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「RPA×AI」を経て到来する「RPA by AI」の時代──「RPA DIGITAL WORLD OSAKA 2019」講演レポート

» 2019年12月12日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をテーマにした国内最大規模のイベント「RPA DIGITAL WORLD OSAKA 2019」(RPA BANK主催)が2019年11月22日、大阪市北区のコングレコンベンションセンターで開かれ、1,077人の来場者が訪れた。

同イベントの大阪開催は、前身である「RPA SUMMIT」以来2年ぶり。この間にRPAは主要な大企業での導入が一巡し、活用規模とユーザーの裾野を広げる「普及期」に移行した。従来の組織構造と、そこで働く人のマインドセットに変容を促しつつ、デジタライゼーションのさらなる深化が迫られる状況下で行われたこの日の12講演では、変革の最前線に立つ識者・実務家の知見と展望が共有された。

本記事では、このうち基調講演の2セッションをピックアップ。一足早く「RPA普及後」の社会を展望したサイエンス作家の竹内薫氏・人工知能研究者の山田誠二氏(国立情報学研究所教授・総合研究大学院大学教授・東京工業大学特定教授)による発言要旨を紹介する。

■記事内目次

  • 1.「仕事の消滅」は不可避。生まれた余力で人間は「探究」にシフトする──サイエンス作家・竹内薫氏の未来予想
  • 2.「AIがRPAを実装するまで、あと数年」──AI研究者・山田誠二氏が示す、未来型RPA活用の条件

「仕事の消滅」は不可避。生まれた余力で人間は「探究」にシフトする──サイエンス作家・竹内薫氏の未来予想

科学に関する難解なトピックを解きほぐす著作活動で知られる竹内薫氏はこの日「未来に勝ち残る企業になるため〜デジタライゼーション時代に求められる企業とは」との演題で、デジタル社会のトレンドを概観。未来の企業人に求められる資質について持論を語った。

サイエンス作家 竹内薫氏

テレビ出演も多い竹内氏は、衛星測位の精度向上と通信規格の大容量化で用途を広げる遠隔操作や、「既存のコンピューターの能力を超えた」とするGoogleの発表で注目された量子コンピューター、「触れそうなほどにリアル」な解像度で医療への応用が進む8K映像といった最先端テクノロジーを、自身の見聞も交えて整理した。

こうしたテクノロジーの普及が人間社会にもたらす影響について同氏は「遠隔地間を飛び交う爆発的な量のデータをコンピューターが処理することで、人は旧来の退屈な仕事から解放される一方、見えにくいところからどんどん仕事が消えていく」と説明。長らく人海戦術を採っていた「宅配便の荷物仕分け」が無人化を達成しつつあるのに続き、同様の動きが今後各所で活発化していくと予測した。

メディアの中心がスマートフォンに移った現在「かつて一様に紙媒体を活動の場としていた作家業は多様化し、生き残る条件について同業者と話すこともある」と明かした竹内氏は、どの時代にも必ず何らかの仕事があるため「そう悲観的になる必要はない」と発言。ただ同時に「個人レベルでは『新たに何をやるか』が非常に重要であることも確か」と述べた。

この点について考察を掘り下げ竹内氏は、人間の能力をはるかに超えるテクノロジーが現れても「人間の限られた能力の中で頑張る芸術やスポーツは、むしろ面白さを増していく」と予想。加えて「対人的なコミュニケーション」や「臨機応変な対応」でも、引き続き人間が優位性を発揮できると述べた。

さらに同氏は、決められたパターンで作業を自動実行するRPAや、パターンの学習結果をもとに判断・予測を行うAIが高度化した社会では、それらの活用を前提に、今後あるべき姿を「探究すること」が、人間の主な役割になっていくと説明。知識の習得に偏重してきた近現代の教育制度を、早急に調査・議論・発表スキル重視へ切り替えるべきとした上で「探究重視へ移行するにも、探究を実践するにもリソースが必要。それを捻出するための生産性向上をもたらすのがRPAとAIだ」と強調した。

進化するテクノロジーを人間への脅威と捉えず、むしろ積極的に新時代をたぐり寄せるツールとして使いこなす「逆転の発想」を説いた竹内氏に、会場からは共感の拍手が盛大に送られた。

「AIがRPAを実装するまで、あと数年」──AI研究者・山田誠二氏が示す、未来型RPA活用の条件

「AIは60年前からある古い技術。近年はコンピューターの能力向上に伴う成果が目覚ましく『あと数年で、何をやっても人間の能力を超える』と言う人もいるが、実際はその兆候すらない」

AIを中心に「機械と人の役割分担」を研究している山田誠二氏(国立情報学研究所教授・総合研究大学院大学教授・東京工業大学特定教授)はこの日の壇上、一部の経済人らがAIに投影している“幻想”を、専門的見地から明確に否定した。

国立情報学研究所教授・総合研究大学院大学教授・東京工業大学特定教授 山田誠二氏

その一方で同氏は、現在もっぱら人間が担うRPAの実装プロセスについて「RPAで使える諸機能と、実現させたい目標状態、さらに作業前の初期状態を指定すれば、実行すべき具体的な手順はAIで探索できる」と発言。これは「原理上、ソフトウエアロボットの作成と管理が自動化可能なこと」を意味するとした上で「おそらく5年から10年後、早ければあと2、3年で、そうした技術が実際に出てくる」との予測を示した。

常態化するRPA技術者不足を補う人材育成に目下多くの企業が力を注ぐなか、山田氏の予測は衝撃的とも取れる内容。RPAとAIの接点についても、現在話題の中心を占めているのはOCR(光学文字認識)への応用であり「ロボットの実装をAIで自動化する」という発想が聞かれることはまれだ。

同氏は、自らの予測の根拠として、RPAが「閉じた世界の中で、内容が変わらないデータを扱う場面が多い」ことを指摘。こうした条件下では、想定外の事態が起こる屋外環境などよりもAIの性能を生かしやすいため「応用で先行する自動運転以上に、RPAはAIの得意分野となりうる」(同)という。

もっとも山田氏は、滞った工程より先に進めないRPAの「タスク依存性」と、工程の起点であるオフィスの現場では細部の変更が絶えず生じている実情についても併せて言及。その上で「RPAはいわば『一般向けのプログラミングツール』。RPAを使える現場の人間が、ちょっとした変更対応の修正を担えば、あとはAIによる自動プログラミングと“すみ分け”ができる。ここで余剰時間を生み、人間がすべき他の仕事の能率を上げていくのが理想的だ」と述べた。

RPAとAIの「併用」にとどまらず、両者が融合したソリューションと人間による「協働」に至るという近未来の企業像を描き出した山田氏。こうした将来も見据えつつ、今から着実にRPA活用を進めたい参加者に対しては

  1. RPAに加え、自然言語に近い文法で高度な機能が実現できる「スクリプト言語」(Python、JavaScript、PHPなど)の修得者を増やし、現場でのプログラミングを推進する
  2. 無料ツールや試用版などを活用し、RPAツール導入の費用対効果をユーザー側で見積もれるスキルを身につける
  3. RPAを長期的に活用できるよう、AIの採用に積極的なRPAベンダーを選ぶ

ことを推奨し、刺激に満ちた40分のセッションを締めくくった。

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