ある中小規模の製造系企業は、受注案件の製造進捗(しんちょく)と予実管理に悩んでいた。経営に必要なデータである原価率や粗利をリアルタイムに把握できず、かといってパッケージシステムを導入しようにもコストがネックだった。選んだ解決法とは。
社労士業は業務の性質上、課題を顕在化するために顧客の経営課題に深く入り込んで話を聞きます。その折に、業務上の課題に関する悩みを相談されることもしばしばあります。第2回は、クライアントから相談を受けた実例を基に、業務改善法について説明します。
ある中小金属加工メーカーの案件を担当したとき、次のような収支管理に関する相談を受けました。
経理部門、技術部門、製造部門など複数部門の業務に関連する営業の受注案件情報をExcelシートで管理していた。ところが、管理するExcelのフォーマットが部門によって異なり、同一情報の重複管理や重複入力といった問題が発生し、全体の業務効率を低下させる要因となっていた。また、案件の進捗(しんちょく)管理や予実がリアルタイムで確認できないため、コストアップで想定利益を下回りそうな案件が発生しても早期に発見できない。利益率の確保に不安があった。業務パッケージを導入することも検討したが、初期費用とランニングコストがネックで手をこまねいていた。
この企業の問題点は、製造案件情報とそれぞれの進捗状況がリアルタイムで見えないことにより収支予測が困難だったという点です。そこで、案件ごとの進捗とそれぞれの粗利率がひと目で確認できるよう「案件管理アプリ」と「製造進捗管理アプリ」を開発しました(図1、図2)。
案件管理アプリでは、それぞれの案件に対して「見積金額」と「粗利金額」「粗利率」を一覧に表示し、原価がかかり過ぎている案件をすぐに発見できるよう予算の上限に近づいた案件は担当者や管理者に通知されるようにしました。現場へのリリース後も、機能を追加しながら業務を合理化していくことで、不要なコストを低減し営業利益を大きく伸ばせたようです。
仕入れ値や工数の変動によって原価率は常に変化します。工数が膨らまないためにも、リアルタイムでプロセスごとの進捗と予実を管理し、利益率を常に意識することが必要です。その工夫として、製造進捗管理アプリでは製造プロセスごとの進捗状況をひと目で追えるよう、完了したプロセスを色付きのフィールドで表示するようにしました。こうして従業員が利益率を常に意識できる環境を作ることで、営業利益を改善することにもつながります。私の経験では、こうした工夫で営業利益が倍増したというケースもあります。
生産管理システムやERP、CRM(顧客関係管理)ツールなどを導入するのと比べて、初期費用もランニングコストも軽いため、小規模の飲食店や小売店などにもフィットするアプリ開発の方法ではないでしょうか。
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