内目次

1.現場の困りごとを自分たちで解決する活動。

2.CEO室を中心に、現場の活動を支援する仕組みを構築。

3.グローバル展開では現地CoE立ち上げが効果的。1週間で自走開始。

4.コア業務でもロボット活用が本格化。


現場の困りごとを自分たちで解決する活動

−まず、リコーグループでRPAを導入した背景を教えてください。

浅香孝司氏(本社事業所 CEO室 室長 プロセス改革PT リーダー): 前提として、全社的な「社内デジタル革命」を推進しており、そのひとつがRPAを活用した業務プロセス改革という位置づけです。すべての分野を対象に全員参加型で進めていて、地域も日本だけでなくグローバルが対象となっています。

リコーの目的は「KAIZEN」し続ける体質づくり、つまり現場の課題解決にあります。自分たちでロボットを開発して、自分たちが困っていることを解決してもらう活動です。そのため現場レベルでは、投資対効果の大小を気にせず取り組んでもらいます。なぜなら、投資対効果が見込めるのなら、すでにシステム投資されているはず。現場が困っている領域というのは、そこにあるわけです。効率化も大事ですが、緊張や単純作業によるストレスから解放することが重要だと考えています。そして、月に1度しかできなかった仕事が毎日でもできるようになるため、さらなる改善につながるデータ活用頻度や活用方法の変革も狙っています。

本社事業所 CEO室 室長 プロセス改革PT リーダー 浅香孝司氏

だからこそ、機能や範囲を限定していません。すべての分野とは、本社の経理や人事といった間接業務はもちろん、事業企画や設計、生産技術といったエンジニアリングチェーン全体、受注や製造のほか販売やサービスにいたるまでのサプライチェーン全体と、本当にすべての機能を指しています。

石原慎司氏(テクノロジーセンター 品質技術本部 安全・環境センター 製品安全技術室 :安全技術開発グループ 兼 製品安全グループ): たとえば製品の開発段階では、電気・電子部品の発火試験を実施しているのですが、繰り返し作業で負担も大きく、効率もよくなかったのです。以前に自動化できないか検討したものの断念しましたが、RPAで実現することができました。自分たちの困りごとを、ロボットを使って自分たちで解決した事例のひとつです。

−アプローチとしては、トップダウンとボトムアップの両方という理解でよろしいですか。

浅香: そうです。この活動はボトムアップの活動なのですが、環境だけを整えて、さあやってくださいではなく、ボトムアップの活動が加速するようなトップダウンの仕掛けと合わせて活動しています。これは、短期間で結果を出すために、大切な進め方だと考えています。

RPA導入は、この1年での取り組みなのですが、当初の半年間に国内で100以上のロボットが完成しました。2019年3月末時点の数字をご紹介すると、グループの国内11社と海外12社で導入し、60プロセスでRPAが可動し、年間にして16000時間の削減効果が出ています。

テクノロジーセンター 品質技術本部 安全・環境センター 製品安全技術室 安全技術開発グループ 兼 製品安全グループ 石原慎司氏

CEO室を中心に、現場の活動を支援する仕組みを構築。

−具体的に、どのような「仕掛け」があったのでしょうか。

浅香: この取り組みは、誰のための、誰による、何の活動なのかを明らかにして、それをトップである社長がビデオメッセージで全社に発信しました。

活動の動きが伝わるプロモーションは重要で、方針を打ち出した翌日には啓発ポスターを掲示しました。RPAのキャラクターを作り、社内報でマンガを交えた特集を組み、「RPAとは」が誰でもわかるようにするなど、今までとは違う何かが始まると、参加してみたくなるようなきっかけ作りを意識しました。

すそ野を広げる活動も欠かせません。半期に一度の社内事例共有会や、教育を受ける機会、ポータルサイトの充実やコミュニティづくりなど、RPAを堅苦しくない身近なものとして受け入れ活用できるような工夫を行っています。

−組織体制についても、教えてください。

浅香: 全体を仕切るのは、私が所属するCEO室です。組織横断で中心となって活動するCoE(Center of Excellence)として、現在はIT経験者を中心に4人の専任担当がいます。ただ、困っている当事者も、現場のことを一番わかっているのも、改善のアイデアを持っているのも現場ですから、基本的にはサポートする立場です。例外としては、難易度の高いものや特に信頼性が必要なもの、内部統制上の懸念があるものについては開発も担当していますが、これも基本は現場と一緒に作っています。一緒に作ることで現場との信頼関係を築きつつ、難易度の高いものにチャレンジすることで、現場より常に高い技術力を持ち続ける、ということを狙っています。

本社のCoEには、主要な7事業部から一人ずつ選ばれた「キーパーソン」が兼務で参画しています。事業部での推進役であり、自動化の対象を集約する役割も担います。

現場主導で活動を進めていくと、当然全社共通で使えそうなロボットが出てきます。同じものを部門でまたがって使うには、役職者を集めた説明会を開催することも効果的ですね。

現場レベルでは部門固有の業務だと思っていても、部長の目線で見れば細かい違いに過ぎないこともあり、共通化する判断が下せます。社内事例を紹介したら、「そのロボットがほしい」という声が上がることもありますね。出席率もかなり高く、RPAの説明をするとポジティブな反応が大半で、踏み出す意識は高いです。

グローバル展開では現地CoE立ち上げが効果的。1週間で自走開始。

−地域を限定しない活動ということですが、どのようにしてグローバル展開したのでしょうか。

浅香: 欧州、北米、APAC、それぞれ違いがあるので、日本のCoEが持つアセットやリソースを活用して、現地でCoEを立ち上げる支援を行いました。具体的には、ロボット開発スキル、業務プロセス改革で必要な可視化と改善のスキルを習得するためのOJTを、5日間のパッケージとして展開していきました。このアプローチでは、OJT後すぐに各拠点が独自に進み出し、各国内での関連会社にも浸透していきます。

−グローバル展開を視野に入れたことは、RPAソリューションの選定にも影響しましたか。

浅香: UiPathを選定したのですが、グローバル拠点で同じ活動ができることは重要視しました。他には、ユーザーフレンドリーなUIで、ノンITでも作れる難易度であること。また最初は個人の仕事の自動化から小さく始め(Attended Robot)、複数のプロセスにまたがり(Orchestrator)、更には無人での実行 (UnAttended Robot) と、小さくはじめ、大きく育てる事ができる商品のラインアップもポイントになりました。

コア業務でもロボット活用が本格化。

−現在までのところ、活動がとても順調に進んでいる印象を受けました。ここまでを振り返って、成果が出た要因は何だったのでしょうか。

浅香: 活動をリードするCoE体制を早期に構築したこと、導入目的を明確化したこと、社員が取り組みたいと思える仕掛を作ったこと、この3点が結果につながったと考えています。

ただ、まだ始まって1年ほどの活動ですので、これから顕在化してくる課題はあるはずです。特に今後の課題となるのは、継続性の担保です。止まらないRPAはありません。なかでもCoEが担当する難易度の高いロボットは、トラブル時の影響も大きく、業務を継続できるように備えておく必要があります。ロボットが停止したときの対応方法をドキュメント化するだけでなく、その対応を手で実行できるように定期的な「避難訓練」も有効だと考えています

−施策や取り組みの進め方において、どのような展望や計画がありますか。

浅香: 直近では、ロボットの作成実績にもとづいた、社内認定制度が始まろうとしています。リコーでは、この春から社内副業制度が開始されたこともあり、特に4段階の最上位「プロフェッショナル」認定者には、自組織のカイゼンだけではなく、他の部門のカイゼンに取り組むなど、これまで以上にロボット開発をリードしてもらいたいですね。

これまでの取り組みで、思った以上に多くの場面でロボットが使えることを実感しています。事実、活動を始めた当初は間接部門における、各社員のパソコン内に閉じた活動が中心でしたが、複数のシステムをまたぐ自動化や、事業のコア業務でのロボット活用が本格化し始めています。現場が主役の活動ではありますが、十分にサポートできる体制を、専任者を増やすなどして強化していきます。

−後半では、石原氏が行った発火試験の自動化事例や、ロボットの管理方針などについて紹介する−

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